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【歴史本の山を崩せ#005】『曹操』三国志学会

曹操(そうそう)―

いわゆる三国志の三国のひとつである曹魏王朝の礎を築いた人物です。
中国史に興味がなくても「名前は聞いたことはある」という人も少なくないのではないでしょうか

一代で王朝の基礎を築き上げた政治的・軍事的才能はもちろん、詩人としても名高く、兵書に自ら注釈を施すなどマルチな才能を持つスーパーマン。
例えば現代日本でもビジネスマンに愛されている『孫子』。
この兵書の底本となるテキストは他でもない曹操が注釈を施したものです。
歴史書『三国志』では「非常の人」…常識では計り知れない人と評価されています。

日本でもっとも名が知られている三国志の研究者といえば渡邉義浩さん(本当の専門は漢代の儒教なんですけどね…)。
その渡邉さんが事務局長をつとめる三国志学会が監修をつとめる14の小論文集です。
研究者の小論文と聞くと小難しそうに感じるかもしれませんが、三国志好きだったり、歴史好きならば専門家でなくても十分面白く読めます。
内容は充実していて、多様な顔を持つ曹操の姿を最新の発掘史料や研究の成果をもとに描き出しています。
特に曹操が著したといわれる料理本について、一般向けの三国志本で本格的に触れたのはこの本がはじめてではないでしょうか。
三国志ビギナーだけではなく中級者以上でも楽しめます。

一本一本の論文は完全に独立しているので目次をみて気になるものだけ拾い読みしても大丈夫。
中国史では一代で王朝の基礎を築いたような人物は他にもいますが、詩を作り、料理まで研究するようなマルチな才能をもった者は見当たりません。
日本人に愛されている『三国志演義』をもとにした三国志ものではラスボス的ポジションで悪の親玉として扱われがち。
漫画『蒼天航路』以降、そうしたイメージ(蜀漢政権を主役とした物語)から離れて、三国志を見直すムーブが力強さを増してきました。
主役を置き換えれば見える風景が変わってくる。
歴史学の面白さです。

『曹操』
監修:三国志学会
出版:山川出版社
初版:2019年
定価:1500円+税

※【歴史本の山を崩せ】は毎週水曜日更新

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