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竹美映画評49 邪眼に目覚めるお人好し 『古の儀式』(”The Old Ways” 、2020年、アメリカ)

映画観てスカーっと楽しんだのって久しぶりのような!特に自分の好きなジャンルを忘れかけていた時に出会えてよかった!

幼くしてメキシコからアメリカへ渡ったクリスティーナは、記者となって取材のために故郷の村へやって来るも、直ぐに謎の呪い師の母親とその息子に監禁される。お前の中に悪魔がいる!と宣告され、勝手に悪魔祓いの儀式をされる。二十年ぶりに再会した従姉妹のミランダも助けてくれない。どうしてくれんのよ!アメリカから持ち込んだヤクで時折ぶっ飛びながら儀式の中で悪魔と対峙し、次第に何かに目覚めていく。邪眼系田舎ヒロイン爆誕の物語。是非続編を。

こういう映画好きなんだね、私。何者にもなれないと絶望した人、または、何かになる前の小童が、更に奇妙で過激な人達との出会いを通じ…多くの場合超自然的な体験を伴って…何者かになっていく物語。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』や『ローライフ』、『ターボキッド』『ミラージュ』『フライングジャット』『ザ・マミー』敢えて言うならシガニー『愛は霧の彼方に』やシャマランの『アンブレイカブル』も…何者かって言っても大したことは出来ないんだけど、自分の力で救えるものを救っていける、そうやってこの世と関わる。それでいて、唐突な運命の展開をあっさり受け入れる主人公たちに共感してしまう。私がそうなりたいのだ。根は悪くないが捩れてて冴えない私だが、何か自分には本当の特別な使命があるんじゃないか…そんな厨二志向って、私の中のパヨクな部分にも繋がってるのか。父はそうだろうな…マルクス主義に出会って、何か悟ってしまい、人生が狂っ…いえ、自分の生き方を決めることのできた父と、地味ヒーロー映画にワクワクする私の発想は似てるはずなの。

そしてやはり、父が活動家として、既存の人間世界から脱走しなきゃいけないんだと思い込んだように、私の場合は、左翼思想という共同性から脱走して何かになりたいと思ったのか。

これからインドに出稼ぎに行くことに何の疑問も感じてない私、一文なしで行き場のない彼氏を助けようとした私も、責任感?いや、違う、謎の欲望だ!厨二病と繋がりやすいのかもねwww…に流されまくってる。自分のことなんか一つも分かんないのよ!自分の何かを守ろうという気が無い。でも時々それでは不安でたまらなくなるのね。その繰り返し。ふふっバカね。

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↑筆者近影

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↑すっかりその気になったクリスティーナさん近影

クリスティーナも流されまくって来た女だ。幼少期に母を悪魔祓い儀式で喪い、故郷から連れ出されてアメリカで育つ。ほとんど説明ないけど、多分孤独やアイデンティティの問題に苛まれたのだろう、ヘロイン依存だ。ここがねー、さすがドラッグ一つで人の背景を説明できちゃうアメリカ映画ですよ。彼女、貧乏なのだ。天涯孤独でさ。おまけにヤク勧めたのは会社の上司っぽい。何かデキてそうだしね。そんな上司をやるのがさー、AJボウエンなの…絶対やばいよね。

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この人…アダムヴァンガードやタイウェスト作品のB級ホラーの貴公子よ!!『サプライズ』の矢がも兄貴に、マンブルゴア映画の金字塔『ビューティフルダイ』の純情連続殺人鬼役。連続殺人鬼なのに純情!見た目は熊!もう厨二ヒーローだ。あれは熊好きで厨二病が治らないゲイにとってもすごく何かいけないもののような気がしちゃう。私だけ?

ま、邦題はどうかと思うが。

…なので、彼が出てくるだけで、今回この人は悪玉コレステロールなのか、善玉コレステロールなのかを測りかねるわけ!!彼の使い方が上手かった。

何故クリスティーナが故郷に戻ったのかは、クリスティーナ自身にとってもよく分かっていなかった。彼女は全編通じて、何故そこに自分が来たのか、違う証言をしている。仕事のためだと言っていたのに、いきなり監禁されて、従姉妹に

あの洞穴に行ったらダメって言ったじゃない!もうあの二人に儀式してもらうしかないわ!!!

と頭おかしいこと言われて、腹は立ててるけど、何というのかな、変な運命を直ぐ受け止めるわけ。だから何か怖いというよりは可笑しくなってくる。いきなりヤギの乳飲ませるのにそのやり方かよ!!服が臭くなるじゃねえか!!!

でも直ぐ順応する。そして直ぐその気になっちゃうところがいいのよ〜私はね、もうここで死のうと思っていたの…とか直ぐ自分を語る!!そうよ、人生ってそうやって、自分の知らなかった自分を発見し、あるいはでっち上げ、意味づけ、更新していくものでもあるの。こんなふうにね!!

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クリスティーナを地元に取り込むために全てを捧げたミランダも、正直クリスティーナがここまで本気になるとは思ってなかった!喜びを隠してないぞ!!ノリノリで助手をやっている!!!何せクリスティーナが途中からやる気だから!!!!クリスティーナってノセられやすくて本当いい人なんだろうね!!!!!

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英語も通じないこの人のやること、信じちゃうんだから!

そう、地味ヒーローやヒロインたちは、乗せられやすくて根が善良なのだと思う。そういう善良さ…バカさでもあるのだが、そういう情が私は好きなんだろうな。そうありたい私なのだろうし。またそういう人に付け入る都会の悪い男がいて、田舎のあたおか失業者おじさんと心が通じ合ってしまい、まんまと儀式に協力しちゃう!アンタ!!!気をつけて!!!!!

正義の問題に惹かれる部分はあるものの、それは、新しいコミュニティの中での役割をいいものだと位置付ける…まあこじつけでいいんだよ。正義にまで高めていけなくていいから、新しい自分の姿を受け止めて、それなりに面白くやっていく。もちろん面白くないことは加齢とともに増えるが。そうやって生きていく。

地味ヒーロー映画は、新しいあなたを全力で肯定する。常識的な他人から見れば、変な服着て妙なポーズ取って、おかしなこと口走り、変な場所に引っ越す変人になったっていいんだ。あなたがそれを意味があると思えるなら。革命家ってそういうものだろうし、それ故の罪や過ちもあるよ。

竹美さんてさ、今でも『愛は霧の彼方に』のダイアンフォッシーのようになりたいんでしょうね…でもどうよ!42歳でこの定まらなさ!!!!お前の邪眼を探しやがれ!!!!!ぎゃー

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