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【歴史本の山を崩せ#006】『大日本帝国最後の4か月』迫水久常

ポツダム宣言を受諾して連合国に降伏。
アジア太平洋戦争を集結させた鈴木貫太郎内閣の内閣書記官長(内閣官房長官の前進)をつとめた迫水久常の回顧録です。
タイトルのとおり、終戦内閣の4か月を振り返った終戦史の古典とも評される一冊。

迫水自身の回顧が中心ではあるものの、他の当事者たちの回顧録も多数引用されていて、非常に読み応えがあります。
戦中から「革新官僚」としてもてはやされ、書記官長としての経験もある迫水の文章は非常に読みやすいです。
ドキュメンタリーとしても十分に読むことができます。

鈴木内閣の成立が4月。
事実上、政府として終戦へむけた方向性が決定したのが6月。
実際に終戦を迎えたのが8月でした。

もっと早く降伏していれば広島、長崎への原爆投下はなかったのではないか?
上記の時系列をみるとそのとおりにみえます。
しかし、現実にはできなかった。

なぜ、できなかったのか?
当事者の証言は、当時の日本国内の状況がそれを困難にしていた有様をリアルに描きます。
安直に降伏を決定すれば、軍部が反乱を起こす可能性があり、クーデターが起こって軍部による政権が出来てしまったら、もはや降伏という選択肢はなくなってしまう。
日本全土が「玉砕」を迫られ、負けることすら出来なくなってしまう。

政府と軍部の緊張感溢れるやり取り。
最後の最後まで綱渡りの状態であったことが伝わってきます。

終戦にむけて難しい舵取りを担った鈴木貫太郎首相、阿南惟幾陸相、米内光政海相、東郷茂徳外相、そして昭和天皇。
また、終戦にむけて迫水の岳父である岡田啓介元首相が果たした役割など、当事者だからこそ語りうる貴重な逸話も満載です。

当事者の回顧録ということで、主観的であり、自己弁明的なところもなくはないです。
それでも、終戦史の一幕を伝える史料・ドキュメンタリーとして白眉の一書といえるでしょう。
半藤一利の『日本のいちばん長い日』と一緒にどうぞ。

『大日本帝国最後の4か月』
著者:迫水久常
出版:河出書房新社(河出文庫)
初版:2015年(オリジナル版:1973年)
定価:980円+税

※【歴史本の山を崩せ】は毎週水曜日更新

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