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卵巣腫瘍と一緒に子宮を全摘出した。

とくに書くこともないのだが、主治医が書いておけ(追記:私が小説家なのでこの経験を記してみては、という意味)というので書く。 子宮全摘した。晴れ晴れと言うか、ジョジョの4部最後で仗助が言っていたような、新しいパンツをはいた元旦の朝のように爽やかな気分だ。 ほんとうに要らなかったのだ、子宮。子供いらないし、PMSも生理痛も酷かった。数日寝込むこともざらにあった。学校や職場で倒れたこともなんどもある。必要な検査は10代のころからなんどもやったが異常があるわけでもなく、生理痛がひ

    • 映画『モータルコンバット』の感想など

      ただ書き留めておきたいので書く。 映画『モータルコンバット』を、「ゴアシーンがあるTVゲームの映画化で真田広之がとても格好いいらしい」ほどの認識で観に行った(のでどれほど原作へのリスペクトに溢れているか等については語れない、申し訳ない)。エンドロールから泣けてきて、映画館を出てからも、しばらく涙が止まらなかった。 悔しくて。嬉しくて。 『モータルコンバット』には多数のアジア系の俳優が出演している。日本人である真田広之、浅野忠信以外に、インドネシア人のジョ

      • 仕事履歴

        【最新情報】 ・2024年2/6 『悪将軍暗殺』文春文庫(『千里をゆけ』より改題) ・4/22 短編「首二ツ」雑誌オール讀物2024年5月号掲載 【単行本】 ・『鬼惑い』(講談社) 電子版のみ http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784064216201 ・『虎の牙』(講談社) 紙版・電子版 文庫版(2021年12月発売) http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=978

        • 又左(前田利家)と藤吉郎の桶狭間の話

          『三ツ首語り』 武川佑  あと一刻もすれば陽が昇る、寅の上刻であった。  一人の男が土塁に足をかけ、木柵に取りついて闇夜を睨んでいた。  山が連なる東の空が一筋、薄くなり、数瞬ののち暗がりへ戻る。寄せて返す波のごとく繰り返し、夜は滲みながら明けていく。男は夜の向こうを、見ていた。  背筋が伸びた、堂々たる美丈夫。六尺はあろうか。まだ若い。錆びた頬当を白い鉢巻でつけ、腹当ては縅糸があちこち切れていた。脚絆は泥に塗れ、左片方しかない籠手は繕いの痕がみすぼらしい。三間半の長鑓は支

        卵巣腫瘍と一緒に子宮を全摘出した。

          ゲイリー・P・リュープ『男色の日本史』雑感

          室町時代、戦国時代の小説を書くとき、男色は決して無視しえない要素だと思っている。が、私がそのことについて知っているのはわずかでしかない。よって本書を手に取った。 男色研究としては岩田準一『本朝男色考』『男色文献書志』が著名であり私も読んでいるが、著者の急逝により、論考は不完全である。リュープの本書は古代以来の日本男色史を網羅的に扱いつつ、徳川時代の町人による男性同性愛に主眼が置かれている。その意味で、本書は日本男色史を概観する基礎文献といえるだろう。 男色の日本史――なぜ

          ゲイリー・P・リュープ『男色の日本史』雑感

          文体で影響を受けた『偸盗』のこと

          こちら(https://note.mu/takekawa_yu/n/n3685c7e13d70)で、文体の話をちょっぴりしました。 誰しも、文体で影響を受けた作家・作品というのはあると思います。作品の世界観などとは違ってスキル的な側面があり、小説の「かたち」を決める、そういうものではないでしょうか。自分にとってそれは、芥川龍之介『偸盗』です。青空文庫で全文読めますので、ぜひ。 解説にも書かれているとおり、芥川自身はこの作品を「通俗的でたいしたことない」とぼろくそに語ってお

          文体で影響を受けた『偸盗』のこと

          「一平二太郎より上の世代の……」

           都心の雑居ビルの屋上で煙草をふかしているとき、ふと今村翔吾(https://twitter.com/zusyu_kki)さんが紫煙を吐き、例のばりばりの関西弁で言った。 「武川さんの文章は、読んでるといわゆる『一平二太郎』より上の世代のにおいがしますね」 自分は実はマンガから歴史時代小説の世界に入ったので(あ、このことは今度書こう)、体系的に歴史時代小説を読み漁ったり、研究したことがない。恥ずべきことであるが、実際そうなのだから仕方がない。 実際一平二太郎、すなわち藤

          「一平二太郎より上の世代の……」

          小桜韋威鎧 兜、大袖付(楯無)のこと

          8月7日、国宝「小桜韋威鎧 兜、大袖付」(通称楯無)が菅田天神社にて公開されましたので、拝観してきました。拙著『虎の牙』でも「楯無の首を獲りてこよ」とのキーワードで、主人公アケヨを翻弄する楯無の鎧。学芸員さんの解説を以下に書き起こします。 平安~鎌倉期に制作された鎧と考えられています。 甲斐源氏の始祖である新羅三郎義光以後、武田信光が甲斐に入りましたが、最初は武田嫡流が相伝したのではなく、武田家傍流である一条家(のちに武田信玄息の一条信龍が養子に入る家です)が相伝したそう

          小桜韋威鎧 兜、大袖付(楯無)のこと

          万年筆について

          noteをほったらかしているので、何か書いてみようと思います。 もともとkakunoは持っていて、年賀状など書くのに使っていたのですが、黒インクしか使っておらず、フーンこんなものか、という感じでした。デビューのお祝いにと格好いい万年筆を頂き、これを使いたいぞ、どうせなら黒じゃないインクを入れてみよう、と思いたったのが沼のはじまりです。 万年筆はそれぞれペン先の太さや書き味がことなり、インク色を変えたりと自分でカスタマイズができます。それはモンハンでスロットにどの玉をはめる

          万年筆について

          『我が手を離れよ恋心』

          ※本作は『くれないの言』(「決戦!設楽原」収録)、『落梅の賦』の内容を含みますが、未読でもお楽しみ頂けます 『我が手を離れよ恋心』  恋文は、紅色の浜梨(はまなす)を添えて、晩夏の夕涼みのころ安倍川のほとりで手渡した。  娘はふいをつかれたように目を見開き、文を開いて、和歌だ、と言った。 「あたしは難しい字は読めないんだよ。右衛門さま、読んでおくれよ」  清安(せいあん)と作った和歌を詠みあげると、娘は空になった桶を小脇に抱えなおした。 「勇ましそうな歌だねえ。右衛門さま

          『我が手を離れよ恋心』

          スケッチ

          Twitterで書いたスケッチです。 描写の練習。ストーリーとかオチはあまりない。 ①青草の茂る道は白くかすみ、中天をすぎた陽光はいまだ厳しい。喉が乾いた。今朝竹筒に汲んだ水はとうにない。玄七は打ちかい袋から干からびた梅干しを出して眺めた。粘ついた唾液は苦味があって、喉には流れ落ちず、上唇に張り付いた。先をゆく徒組頭が進みが遅いと怒鳴っている。 ②後ろから足軽組頭が軽快に馬を走らせてきた。「おう、あと一里で諏訪じゃ」顔をあげると、虎髭の組頭は大汗が流れるままに歯を見せて笑

          スケッチ

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          『落梅の賦』冒頭試し読み

          『落梅の賦』冒頭試し読み

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