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竹美映画評76 笑って震えて 『Evil dead rise』(2023年、アメリカ)

インドでアメリカホラー映画を次々に観ることができ、(字幕無しだったり英語字幕はつらいものの)かなり満足している。しかも日本よりずっと公開が早いのに驚かされる。先週観た『The Pope's Exorcist』もよかった。ラッセル・クロウのスター性と、「できれば何でも悪魔のせいにしたい」キリスト教メンタリティ(特にアメリカ)の本音も滲ませて面白かった。アモルト神父がさかんに悪魔祓いをした時期は、『エクソシスト・コップ: NY心霊事件ファイル』のラルフ・サーキと重なるので関連性も知りたいな。

さて、『Evil dead rise』、冒頭で映画のタイトルがぬううっと出てくるところで思わず拍手しちゃった(サイレンス拍手)。もう既に傑作の予感がしていたが、中身はそれを1秒たりとも裏切ることなく突き進んでくれた。『マリグナント』『ダーク・アンド・ウィケッド』観たとき並みの爽快感を感じたぞ。ホラーだが。お勧めできる映画だった。傑作だと思う。

おはなし

冒頭で例の死者の本の呪いが発動してしまった田舎の湖畔から始まる(その湖畔の惨劇の背後に、EVIL DEAD RISEってでっかい文字が山からにょきっと出て来るところのかっこよさ。鳥肌立ちましたよ。もう映画終わったかと思ったら始まりだったw)。その1日前、ミュージシャンのベスは、最近夫が出ていってしまった姉と2人の子供たちの家に遊びに行く。そこで地震が起きてアパートの地価が割れる。息子ダニエルはそこから死者の本と、呪いの言葉が録音されたレコード(今CDより売れているそうですね)を見つけ出してしまう!うわーやめてくれー。もちろん観客の予想のとおりに惨劇が起きてしまう。アパートに悪霊と共に閉じ込めらてしまったベス、取り憑かれてしまった姉のエリ―、末娘のキャシー、姉のブリジット、息子のダニエルは無事に抜け出せるのだろうか…。

ホラーとはユーモア!役者も笑わせにかかって来る

メインキャスト、また冒頭で出て来る男女など、全員顔が不吉でめちゃくちゃ怖いんだけど、即大好きになる。中でも取り憑かれる母エリーを演じたこのアリッサ・サザーランドさんって初めて知ったけど、ホラーの歴史に残る邪悪顔だと思う。しかもユーモアすら漂っているってすごい。

「あんたも大変だねぇ…」悪鬼にこんな訳知り顔されたらどう思います?

キャシー・モリアーティ(『GOGO!チアーズ』すごいのよ)とか、フェイ・ダナウェイ(吹き替えは来宮良子さんで決まり)系の顔ってなんか好きなんだけど、アリッサ・サザーランドさんは超えた。ホラーってユーモアそのものなんだなって分かる演技なの。キャスティングが全体的に辛気臭いところが後から非常によい方向に出て来る。意外な人が悪鬼になるのでショックなんだけど、ショック感じてる間もなく笑わせにかかってくる。

『カラー・アウト・オブ・スペース』を引用するまでもなく、身近な人の姿で最低の悪夢が行われるというのは、気が狂いそうなくらい恐ろしいことなのだが、悪鬼になっちゃった方は楽しそうある人物が悪鬼化したあと、キッチンの上で背を向けてうんこ座りしてるところとか、恐れ入った

恐れる方から怖がらせる方へ突如逆転してしまう、それは元の『死霊のはらわた』が描いたことだけど、『デモンズ』『デモンズ2』の快楽にもつながる。その上で、「あ、もうこれはダメだ」と主人公側が吹っ切れてからが面白い。決め台詞とか表情で全部笑っちゃう。一つ一つのシーンは本当に怖いんだけど、怖いのに突然ぼきっと折られて笑いの方にすっ飛んでいく。痛快だなー。

時折、80年代ファミリーホラーへの郷愁を挟むところがおかしい。『シャイニング』『ポルターガイスト』は分かったぞ。元祖『死霊のはらわた』だけでなく、フェデ・アルバレス版の方のも意識しているんじゃないかと思う。

インドにおける反応

私は、「インドのホラーはなぜ怖くないんだろう」という疑問から出発して、色々と考えて来たんだけど、その中では彼らがかなりリアルに幽霊や悪鬼を信じているからじゃないかという気がしていた。昨年ボリウッド映画の中ではヒットした方に入る『Bhool Bhulaiyaa 2』は、いかにもインドホラー、悪鬼の復讐にコメディーを幾重にも重ねて怖くならないようにしてあった。

故に、日本で言うなら『学校の怪談』のように家族連れで観に来ることができる作品だった。劇場でも子供たちを沢山観た。一方、アメリカホラー『ブラックフォン』(往生しな!byイーサン・ホーク)や『ミーガン』は、深夜枠でしか上映せず、観客も数名いる程度だった。インド出身の監督シャマランの『ノック』なんか、午前1時とかにしか上映しなかったので結局見逃しちゃった!

そんな中で『EVIL DEAD RISE』ときたら、金曜日(昨日、見に行った日。4月21日)なのに1日三回も、複数の劇場で上映し、22日、最初の土曜日なんか4回も5回もやってる。そして、昨日夜9時過ぎの回を観たところ、小さいスクリーンだったとはいえ、ほとんど埋まっていた。何なら、先週金曜に観に行った、『Shaakuntalam』よりずっと沢山人が来ていた。

(※テルグの人気女優サマンサを主演にしたインドおとぎ話映画の同作、どうやら興行的には厳しいらしい。私はサマンサの踊りにきらりと光るものがあったし、お話も全体に面白かったぞ。インド人は全員知ってる話らしいから、今後インドが世界に台頭すれば、ディズニーがプリンセスに選びそうな内容だった。王様役もハンサムだったし、愛にしくじってぐじゃぐじゃになるインド男のダメさを表現してたし、群衆たちの自我の欠如もいつも通りで安心した)

昨日の客層は、若いカップルや若者たちがグループで観に来ていた。たった一組だけ、年老いたお父さん(もしかしておじいさん?)と、その息子か孫と思われる地味な少年の組み合わせがいた。子供だけじゃ見せられないから付いて来たんだろうか。もしそうなら私と同類の子供時代を送っているわね!!!

そして映画の間中みんな映画を十二分に楽しんでいた。はっきり映画に呑まれて雑談することもなく楽しんでいたのである。インドにおけるホラー消費の在り様の一端も見えた。徹底して悪鬼が暴れてお笑いのニュアンスが濃厚な本作は、インド人にとって非常に受け入れやすいホラーなのだと思われる。お笑いシーンを挿入してホラーを紛らわそうという作りの映画はファミリー向け、ホラーそのもので笑わせようとする作品はまた別の層に受けているんじゃないだろうか。対する『ミーガン』は、やっぱりなーオネエっつーか、クィアのコードがある人にしか届かない気はするんだな。『シリアル・ママ』とかね。

映画が終わってぞろぞろ廊下に出ると、みんなにこにこしていた『RRR』初見のときと同じ反応だったよ。いやーおもしろかったーっていう満足感を得ている顔だった。何かそのことに感動した。ホラーはユーモアでもあるんだわ。しょせんウルトラ他人事であるホラー映画に、ひええええと怖がりながら、何のことはない、我々は元気をもらっているのである。そこに正直な本作、大ヒットを祈願したい。

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