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【大外の刺し合い】天皇杯 ラウンド16 鹿島-横浜FM レビュー

スタメン

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<鹿島>
・GKに曽ヶ端、右SBに伊東、2列目に中村、1.5列目に遠藤を起用
・白崎が復帰してベンチ入り
・上田、相馬は規定で天皇杯出場できず

<横浜FM>
・マルコス・ジュニオール、チアゴ・マルチンス、畠中を温存
・仲川、扇原もベンチスタート
・CBは伊藤とドゥシャンのコンビ、CFはルーキーの山谷
・土曜日のリーグ戦は出場停止の喜田とティーラトンはスタメン
・マテウスは規定で天皇杯出場できず

質的優位で攻める横浜FM

主導権を序盤から握ったのは横浜FMだった。最終ラインに喜田が降りて、鹿島の2トップに対して数的優位を形成。ボールを前進させながら、SBがインサイドに入る「偽ボランチ」を用いてハーフスペースの突破を選択肢として見せつつ、大外に張った突破力のある両WGを活かしてサイドを深く切り崩してチャンスを作り出す、といった攻めを立ち上がりから継続して作り出していた。

鹿島の対策としては、無理に前から追うことはせず、降りたアンカーの喜田にボールを持たせることが多かった。喜田が中央にいたので狙っていたわけではないのかもしれないが、もしかしたら「喜田からは直接(鹿島にとって)危険なところへのパスは供給されない」という考えからあえてそうしていた可能性も捨てきれない。実際、喜田自身はほとんどパスミスはなく、的確なボール捌きを見せていたが、彼のパスを起点としたチャンスはほとんどなかったのも事実である。

また、鹿島も全く追わなかったわけではなく。横浜FMがビルドアップでエラーを起こした時、もしくは誘発出来そうな時はここぞとばかりにプレスを連続させていった。このプレーそのものと言う訳ではないものの、そうした姿勢が後に紹介する2点目を生み出している。

それでも、この日の横浜FMは鹿島守備陣を崩せるポイントを見つけ出していた。両WGの質的優位、すなわちスピードに乗ったドリブル突破である。右のエリキも左の遠藤も立ち上がりから積極的に仕掛けていたが、対面する伊東も小池も前半はこの突破にかなり苦しんでいた。守備に難のある小池、ケガ明けで出場機会が限定されている伊東がサイドバックを務めていたため、横浜FMとしても勝算があったのだろう。

鹿島が突いた横浜FMの「穴」

一方の鹿島が活路を見出したのはカウンターだ。鹿島はボールを奪うと、素早く相手陣内のサイドの裏のスペースにボールを供給して、そこに前線の4人を走り込ませていた。

このスペースは横浜FMの構造上どうしても生まれてしまうスペースである。本来ここをケアするべきサイドバックは偽ボランチ化してハーフスペースから中央に位置取っているため、このスペースをケアできていない。セオリーとしては、このスペースにボールを運ばれる前に攻撃を止める攻→守への素早い切り替え、プレスバックが必要なのだが、横浜FMはその仕組みの整備がイマイチなのがポステコグルー体制で抱え続けている課題の一つである。さらに、普段はこのスペースをチアゴ・マルチンスと畠中のセンターバックコンビのスピード、個の力でカバーしていたが、この日は彼らが不在。代役の伊藤槙とドゥシャンのコンビは最後までこのスペースをケアすることに苦心し続けていた。

先制点はそのスペースを突いたものだった。自陣深くでボールを奪った鹿島はそこから素早くボールを繋ぎ、左サイド裏のスペースにボールを送る。そこで受けたのは抜け出した中村。落ち着いてGKとの1対1を制してゴールに流し込み、鹿島が先制に成功する。

我慢比べを制す

だが、横浜FMも追いつく。先程も述べた質的優位を活かし突破を図ったエリキが小池に倒されてPKを獲得。一度は止められたものの、こぼれ球を押し込んだエリキ本人がゴールを奪ったのだった。これ以降、質的優位で殴る横浜FMカウンターで穴を突く鹿島、という構図が明確化していく。

勝ち越し点を奪ったのは鹿島だった。30分、攻め込んだ後のクリアボールを横浜FMが繋ごうとしたところで、永木がインターセプト。中川からボールを奪うと、中村が流して右サイドに走り込んだ遠藤へ。この時に左センターバックのドゥシャンが遠藤に引っ張られ、空けたスペースを横浜FMの選手が誰もケアしていなかった時点で勝負ありだった。折り返したところを中村が流し込んで、ゴールを奪う。

さらに、前半アディショナルタイム。スローインを遠藤が裏のスペースに流すと、 抜け出した中村がドリブルで運び、またもGKとの1対1を制してハットトリック達成。この1点で勝負はほぼ決まった。裏を狙う姿勢を続けたこと、チャンスを逃さなかった中村を称えるべきでもあるが、このシーンでもドゥシャンが遠藤のポストプレーを潰すことが出来ず、またそのドゥシャンが出て行った後のカバーを横浜FM守備陣は誰も出来ていなかった。普段のセンターバックコンビなら埋められる穴を埋められずにタスクオーバーになり、またそのケアもなかったところを、鹿島は確実に突いていった。

頼れるDFリーダー、犬飼智也

後半もお互いがお互いの穴を突くという展開は変わらなかったが、そうした中で鹿島の守備が少しずつ持ち直していった。理由としては、両サイドバックのパフォーマンスが大きいだろう。伊東が徐々に試合のリズムに入っていけたこと、また小池も前半散々にやられていたエリキとのマッチアップで少しずつ止め方のコツというものを掴んでいったようだった。

そんな中で光るプレーを見せていたのが犬飼だった。左サイドで劣勢に立たされる小池のフォローに追われながらも、相手のフィニッシュの場面では中央に戻ってブロックに入る。言葉にすると簡単だが、彼自身の負担は相当のモノだったはずだ。そんな中でも彼は粘り続け、それが鹿島の根気勝ちとして、勝利をグッと引き寄せる結果になった。

62分~

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そうした中で、横浜FMは右WGのエリキに代えて扇原を投入。2ボランチに切り替えて、守備の安定を図った。2点ビハインドで後半15分を超えた段階で守備の意識を強め、効いていたエリキを下げる。おそらく、ポステコグルー監督の頭の中にはこの試合のことと同等に土曜日のリーグ戦のことが浮かんでいたのではないかと思われ、そういう意味では相手監督の頭を切り替えさせたということで、鹿島の粘り勝ちとも言えるだろう。

トドメ、そしてまとめ

試合はこの後、お互いの消耗が目立つようになりやや膠着していくが、77分自陣深くで小池がドリブルでカウンターをスタートさせると、横浜FMは誰もケアできずにそのままDFラインの裏へとスルーパス。そこに抜け出した伊藤翔がループでゴールへと沈め、古巣にキツい一発を浴びせてトドメ。

結局、終わってみれば4-1と快勝した鹿島がベスト8進出。ACL敗退のショックを振り払い、3冠の可能性を残しつつ土曜日に控える札幌戦に向かうことが出来た。

鹿島としては、サイドバックで計算できる選手がまだ決して多くはないという課題は残ったものの、狙っていた形からチャンスを作り出し、共に優勝争いを繰り広げる横浜FMから4ゴール奪ったというのは大きな手ごたえと言えるだろう。また、ハットトリックを決めた中村はもちろん、前線で神出鬼没に動き回り2アシストを記録した遠藤も結果を残して、ここに来てアタッカー陣が個々に調子を上げてきたのはプラス材料であることに間違いない。メンバーを入れ替えながらも、チームの質を保つことが出来れば、この良い流れはそう簡単に途切れないだろう。

試合ハイライト


遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください