見出し画像

最近観たインドの映画たち

(5月2日:またしても思い込みで人名をタイプミスしたので直しました。プージャ・ホグデ→ヘグデです。テルグ語の綴りまで調べたってのに恥ずかしい…)
ようやく本理想の生活になったと言ってもいいのかもしれない。毎週1~3本も映画館で映画を観ている。実は私の今住んでいるアパートの真ん前にショッピングモールがあり、その中に11もスクリーンを持つシネコンがあるのだッ!!!あんまりその幸運を実感してなかったけど、どんなに高くても400円以内で映画が観られるなんてすばらしい…。
さてここでは、最近観たインド映画を紹介。Netflixで観たものも含んでるよ。

家族って大変 「Badhaai do」(2022年、ヒンディー語)※Netflixにて視聴

https://www.youtube.com/watch?v=HpMsvH7DpPc

監督:Harshavardhan Kulkarni
主演:ブミ・ペドネカル、ラージクマール・ラオ、シーバ・チャッダ他
お話:
インド北部の地方都市に住む体育教師スミ(ブミ・ペドネカル)は、ひそかにガールフレンドと交際していたが破局。警官のシャルドゥル(ラージクマール・ラオ)も密かに若い青年と交際している。30代を迎えた二人は両家族の結婚しろ圧力に困っていたところ、出会いアプリで女を偽装して接触して来た若い男性に困ったスミが警察に通報。そこで事情を知ったシャルドゥルはスミに偽装結婚しようと持ち掛ける…。

本作、先週あったFilmfareというボリウッド圏の映画祭では、Best film (Critics')という賞を受賞、主演の二人に加えて、シャルドゥルの母を演じたシーバ・チャッダも演技賞を受賞。納得の『Gangubai Kathiawadi』が作品賞・主演女優賞・監督賞をもらっていてうれしいのだが、こんなにBadhaai doが評価されるとはかなり驚いた。

作品はコメディで、抑え気味のテンポで笑わせてくれる。夫婦のふりをしているところにスミの彼女が転がり込んできて(アジア系)、「親戚よ」と誰でも分かる嘘をつく。ヒンドゥーの考え方の中には同性愛を禁じたり禁忌する内容は無いものの、家族主義の非常に強いインドにおいて、同性愛者として生きるというのがいかに面倒で困難に満ちているかが分かる。また、相対的に、シャルドゥルよりスミに対して家族が投げつける言葉が非常に厳しくてつらい。家族主義と同性愛を何とか無難に着地させようとするラストに希望が見える

ヒンドゥー主義の中に同性愛を許容できる部分があるとしているアグニホトリ監督の寄稿には驚かされた。彼って保守主義がちがちではないんだよね。口悪いけど。ヒンドゥー主義の含意するところや、結局同性愛への態度というのがあるものへの「アンチ」の記号として使われているふしもあって何とも言えない気持ちになるが、結局は「普通」になっていくというのは、そういう方便を呑み込んで進めていくってことなんだろうね。

インドのやりきれなさ 「Vadh」(2022年、ヒンディー語)※Netflixにて視聴

https://www.youtube.com/watch?v=C5ppQpI09hw

監督:Jaspal Singh Sandhu、Rajiv Barnwal
出演:Sanjay Mishra(Filmfareで主演男優賞(Critics')受賞)、Neena Gupta、Manav Vij
お話:
借金をして息子をアメリカに送り出した老夫婦。借金の取り立て人にお金をむしり取られてもじっと我慢。しかしある日、あまりの要求に我慢の限界が来たシャンブナート(Sanjay Mishra)は、衝動的に取立人を刺殺。

インド・ノワールものも、韓国ノワールに負けず劣らず社会の腐敗っぷりを描き出してくれる。借金の取り立て人は、極悪人でとんでもない要求をするのだが自分の家族は大事にするという、家族主義の歪んだ正体を見せつける。誰も守ってくれない、警察も頼りにならない、息子は親に感謝するどころか邪険にする…。いかれた社会で善人でいようとすることの難しさ。神に祈っても祈っても救われない。「アメリカに行かないといけない!お金も用意できない親のせいで自分の人生ダメになる!」と思っている息子の態度も腹立つが、インドに普通にある感覚なのだろうとも思う。警官の役をしていたManav Vij、『盲目のメロディ ~インド式殺人狂騒曲~』でも警官の役してたし、今確認したら『Laal Singh Chaddha』でムスリムのテロリスト役していた。あの人かー。

タミルナドゥのもののあはれ 「Super Deluxe」(2019年、タミル語)※Netflixにて視聴

監督:Thiagarajan Kuma
出演:サマンタ、ヴィジャイ・セドゥパティ、ラームヤ・クリシュナン、ファハド・ファーシル他
お話:アダルトビデオを観始めたら母親が出ていたため発狂した少年
は間違って自分を刺してしまう。インド洋大津波を生き延びた父親はしがない新興宗教の教祖若い主婦は不倫相手が腹上死、ショックな夫と共に死体処理に奔走。ある家では出奔した父親が女性になって戻って来ちゃった…タミルナドゥの美しい街の風景を舞台に交差する幾人もの人々の、しょうもなく、切なく、小さい幸せが描かれる作品。

これは面白かった。女性になった父親(ヴィジャイ・セドゥパティ)の身勝手に怒りつつも、何とか受け止めようとする家族と、そんな自分の身勝手さ情けなさに気がつかされて…。不倫主婦をあっけらかんと演じたサマンタ、益々好きになった。こういう役できる人なんだ。ラームヤ・クリシュナンもよかった。アダルトビデオの件で発狂した子がぶっ壊したテレビを買うお金のためにギャングの手伝いをしてしまう子供たちの危なっかしさもキたわ。

さてそろそろ映画館で観た作品についても書かなきゃね。

次のディズニープリンセスは彼女に決まり! 「Shaakuntalam」(テルグ語(でもヒンディー版を観た)、2023年)

監督:Gunasekhar
出演:サマンタ、デヴ・モハン他
お話:
森の奥で見つかった女の子の赤ちゃんは、美しい娘シャクンタラ(サマンタ)に成長。森に迷い込んだ王ドゥシャンタ(デヴ・モハン)と出会って恋に落ちるものの、二人は離れ離れに。ドゥシャンタに会いたい一心でお城に向かったシャクンタラだったが、行者の呪いにより王は彼女のことを全て忘れてしまっていた…。

勃興するインドゴゴゴゴゴゴの今、ディズニーは目ざとく本作に目をつけ、新しいインド初のプリンセスものとして取り上げてもおかしくない位のおとぎ話ファンタジー。インド人なら全員知ってるらしい。インドの物語においてLOVE(プレーム、ピャール)は最重要事項であり、主にヒロインが体験する苦難はそれを盛り上げるためだけに設定されているとしか思えない。尚、王宮で皆の前でシャクンタラを侮辱した王は、後からシャクンタラのことを思い出して狂い、政を放棄しちゃう。ハンサムで最強の王なのにそのダメ男っぷりにインド男の性根が見えて非常によろしい。シャクンタラは王の子を身ごもっているというのにあんまりな仕打ちにちょっと引くが、最初は彼女に石投げた民衆が最後にはわーっと祝福しているところにも、インドらしさ(というか人間本来の在り様だと思うのだが)が出ていて素敵だった。私はいいと思ったけどあんまりヒットしなかったみたい。残念ね。

大河ドラマの傑作 「Ponniyin Selvan: Part Two」(タミル語(ヒンディー版を観た)、2023年)

監督:Mani Ratnam
出演:アイシュワリヤ―・ラーイ(好き)、ヴィクラム、カールティ(好き)、ジャヤム・ラヴィ、トリシャ・クリシュナン、アイシュワリヤー・ラクシュミー(マラヤーラムホラーの
『Kumari』主演)他多数
お話:
チョーラ王国の覇権を巡り続く内紛。愛憎劇を織り交ぜた大河ドラマの傑作!
…としか書けないのごめん。しかも前編も観てないしね。でも、ああこれは王の覇権争いで、何かこの人が善でこっちが悪玉だなって把握すればあとはその場その場の場面で察知できるし、最後の最後にちゃんと説明も入るので問題なし。幸い英語字幕があって理解はできた。何だろう、意外なことに、セリフ自体はかなり短く簡単なことしか言っていないのが印象的だった(つまり字幕で内容を追える程度だった)。そして名前は覚えられず…。

王国の敵となるナンディニ女王を演じたアイシュワリヤー・ラーイの貫禄すごかった。確かに年齢を重ねてはいるんだけど、なんかまた別の美しさが出て来ている。どでかい画面の半分くらいがアイシュだったシーン(もう半分はヴィクラムね)は、それだけで感動した。あ、今思い出したけどあの二人、前に共演してたよね…。

ヴィクラムってちょっと面白い顔してるのよね!好き。

立場上、ヴィクラム演じるアディタ王子とナンディニは対立し、愛しながら憎み合うところがなんかもうあああああああん…ってなるの!!!そして出ました、インドハンサム王の狂気、愛のために国なんか捨てちゃう宣言です!!そんなことを勢いで口走るインド男!!!そこで「は?何言ってんのこいつ?あたしのせいにすんなよ?」と一瞬素に戻ったナンディニ!!!ってかそういう風に想像させてくれる演技者なのアイシュは。

またすごく面白いのが、それを倉庫の中?から盗み見ているヴァンティヤテヴァン(読み方合ってるのかな…)王子!!ほとんど家政婦は見た!状態。ダメだよ、ダメだよそんなこと言ったら…みたいな、裏ではらはらしているだけのポジションが非常ーーーにおいしい。彼はシリアスなお話の中にあって笑わせ役。ひょうきんな顔してるしね!!めちゃくちゃ強いし、概念のように心がきれいで高潔な人なのよ…演じるカールティって初めて演技を観たけどすごくかわいい…。スーパーマリオ演じて欲しいもん。

アイシュとカールティ(家政婦は見た)を観ているだけで充分面白かった。優れた映画だねえ…。王様も尊かったし…。カールティは、ラーム・チャラン、ランヴィール・シンのやったコマーシャルのタミル版をやった人なんだよね。顔が別人みたいに違うけど、やっぱりうさん臭くて好き…

マラヤーラムホラーに感服。 「Romancham」(マラヤーラム語、2023年)

https://www.youtube.com/watch?v=iB2Ol_hI-04

監督:Jithu Madhavan
出演:Soubin Shahir(『ジャパン・ロボット』の息子役した人)、Arjun Ashokan、Chemban Vinod Jose、Anantharaman Ajay他
お話:
バンガロールで共同生活をする男8人。うだつの上がらない毎日に、仲間の一人がウィジャーボード(アメリカ版こっくりさん呼び出しアイテム。ホラー映画必須アイテムですぞ!)を使って霊を呼びだしてしまった。最初は、誰も知らないはずのことに次々に応えてくれる霊を面白がり、お金儲けまで始めてしまうが…。

バンガロールで実際にあった話を元にしているとのこと。特殊効果ほとんどなしで、ここまで可笑しいのに背筋が寒くなる映画を作り上げたことに感服した。さすがはマラヤーラム語映画!インドホラー、ここにあり。普段考えもしないことを、日常的な風景の積み重ねの中から呼び出してくるのがマラヤーラム映画の美徳だと思うが、はっきりと怪異が姿を現さない、こういう心霊ホラーってまさに、普段思いもしないことに気がついてしまうという怖さだから、向いているよね。途中から出て来るほほえみ君のパートは本当に気味悪い。そしてやっぱり怪異は憑いてくる…。

ちなみに、マラヤーラム語・英語字幕で上映だったから、劇場にはケララ人しかいなかったと思われるが、彼らってエンドロールの最後まで立たないのかねえ。いつもエンドロール始まったら係員がドア開けて電気つけて早く出ていけぇ!ってやるのに(『RRR』のエッタラジェンタですらそれやられたんだから!)、それが無かった。

娯楽映画とはかくあるべし!  「Kisi ka bhai, kisi ki jaan」(ヒンディー語・テルグ語、2023年)

監督:Farhad Samji
出演:サルマン・カーン!、プージャ・へグデ、ヴェンカテーシュ、ジャガパティ・バーブ他
お話:
インド北部の街を守る男、バイジャーン(サルマン・カーン)には3人の弟がいたが、弟たちは未婚の兄に遠慮して、自分たちが結婚できないことに業を煮やし、バイジャーンの家を借りにハイデラーバードから来た娘バギャ(プージャ・へグデ、పూజా హెగ్డేって書いてあるからこの読み方で合っているはずね…と書いたのに間違ってホグデと書いてた私ダメみ)と兄をくっつけてやろうと画策し、見事成功。しかしバギャは地元で対立するナゲシュワル一家(長男は、出ましたテルグの悪役俳優、ジャガパティバーブ!)により命を狙われる。ハイデラーバードの実家に行き、兄バラクリシュナ(ヴェンカテーシュ)に挨拶するバイジャーンだが、暴力反対主義者(まじかよw)のバラクリシュナは、彼に難色を示す。そこへナゲシュワル一家が襲撃してくる…。
本作の企画は結構前からあったらしいんだけど、ボリウッドがテルグ映画になっちゃった感がすごかった。途中のダンスシーンでルンギーをたくし上げて踊りまくるんだけど、あんなにサルマンカーンの脚を見たのは初めてだぞ。意外とインドの俳優って作中で生脚を見せないもんね。『ランガスタラム』遂に日本で正式公開!すばらしいッなんかちょっと泣きそうになった)のラームチャランが惜しげも無く脚を見せまくったシーンにもびっくらこいた。
ストーリーはしょうもないんだけど、やっぱりサルマン・カーンは偉大なエンターテイナーだ。彼自体に説得力あるから全部楽しく観られちゃう。映画ってそういうものだったよなって思い出させてくれる。本作、三大カーン映画の中で唯一ボイコットやら政治家の難癖を免れているのも喜ばしい。ヴェンカテーシュ兄貴の最後の活躍も激アツ(きたきたきたぁ!!!)だったし、ダンスシーンに紛れ込んだゲスト出演者にも興奮!また対立する悪役を演じるジャガパティバーブのすごい顔!この人は顔のパーツを全て自由自在に動かせるんだね!それも面白かったが、私にとってのうれしい驚きは、プージャ・へグデ!初めて観たけど面白い。この人主演にして映画撮って欲しい。

これらの映画を2か月の間に観られて本当に幸せ!!!ハピネスがここにあった。でもこれでも追い付かない位、面白そうな映画がどんどこ公開されるインド。さすがは映画大国!私はこれから『Zombie Reddy』を観なきゃなんないの。テルグの鉈持ち輩軍団&田舎ゾンビホラーだって。面白くなるに決まってるよね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?