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東京芸人逃避行 ギぎギ加納総一
2022年1月5日。
この日は同期のギぎギ、シティホテル3号室と三組で毎月行っているライブ「スナックサークルラウンジクラブ」だった。
ニコ、そしてネムレナイワニと改名し、今回のライブで晴れて(?)ギぎギとなり「それで俺たちは行くのだ!」と表明した記念すべきライブ。
客席には知った顔の客が3人だった。
ライブ前、ふと加納の衣装のジャケットを見るとボロボロであった。
だいぶ前に僕があげたものである。
薄いピンクが入った千鳥格子のそれは経年による劣化が進み、肩の部分の切り返されたスウェードのレザーはすっかりくたびれていた。
「加納ちゃん、服買いに行かない。私服を見付けに。勿論その中で衣装に出来るような服も変えたら1番良いんだけどどうかな」
「え、マジ!?行く行く!」
2022年2月3日。
僕らは13時に下北沢駅に待ち合わせた。
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その日は天候にも恵まれ気温も暖かった。
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待ち合わせた時間ピッタリにきた加納はよく見るジャケットによく見るシャツを合わせ、よく見るズボンによく見る加納だった。
「今日はよろしくね!」
「良いの見つかると良いね」
「見つかるでしょ!タケイ君が一緒なんだから!天気も良いしめちゃくちゃ良いことが起きる前触れじゃん!」
「そう言ってくれると嬉しいな、良いの見付けれるよう頑張るよ。とりあえず飯食おうか。何がいい」
「前に行ってた鶏白湯のラーメン屋行こうよ!美味いもの食って服探そう!」
「桑嶋ね、良いね。ちょっと前に移転したんだ、こっちだよ。俺も久々だから楽しみだなぁ」
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閉店して別の店になってた。
「良い前触れとは」
僕らは一番街から入った路地にあるSAMURAIというスープカレー屋で昼食を摂ることにした。
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「ここは美味しくてよく来るんだ。僕はココナッツ入りのルーを選んで食べるんだけど、加納ちゃんはどうする」
「タケイくんと一緒で!」
「いくつかメニューがあって、このサムライ祭りってのがトッピング選べておすすめだよ。僕はそれにするけど加納ちゃんは」
「タケイくんと一緒で!!」
「トッピングがこの中から選べるんだけど加納ちゃんはどれがい」
「タケイくんと一緒で!!!」
「ちょっとはメニュー見ようか」
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「うわー!すげぇ美味そう!見て!見てよタケイくん!すげぇ美味そうだよ!俺のトッピングのやつめちゃくちゃ美味そうだよ!見て!!」
「加納ちゃんほぼ俺のやつと同じなんだ」
僕らは腹を満たし様々な古着屋を巡った。
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「(こ、このコート良いけど高いのかな…)」
「加納ちゃん、別に隠れてこっそり値札見なくて大丈夫だよ」
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「え〜、何〜、ちょっとコレ良いかも〜」
「なんで急にオカマになったの?」
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そうして幾つかの店舗を周り加納は10着程服を買った。
「加納ちゃんたくさん買ったね」
「めちゃくちゃ買ったよ〜、ありがとう!大満足だよ!」
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買ったものに身を包んでそう言う加納は実に満足そうで僕も嬉しかった。
休憩にコーヒーをしばいて外でに出るとすっかり夜であった。
「タケイくん今日はありがとう!また行こう!」
「こちらこそ。また行こうね」
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そう言って大荷物を持った加納と駅で別れた。
僕らは養成所からの同期でずっと仲が良いが、こうして2人で遊びに行くというのは今回が初めてだった。
元々趣味嗜好が違う人間。唯一の共通点はお笑い芸人ということだけなのだからそれもそうなのかなと思ったが、やはり特殊な関係性だなと思った。
加納と別れた僕はそのままスーパーで酒を買って家まで歩いた。
次に加納と会うのは毎月やっているライブの時である。
その時もきっと客はそんなに増えていないだろう。
いつまでこの求められない現状が続くのか。
いつの間にか「お笑いが続けられればいい」という考えだけでもいれなくなった。
夜は冷える。
ジャケットのボタンを上まで留めてイヤホンの音量を上げた。
酒瓶の入ったビニール袋が、手に食い込んで持ち手を変えた。
夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。