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【マッスルミュージカル】天皇杯 ラウンド16 鹿島アントラーズ-V・ファーレン長崎 レビュー

戦前

鹿島アントラーズ

・現在リーグ戦では3位

・リーグ戦では前節、徳島ヴォルティスに3-0で勝利

・徳島戦から中2日で迎える

V・ファーレン長崎

・現在、J2では8位

・公式戦は4試合負けなし、前節のリーグ戦もギラヴァンツ北九州に3-2で勝利

直近リーグ戦2試合が悪天候によって中止に

・東京五輪の中断期間もあって、約1か月ぶりの公式戦に

スタメン

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鹿島は徳島戦から8人変更

・エヴェラウド、常本佳吾、町田浩樹が連戦

・安西幸輝が復帰後初スタメン

長崎は北九州戦から5人変更

・キーパーに高木和徹、右サイドバックにケガから復帰した亀川諒史、ボランチに加藤大を起用

・毎熊晟矢を左サイドハーフに置き、前線は植中朝日と名倉巧の2トップに

立ち上がりのど突きあい

長崎の守備はゾーンディフェンスでオーガナイズされたものである。この前提情報は鹿島側でも十分意識されていたらしく、それを反映した戦い方を序盤から選択していた。

鹿島の狙いは、長崎に整った形で守備をさせないこと。長崎に4-4-2のゾーンディフェンスを敷かれてしまうと、そこから崩すのはどうしたって難しくなってしまう。ならば、そのゾーンディフェンスを敷く前に攻撃を仕掛けきってしまいたい。そのため、鹿島はキックオフからアップテンポで試合を進めていくことを狙っていく。

鹿島のアップテンポな進め方としては、サイドからの速攻と前線からのハイプレス、さらには即時奪回からのショートカウンターにあった。ボールを持ったらサイドに預けて、松村優太やアルトゥール・カイキといったアタッカー、さらにはサイドバックの常本と安西にも高い位置を取らせてどんどん仕掛けさせる。また、長崎がボールを保持した際には相手と人数を合わせにいって高い位置からプレスを仕掛ける。失っても、すぐに奪い返しにどんどん前に出ていく。ここ数節に比べて、今節の鹿島はかなり前がかりな形で試合に入った。

一方の長崎としてはボール保持にそれほどこだわりを見せてはいないし、わざわざ陣形を動かしてまで鹿島のプレスを剥がそうとする素振りはなかった。確実にボールを保持できるメリットより、陣形を動かしたことで守備の時に綻びが生まれかねないというデメリットの方が勝ったのだろう。また、前がかりになる分だけ、鹿島の裏にはスペースが生まれているし、そこを2列目のアタッカーに突かせていくやり方は、自分たちの堅守速攻のスタイルとも合っている。そのため、鹿島のアップテンポな試合への誘いに対して、それほど抵抗を見せる様子はなく受け入れていた。

そんな中で、先にスコアを動かしたのは長崎。7分、鹿島のプレスが弱まったところでサイドからボールを前進させると、左サイドの毎熊晟矢からサイドチェンジ。これを右サイドでウェリントン・ハットが受けると、キープしながらクロス。クロスに合わせたのは大外から飛び込んできた毎熊。見事にヘッドで揺らし、長崎は試合のペースを握る先制点を手にしたのだった。

長崎としてはこのサイドの揺さぶりから、大外にいる2列目のアタッカーを活かす形というのは、試合を通じてずっと狙っていた形であり、まさに狙い通り。一方の鹿島にとっては、プレスがルーズな間も陣形は前がかりになっており、隙が生まれていたところをピンポイントで突かれた形となった。ただ、序盤からアップテンポで試合を進めていくことで必然的に前がかりになっており、そうした中でその裏を突かれて失点してしまうことはある程度リスク管理として想定していた可能性はある。

叩き割りたい鹿島

先制点を手にした後も長崎はボール保持にこだわりを見せることなく、撤退守備からの速攻狙いのまま。必然的に鹿島がボールを握って攻め、それを長崎が受ける展開となった。

鹿島はゾーンディフェンスの間を切り崩すことよりも、サイドから攻め込みそこからのクロスで叩き割ろうとする意識が強かった。ゾーンディフェンスでは比較的ケアが薄くなるサイドのところからアタッカーたちに運ばせ、そこからのクロスを強力なターゲットに合わせていくことで、ゴールを狙う。個々の質で勝っているということを前提にした攻め方であり、それを後押しするかの如く17分頃からはクロスに合わせるのが得意なカイキをトップ下に回し、サイドに松村と遠藤康を置く形となっていた。

17分~

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鹿島は押し込む時間こそ長かったものの、中々ゴールを奪うまでには至らない展開が続いていく。次第に強引なプレーも目立つようになっていき、そこで生まれたミスから長崎にカウンターでピンチを作られるシーンもあった。前半アディショナルタイムにカウンターから突かれたピンチでは、クォン・スンテのファンブルもありあわやというシーンだったが、常本のクリアによって間一髪救われた。あそこで2点差にされているとかなり厳しくなっていただけに、常本のプレーはビッグプレーだった。

ガードの効かない中で殴る

前半を0-1で折り返すと、後半キックオフ前に雷と雨足が強まったために試合再開が50分ほど遅れることに。

とはいえ、後半に入っても鹿島のやり方は変わらない。サイドにボールを運んでそこから切り崩して、クロスからゴールを狙う。ボールを持ち続けた鹿島は長崎のペナルティエリア手前まで侵入する回数がかなり増えていった。長崎にとっては、この耐える展開の中で多少なりともボールを保持出来れば、この押し込まれ続ける展開に抗えたのかもしれない。

50分、ついに鹿島が同点に追いつく。押し込んだ中でスローインを手にすると、そこでの繋ぎから常本がクロス。この右サイドからのクロスにニアでカイキが合わせて、ネットを揺らした。ゴール近くのスローインとなれば、組織的なゾーンディフェンスは効力を発揮しにくく、単純にゴール前での力比べの局面になってくる。長崎の守備の強みより、鹿島のアタッカーの強みが活きやすい環境が作り出されていたのだ。

鹿島が追いついたのちは、一度長崎が攻め込む展開も生まれたものの、また鹿島が攻めて長崎が守るという局面に戻っていく。さらに、この時間から雨が強まり出し、ピッチではボールが上手く走らなくなっていき、両チームロングボール中心のスタイルを余儀なくされていった。

60分、鹿島は逆転に成功する。得点のきっかけとなったのはまたも相手陣内深くでのスローイン。こぼれ球を拾ったディエゴ・ピトゥカの左サイドからのピンポイントクロスに合わせたのはエヴェラウド。相手の守備の強みが活きにくい状態、ピトゥカの質の高いボール、エヴェラウドの強さが組み合わさって生まれた得点であった。長崎はこの失点の直前にビクトル・イバルボと都倉賢らを用意して、ロングボールの蹴り合いに合わせた布陣にしようとしていただけに、耐えきれずに喫してしまったこの失点は痛恨だった。

鹿島優位の土俵に

鹿島が逆転して以降はピッチ状態もあり、お互いにロングボールを蹴り合ってどちらが押し込めるか、という勝負になっていった。鹿島はエヴェラウドとカイキ、長崎は都倉とイバルボ。彼らにシンプルにボールを預けて、センターバックとどんどん勝負してもらう。こうなると、個々の質で勝る鹿島の方に主導権が傾くのはある種必然とも言えた。前線でエヴェラウドとカイキは競り勝って起点を作り、最後尾では町田浩樹と林尚輝が相手のロングボールをはね返し続けた。

74分には、追加点。右サイドで得たフリーキックを永木亮太が蹴ると、これにファーサイドで合わせたのは林。長崎にとってはまたも守備がセットした状態ではないところから失点を喫することとなってしまった。逆に、鹿島としては永木のボールの質が素晴らしく、相手が誰も触れないところに蹴り込んだのが全てだった。

結局、この後も鹿島は相手に主導権を渡さないままタイムアップ。3-1で逆転勝ちし、ベスト8へと駒を進めた。

まとめ

先制点を与えてしまったことで厳しい戦いが予想されたが、終わってみれば快勝とも言うべき逆転勝ちである。

勝因として大きいのはやはり相手のゾーンディフェンスに真正面から向き合うことはせずに、徹底的に自分たちの強みをぶつける形で行ったことだろう。雨の影響でロングボール中心にならざるを得なかったことが鹿島に味方したのも確かだが、自分たちの強みであるアタッカーの質をぶつけ続けることを長崎がかなり嫌がっていたのも事実。結果、ゴールを奪ったのは全て長崎の守備の強みが活きづらく、逆に鹿島の個々が活きやすいセットプレーの局面だった。

こうした一発勝負ではいかに相手の嫌がることを続けて、自分たちの強みを押し出し続けられるか、というところが勝負を分けてくる。今節の鹿島はそうした点においては忠実だったと言えるだろう。

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