Diana Adela Martin、Gunter Bombaerts:Enacting socio-technical responsibility through Challenge Based Learning in an Ethics and Data Analytics course

Diana Adela Martin先生、Gunter Bombaerts先生の論文。
Industrial Engineering & Innovation Sciences TU Eindhovenとありアイントフォーヘン工科大学→オランダの大学の先生の書いた論文のよう。
https://ieeexplore.ieee.org/document/9962492で公開されている。
工学教育・技術者倫理教育においてゲームを用いだ教育実践やその効果に関する論文をサーベイしているのですが、特に、実際に学生達がゲームやシナリオ、解決策などを考える授業実践に関する研究成果を探している関係でようやく見つけた文献

私は現在、ゲームデザイナーなどと協力して技術者倫理のゲーム型学習教材の開発に取り組んでいまして試作品が出来ています。これからテストプレイをしながら改善していく予定です。
並行して授業で学生達にもゲーム作りに取り組んでもらいました!(高専は5年生ですが、実は専攻科といって2年のアドバンストコースがありまして大学で言えば3~4年生を対象とした授業もあるんです。その授業で実施しました。)
ゲームを使う(楽しむ)側ではなく、ゲームを作る(楽しませる)側にまわることの教育効果を調べてみようと思っています。
技術者倫理のゲーミフィケーションに関する先行研究は国内では見当たりませんが、海外にはちゃんとあるのですね(笑)。英語は得意ではありませんが、しかし乗り越えたいところでもあるので、実力不足は認めつつ翻訳サイトなどを使いながら、読み進めてみようと思います!

この論文は、大学の情報と倫理に関する授業でChallenged Based Learning(CBL)という教育手法を用いた教育実践を行い、それによって倫理規範についてミクロな倫理観の理解だけでなくからマクロな倫理観への気付きも促しているということを、学生のインタビューから導くものである。

教育実践論文は英語ではどのように報告されるのか勉強になりますし、育効果について学生のインタビューを用いて分析しようとしている点が、我々の研究アプローチ(我々は学生のレポート・自由記述から読み解こうとしている)に似ていて、とても興味がわいております。結果はいかに!(続く)

目次
Ⅰ Introduction
Ⅱ Background
Ⅲ CBL course setup
Ⅳ Methodology
ⅤResults
Ⅵ Disucussion
Ⅶ Conclusion

Ⅰイントロ
Responsibility is a core concept for engineering ethics 
責任(という概念)は技術者倫理において重要なコンセプトである。
commonly understood as the “exercise of judgment and care to achieve or maintain a desirable state of affairs” 
で後から、「望ましい状態を維持・達成するための判断や注意?配慮?を洗練させる・磨くことと一般に理解されている」と責任概念を補足説明しています。勉強になりますね。

Nevertheless, despite its importance, there is still little known
about how to best foster responsibility and the impact of
different pedagogical approaches on engineering students’
development of professional responsibility.
その重要性に関わらず、どのようにして責任感を育むのか、また、複数の教育的アプローチが工学部の学生に与える影響については、まだほとんど知られていない。

うんうん!とても納得です。技術者倫理の教育では、倫理的判断能力の醸成が重要といわれますが、どのような価値観や判断能力を育むのか、どのような教育手法が効果的なのか、なにをもって価値観や判断能力が育まれたとするのか、まだまだ研究の余地がある分野なんですよね。

Ⅱbackground
A central distinction in engineering ethics education is between microethics and macroethics approaches. 技術者倫理教育における中心的な区別は、ミクロ倫理とマクロ倫理のアプローチである

Micro Ethicsミクロ倫理
Individual and personal
Focus on improving individual character and will power
Value neutrality

Macro Ethicsマクロ倫理
Collective and societal
Focus on correcting the context that gives rise to unethical practices
Value sensitivity

責任の概念をマクロとミクロで区分して考えていくのか。なるほど。
技術者倫理はどうしても個々の技術者が置かれている現実においてどのような価値観をもち、どのように行動するかに焦点があてられる応用哲学という側面がある。他方で、近年、ELSI的な視点が導入されているように、ミクロな視点だけでなく、社会全体というようなマクロな視点も重要であるし、このことは日本の研究者(札野先生や金光先生)も言及している。

それで、技術進歩のペースが急速で、予測不可能な時代においては、技術者や大学が負う「責任」も多様で、広範囲になりつつある。
環境問題、AI、プライバシーとセキュリティなど、エンジニアが取り組む課題の多くは、複雑性・学際性を有し、問題提起、意思決定者、利害関係者も多様である。それゆえ、複合的に考えていく必要があるのだが、Challenged Based Learning(CBL)はこのような複雑な課題について解決策見出していく教育手法ということのようである。

Ⅲで授業の概要が説明されている。43名の学生が4人1組のチームなってスマートグリッド、スマートヘルス、スマートモビリティの課題に対する解決法を考えるという授業の要である。TAや教員、アドバイザーが14人いて、3人の観察者がいるということで、日本の高校や大学では考えられないようなサポート体制である

Ⅳにメソッドが書いています。ここは手続的な記述なのですがとても参考になりますね。

The findings reported in the paper are part of a broader mixed methods study・・・mixed methods study=混合研究法ですね。質的データと量的データを両方もちいる研究法で、文系研究者にとっては頻出語ですね。

At the beginning of the course, all students enrolled (n=43) were invited to participate in the broader study, and 41 consented.41人が参加に同意した。

Students did not receive course credit or any incentive for consenting to data collection, and there was no penalty for declining to participate in the study.学生達はデータ同意に収集することで単位やインセンティブは受け取っていない。
The first author is the engineering ethics researcher who conducted the study and was not involved in the teaching or grading of the course.
筆頭著者は、研究者であり、授業を教えたり、成績付けには関与しなかった。
In the article, we report on the qualitative approach we undertook to explore students’ view on responsibility upon following the course.
本稿では、コース終了後の学生の責任に関する学生の見方を探るために行った定性的アプローチについて報告する。
Nineteen of the 41 students who took part in the broader course study agreed to be interviewed for research purposes their ethical learning and their views on ethics and responsibility.
41人の学生のうち19人が、研究目的についてのインタビューを受けることに同意した。
The interviews had a semi-structured format which included a set of open-ended and probing questions.
インタビューは自由形式の質問と論点を絞り込んだ質問を含む半構造化形式で行われた。半構造化形式はa semi-structured formatの訳だったのですね。
All interviews were conducted online and recorded.
オンラインですよね。私も、別の研究でオンラインインタビューを使っています。同時進行で議事録もつくられますし、レコードされたデータはがオンラインに勝手に保存されるので、これまでのICレコーダー→PC・バックアップHDDに保存の作業から大分省略化されました。
the interview analysis was guided by Lofland’s recommendation to group the data into meaningful categories. 質的データ分析でよくでくるカテゴリー化というやつですね。
The first coding iteration inspected the interview transcript line by line, identifying examples and trying to understand their deeper meaning.
最初のコーディング作業は、インタビュー記録を一行ずつ点検し、その深い意味を理解しようとした。
→やはり最初は、生データをみることからですよね。line by line,もおなじみですね。でもこれがまた苦しい作業でもありますね。
ここの、identifying examplesという意味がちょっとよくわからない。
The second coding iteration organised the meanings and examples identified previously into themes, guided by the literature on engineering ethics.
2回目のコーディングは、工学倫理に関する文献に導かれながら、先に特定した意味と事例をテーマに整理した。
→これも、そうですよね。最初に文章を読みながら細かくコーディングしていくんですけど、だんだん、発散していって迷子になっていく。で、やはり文献にもとづいたコーディングを後からする。
To understand the interviews in relation to our research questions, the data was coded against the・・・・
私たちのリサーチクエスチョンとの関連でインタビューを理解するために、・・・に照らしてデータをコード化した。

こうした手続き的な記述は日本語では書いたことがあるのですが、英語ではまだ書いたことがありません。いや、勉強になります。

Ⅴ そして分析結果であるが、ここは学生のインタビューの文言をそのまま掲載していて、とてもリアリティがある。質的分析はなんといってもこのような記述や表現の豊かさが特徴だと思います。よく伝わるというか。
ミクロ倫理については
Uphold ethical standards
Comply with legislation
Foresee and account for consequences, such as to avoid harmful or unsafe consequences 
Develop and implement solutions that are not harmful 
Responsibility on behalf of the client 
Develop and enact specific character traits and attitudes 
Individual responsibility in face of power and to resist amoral managers
にカテゴリー化されている。

マクロ倫理については、
Reflecting on the future of technological development and its societal impact, as well as develop technology for the public good
Collective responsibility of the profession in face of power
Consider and contribute to the enforcement of human rights and stakeholder needs and preferences
Creating the conditions for a professional environment that fosters ethical discussions and actions
にカテゴリー化されている。

技術者個人では会社組織には勝てないので、やはり集団で経営者に対抗したり、職業専門家としての規範を創るなどの組織的・社会的な対処策が必要であることを学生が述べていて、ここから、ミクロ倫理だけでなく、マクロ倫理への気付きを導いていると説明しています。

主観客観の問題や統計的な課題などはおいておいて、学生のレポートを通じて、そこに豊かな学びがあることを伝えてくれる。学生たちの語ったことをそのまま掲載し、堂々と考察している点はとても勇気づけられます。(批判された時のことを考えがちです)

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