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企業人事小説:部下を持つ⑤

「扇谷さんの代わりは採用しても良いですよね?予算上は問題ないはずですし」
「もちろん」
異動希望を出すほど気持ちが切れかかっている東口と、これから採用できるかどうかもわからない派遣社員。山田は、厳しいスタートになることを覚悟した。
「あと二人は必要ですね・・・」
山田の頭には、あと2枚は必要だと瞬時に浮かんだが、佐川からの返答はない。外からの採用は無理であろう。何人か社外の知り合いの顔が浮かんだものの、そもそも彼らが来てくれるかわからない。たとえ来てくれることになったとしても、今シーズンの新卒採用には間に合わないだろう。放置している学生や大学への対応に2週間、短期でチームビルディングするには合宿がよいかも、問題はどうやってリカバリーするかだな、採用戦略か・・・、これは皆で深く考えるプロセスを持つべきだが、今回だけは自分で考えて落とし込むか・・・。
山田は、頭の中で1秒でも早く状況を整理し、佐川より先に明快な「落としどころ」を見つけたかった。というのも、老獪な佐川のことだ、山田がいつまでも思案することを許さず、自分の都合のよいシナリオを押し付けてくるに違いない。
「わかりました。越智さんはどうしてますかね」
越智は給与計算チームの社員だ。しかしながら、周囲との馬が合わず休みがちだった。しかもここ2週間は体調不良を理由に出社すらしていない。山田は、越智と佐川が飲んだことを知っていた。越智なら新卒採用で活躍できる可能性がある。一度だけ越智と麻雀をやったことがある山田は、越智の頭の回転の鋭さに一目置いていた。

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