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【歴史本の山を崩せ#004】『則天武后』氣賀澤保規

始皇帝からラストエンペラーまで。
中国では二千年以上の間、数百人もの皇帝が誕生しました。
そのなかで唯一人だけ女性の皇帝がいます。
則天武后、その人です。

色々な評伝を読んできましたが、この本はお気に入りの一冊です。
何度読んでも面白い。
主役である則天武后自身もさることながら、彼女を取り巻く個性的な登場人物たち。
生々しくもドラマチックな権力闘争。
文章のリズムがよくて歴史小説を読むかのように読めてしまう。

読み物としてだけではなく、歴史学の本としての面白さも兼備。
主役こそ則天武后ですが、その存在を歴史のなかに位置づけることで、彼女が生きた時代背景を浮き彫りにしてくれます。
則天武后が本格的に登場するのはなんと第六章から。
隋王朝が滅び、唐王朝が成立する過程もしっかり描かれています。
中国史上唯一の女帝はいかにして生まれたのか?
それは偶然だったのか、必然だったのか?

この本では則天武后死後、いくつかの事件を経て、李隆基の登場を以て物語を閉じます。
李隆基こそは李白、杜甫が活躍した治世を築き、楊貴妃とのロマンスで有名な玄宗です。
唐代初期を概観するのにも優れた一冊ともいえます。

第一章は則天武后の生年に関する若干入り組んだ考察になっているので、少し難しいと感じたら第ニ章から読んでも大丈夫です。
第ニ章から大河ドラマがはじまります!

女性の身で皇帝に就いたことから、中国では「悪女」と評価されることが多い則天武后。
権力のために確かに肉親を手に掛けたり、敵に対して残忍な方法で死にいたらしめるなどの悪行を行ったことは事実です。
しかし、彼女が行った政策、社会背景に照らし合わせ、他の皇帝とも比べてみたらどうでしょうか?
激しい気性を持った烈女ではありますが、絶対的な悪女とも言い切れないことがわかります。
歴史において善か悪かで割り切れるほど簡単な人物はいないことを知って欲しいですね。

『則天武后』
著者:氣賀澤保規
出版:講談社(講談社学術文庫)
初版:2016年(オリジナル版1995年)
定価:1180円

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