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竹美映画評73 結婚、家族、キャリア?『Tu jhoothi, main makkar』(2023年、インド(ヒンディー語))

ランビール・カプール!そっち方面が絶対いい。

『Pathaan』大ヒットでほくほく顔であろう、YRF(ヤシュ・ラージ・フィルムズ・配給)が次に投入した大作はこちら!「Tu jhoothi, main Makkar』(意味は、君は嘘つき、僕は詐欺師、みたいな感じ)。ランビール・カプールとシュラッダー・カプール(別に親戚じゃないみたい)が主演するラブコメディ。

お話:実業家かつ「カップルを別れさせる仕事」をしているミッキー=ロハン(ランビール・カプール)は、親友マヌの妻の友人ティンニ(シュラッダー・カプール)に一目ぼれ。色々とアプローチをしているうちにティンニの方もミッキーを好きになり相思相愛に。さあ、結婚するぞとなった途端、ティンニの顔が曇る。直後にミッキーの「別れさせる業」のスマホに「私、彼氏と別れたいの!」とティンニから電話が。ミッキーは知らないふりをして彼女の別れをお手伝いするが…。

昨年、上記のようにランビール・カプールの使い方について疑念を持った身としては、こういう軽くてちょっと辛気臭いコメディに彼が出て来てほっとした。やっぱりこっちがいいよこの人。表情もセリフも身体の動かし方も上手いし、私のタイプとは言えないものの、観るものの心を掴むスター俳優だ。

彼の演じるミッキー=ロハン(インド名以外に英語名を名乗るってのがまたいらっとするから好き💛)は、お金持ち一族のボンボン(お似合い!)で、自分の事業の片手間に別れさせ屋をやっているというチャラ男。どういうわけかティンニに惚れ込み、インド男らしくド直球で猛烈アタックをする。一方彼は、でっかい家に親族一同仲良く楽しく住んでおり、そこに何も疑問を抱いていない。ここがポイントになる。尚、(物語にとって)都合のよいことに父親は既に他界、母親や祖父母、姉たちと暮らしているので楽々だ。

シュラッダー・カプール、相変わらず幸薄子(さち・うすこ)!!!

シュラッダー・カプールは、私はもともと何か好きなんだけど、理由は、日本の木村多江、韓国のハ・ジウォン、アメリカのブレイク・ライブリー、マイカ・モンロー(後から追記)という、幸薄そうな役が似合っちゃう女優たちの系譜に入っているからなの!彼女を最初に観た作品がこちら!『スタァ誕生』インド翻案作品の『Aashiqui 2』!

主題歌はじめ歌は非常ーーーによくて、私も最初にヒンディーポップスって素敵だなと思ったのはこの映画の『Tum hi ho』とか聴いてから。私がカラオケなら唯一歌えそうなのが『Tum hi ho』よ!辛気臭い製作者の貧乏苦労フェチが疑われる韓流ドラマを思わせるいい曲なの…

尚映画の内容に関しては、シュラッダー・カプールがひたすら不幸を耐え忍ぶ女を演じている。落ち目歌手男(おちめ・かしゅおとこ、って妖怪の名前みたいね)を支え、結局支えきれず男は死に、女はその思いを胸にまたステージへ…んなわけねえだろ!!!と一部からは不興を買った作品。音楽はいいんだけどねーって。

さて本作のシュラッダー・カプールの不幸ポイントは、惚れた男が家族志向だったこと。それだけなのだ彼女が結婚したくないと思ったのは。劇中、「私は自分のプライベートが欲しいの。あなたは家族と一緒にいるのが当たり前だと思っているけど、私はそういうタイプじゃないのよ」と言う。そして、結婚しない=もう別れるしかないのだ。今中間層から上の特に問題のない若い男女が付き合うということは、そのまま結婚を意味し、結婚しないという未来はあり得ないのだということが彼女の曇った顔から分かる。好きなのに…。別れるの、理由は何も言わずに。彼を傷つけたくないの。そういうやさしさ!!!それがシュラッダー・カプールの薄幸っぷりに磨きをかけるのだ。彼女は、強烈な顔の多いインド映画界において、珍しく控え目で優しい顔つきをしているのでそういう役ばっかりなのか。薄幸子女優の折り返し地点、ホラー映画で女幽霊役も経験済よ!!!彼女は『フライング・ジャット』でも、変なかっこしたヒーローにとち狂って押しかけて来る本人役をやっていて、何か好きなの。ひたむきになる方向を少しだけ間違えている感じが…。

そもそも「別れさせ屋」は、そういう、特に別れる理由が無いけど結婚はできないから別れよう、という面倒くさい部分をアウトソーシングする仕事であろう。

家族のもののあはれ。辛気臭いったらありゃしない!!でも好き!!!

作中で、別れさせ屋の仕込みの形で、詐欺師であるミッキーは嘘をつく。婚約式直前、仕込みで偽の転職情報を流し、ティンニはよりいい仕事のためにバンガロールに行くと言い出す。彼らはデリーに住んでおり、バンガロールに行くということは、(ティンニの想像では)ミッキーは、それじゃあ結婚できないじゃないかと怒り出し、結婚はできなくなるだろうと思われる。ミッキーは言う。「何で僕に相談しないで勝手に決めるんだ!君はデリーにいなきゃいけないし、勝手に決める権利はない」みたいな、男上位のセリフを感情的にまくしたてる。そこがまたよくできていた。面白いのは、彼自身はそれは本意ではないセリフとして、一般にキャリアを追求したいと言っているだけ(だって男性なら女性が付いていくと思うんでしょう?)の女性に対して最後通牒のようなことをまくし立てている点。ああ、こういうことを言われたくないんだなって誰でも分かるよね。そして結局ミッキーは「自分が原因だから」と婚約を破談に。そこでいい人をやろうとするんだな。

二人が、どうしても一緒にいることは無理なんだと悟って、顔を見ずに抱きしめ合って涙をぽろっと流すところ、すごくよかった…やっぱりランビール・カプールとシュラッダー・カプール、どっちも上手い。

さて、ボリウッド映画は、常に男女のロマンスを描きつつ、最も新しいロマンスの形を模索して来たとも言える。今回の二人も、最先端の二人なのだ。お金持ち、キャリアも順風満帆、女側の家族は彼女に最大限の自由を許したいと思っている…というよりは、女の親だから、もうこの娘は結婚したら家を離れるんだと思い込んでいる。

結末は、やっぱり家族主義に着地した。お見合い結婚ではなく、恋愛結婚の難しさを色々な側面から炙り出しながら、ティンニが選んだ結末こそが、今のインドの現在地なのだと思う。本作もヒットしているらしい。なるほどなーと思いながら映画館を出た。現実には結婚した二人で独立して住むケースももちろんあり、どんどん一般化していくだろう。映画は、多分だけど、既にみんながある程度目にしていることに、夢や希望、毒やスパイスをふりかけて見せてくれるのだろう。その中に、新しい時代への道しるべが隠れている。と思う。

超うるさいミッキーの母親(?)の様子、ちょっと分かるわー…家に入るということは、あの凄腕OBAMBAとやり合って必要なら戦争、できれば休戦協定を結ぶことだ。それが若い女にとってどれほど大変か(自分の空間や仕事を捨てるに値するのかどうか?)。それを夫がどの位カバーしてくれるのか。そういう部分をインド社会がどう見て行くかというのが、もう少ししたら出て来るのだろう。

英語字幕がついていてうれしかったが、猛烈なスピードで人物たちが話しまくるコメディーだったので読むのはあきらめた。したがって詳細は語れない。残念無念。もうちょっとヒンディー語聞き取れるといいんだけどね。ちょっとしか無理だったわ。

まじでどうでもいいけど、主演よりも親友マヌを演じたAnubhav Singh Bassiの方が顔は好き…。結婚を前に動揺するどんくさい様子がいじらしかった。ジャージ姿が似合いすぎ。

タイトルを考える。君は嘘つき、僕は詐欺師。彼らの結婚生活というのはそういうものなのだと示唆している気もしてなかなかにいい題名。

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