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竹美映画評80 『Punnami Naagu(పున్నమి నాగు=満月のナーグ)』(1980年、インド、テルグ語)

いつになったら読み終わるのか分からない本Mithuraj Dhusiyaの『Indian Horror Cinema』(2018年)の第3章「The ghastly gendered narrative of animal transformation」で紹介されていた『Punnami Naagu』を観た。初めてチランジーヴィ様の演技を観たがとても見事だった。

字幕無しだけど、なぜか歌のシーンでは歌にテルグ語の字幕がつくという、ファンに嬉しい作り!

父親の罪によりコブラの呪いを受けた青年ナーグルをセクシーかつ野性味たっぷり、そして繊細に演じたチランジーヴィ!ダブルヒーロー映画だが明らかにこっちがメイン

お話は、蛇使いの男の息子ナーグルが、父親のやった行為によりコブラに呪われ、蛇と化してしまう様を描くホラー…なんだけど、インドホラーの定番で、ホラーじゃない描写の時間が結構長いので怖さは薄まる。

まさかの動物かわいい系映画!

もう一人のヒーロー役であるラジュ(Narasimha Raju)は、子供の頃から象さん(名前はタラパティ)と暮らしており、非常に微笑ましい。また、ラジュが恋に落ちるラクシュミ(ナーグルの妹?)は猿と仲良し。象が大きな家に普通に暮らしている様とか何なのか。かわいい。途中で、コブラ含め色んな動物たちが活躍するのでよく訓練したなあと感心してしまう。「ハブとマングースの戦い」みたいなシーンもあったり。
俳優たち、よくコブラや象や猿を怖がらないなと感心してしまった…。

象さんがいじらしくてねえ…彼らの側が社会のノーマリティであることは明白なんだけど、それ故にラストに急に現れた二人のヒーローの葛藤が胸に迫るの

欲望と社会の正面衝突!

セクシュアリティーについて描いた作品だと上記の著書では説明されていて、どんなもんかいと思って見たら、『RAW 少女のめざめ』とも重なる、「自分の中から湧いてくるタブーの欲望が社会と正面衝突してしまう様」を描いた映画なのね。近親相姦・十代の少女に対する性欲・同性愛の欲望を滲ませつつ展開するホラーシーンの恐ろしいこと。この三つには微妙に扱いに違いがある。「非常に悪いことなのだ」というスティグマ付きで表現されているのが近親相姦と少女に対する性欲(むろん未遂で終わる)である。夜のシーンであり、ナーグルが抑えきれない欲望に乗っ取られているようでもあり、もしかしたらそれが本性なのかもしれないと思わせる、非常に居心地の悪いシーンにおいて描かれているのは意味があると思う。

対する同性愛の性欲の方は何度も出て来るものの、明るいシーン、尚且つヒーロー役男性二人の格闘シーンで表象される。「絶対悪」というよりは、男性(ラジュ)の命の危機としてのみ表象されている。この温度差は結構重要なのではあるまいか。

象のタラパティに先導された村人たちがナーグルを殺そうと追いかけて来るのを山の上から見つめるラスト5分。悲哀と苦痛に満ちたナーグルとラジュのやり取りに不覚にも心が泣いた。そしてチランジーヴィがすごい力のある演技をするスターなんだと分かってよかった。好きになったわ。身体能力が高くてアクションも説得力ある。コニデラ一族の男は、ラームチャランといい、サイ・ダラム・テージといい、田舎で映えるね。土埃にまみれながら走り回る様子に説得力あり!

「自分が自分でなくなっていく恐怖」を描いている点では、ボディホラーでもあるし、それを鏡で確認しながら怯えつつも、皮を剥く手が止まらない。『ザ・フライ』に通じる快楽と恐怖があった(もっとそこ追求してもよかったと思うが、優れた演技のおかげでたったの10分位だけど心に焼き付く)。

変わりゆく田舎の風景

他には、本にあった通り、蛇使いという職業が必要無くなり、彼らが仕事をエンターテインメント方向に変え、大きなお金を手にするようになっていく様がコミカルに描かれている。セリフが分かればそのパートと、ナーグルのパートがどのように連関するか分かるはずなのだが、残念、分からない。カーストのことも扱っているらしいのだが、それも読み取れなかった。芸能の道に進むという「邪道」を選ばなかったナーグルの父親が罪を犯してしまい(子蛇を殺してしまう)、その報いを息子が受けるという「親の報いが子に祟り…」という話になっていたところは分かるのだが、その意味が今一つ掴めない。

ちなみに『Indian…』は同作をこう説明している。

私(=著者)は、Punnami Naaguを、1970年代~80年代のアーンドラプラデーシュ州の階級とカーストのポリティクスに囚われた中心人物の男性的不安の物語として説明する。(I examine Punnami Naagu as the narrative of the central protagonist's male anxiety trapped within the class and caste politics of the 1970s and 1980s Andhra Pradesh.)

『Indian Horror Cinema』、93ページ、ROUTLEDGE、2028年

ダブル主人公の男性はカーストの低い貧しい男(ナーグル)とカーストの高い裕福な男(ラジュ)で、彼らの恋愛、それぞれ体験すること、そして結構な時間を割いて描かれる格闘シーン、更には終幕における二人の運命。確かに、カーストの高い女を求め、そして誤って殺害してしまった低カーストの男が辿る運命とも読める。

意外な掘り出し物だった本作。はやく『Indian Horror Cinema』を読み終わってもっといいインドホラーを観たい!!

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