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【公式戦は甘くない】ルヴァン杯 GS 第1節 名古屋グランパス-鹿島アントラーズ レビュー

戦前

リーグ戦開幕一週間前のルヴァンカップ。この試合に対するスタンスには主に二つの考え方があるだろう。一つは通常ミッドウィークに行われる試合と同じく考えて、主力からメンバーを大きく入れ替えて若手中心で臨むスタンス。もう一つは、リーグ開幕への最終調整も兼ねて主力組を投入するスタンスである。名古屋も鹿島も考え方としては後者を選択した。

ちなみに、名古屋はジョー、太田宏介、宮原和也らがケガで不在。ジョーと同じく1トップ候補だった新加入の山﨑凌吾はケガ明けということを考慮してベンチスタートになり、起用されたのは2列目が本職の前田直輝だった。また一方の鹿島は、内田篤人、遠藤康、白崎凌兵らがケガで不在であった。

スタメン

スタメン

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試合終了前 ※松村退場前

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序盤の鹿島の攻勢と関川郁万

立ち上がりに主導権を握ったのは鹿島だった。名古屋は陣形を動かさず、2枚のセンターバックと2枚のボランチがそのままの形で攻撃を組み立てる形を採用してきた。そこに2トップから積極的にプレッシャーを掛けていく鹿島。そのプレッシャーが予想以上だったのか名古屋はかなりミスが多く、高い位置でボールを奪われては、鹿島のショートカウンターを受けるシーンが目立った。ロングボールを蹴ろうにも、最前線にいるのは1トップが本職ではない前田。空中戦で関川や町田に競り勝つのは厳しく、名古屋は中々自分たちのターンに持ち込むことが出来ずにいた。鹿島としては、ここで先制点を決められれば言うことなかったのだが、最大のチャンスだった和泉が抜け出したシーンもシュートはポストに弾かれて、ゴールならず。エヴェラウドも足元のボールを上手くコントロールできないシーンが目立ち、チャンスを逸するシーンが多かった。

ただ、ビルドアップでも鹿島は立ち上がり上手いことボールを前進できていた。名古屋は今季、前線からのプレッシングをゲームモデルに組み込んでいるようだが、序盤その姿勢を見せていたのは1トップの前田とトップ下の阿部浩之の2人だけで、後ろの8人が続かず間延びすることが目立っていた。根性でなんとかしようとする名古屋のプレス部隊2人に対して、鹿島はセンターバックの2枚プラスボランチの三竿健斗の3人、時にはキーパーのクォン・スンテも加えて組み立てを実行。数的優位を活かして、難なくボールを運ぶことが出来ていた。特に光ったのは右センターバックに入った関川郁万。彼はただボールを前につけるだけではなく、ドリブルで持ち上がることも出来ていたため、前線にスペースと時間を与えた状態でボールを運ぶことが出来ていた。

名古屋の修正と鹿島の課題

序盤殴られっぱなしの名古屋。流石にまずいので、修正を加えてきた。まず、ロングボールの供給先をサイドに設定。裏のスペースにボールを蹴り込んで、そこにスピードのあるマテウスと相馬勇紀を走らせることで、そこからカウンターに移ることは出来なくとも、陣地を回復するという目的を果たし、けん制を入れて一方的に殴られる展開を避けられるようにした。

また、時間の経過と共に名古屋の組み立て部隊が鹿島のプレッシャーに慣れて落ち着いてきたのも大きいだろう。鹿島のプレッシングは単騎で光るシーンこそあったものの、チーム全体としての連動性はまだ決して高いとは言えず、また2トップの負担がかなり大きいものなため、2トップの意思疎通が合わないと名古屋は数的同数でも真ん中からボールを運べるシーンが増えていった。鹿島にとってはここが一つ目の修正点だろう。2トップだけでボールを奪い切ろうとするのではなく、まず2トップにサイドにボールを追い出すよう限定してもらって、限定した先で奪いきるようにするのが形としては理想的だ。今のままでは90分強度を保つことが出来ず、また消耗の度合いの割に成果が出ているとは言い難い。

また、鹿島の組み立て対策にも修正を加えてきた。1トップとトップ下の2枚だけでなく、サイドハーフやボランチも連動して前に出るように。また、鹿島の右サイドからボールを運ばれるシーンが目立ったため、そこを切って鹿島の左サイドにボールを運ばせるように限定するようになっていった。

鹿島の左センターバックの町田浩樹は決して組み立ての部分で悪くはなかったが、右の関川ほどボールを運ぶことは出来ず、また最後尾のクォン・スンテからのパススピードが遅く、町田に渡る前に相手からのプレッシャーが迫っており、町田にボールをコントロールする時間とスペースが与えられない場面が目立っていた。

そして、名古屋は攻め手を右サイドに見出す。右サイドハーフのマテウスのところで起点を作り出し、彼の個の突破力はもちろん、1トップの前田との連係で右サイドを突破、さらに逆サイドに展開してフリーで待ち受ける相馬勇紀の突破力も活かすという、3つの選択肢を鹿島に突き付けながら流れを自分たちに引き寄せていった。前半終了間際のゴールシーンはその流れで奪ったものでもある。右サイド深くで三竿が滑って誤って相手を倒してしまいフリーキックに。そのフリーキックをマテウスが直接沈めて、鹿島は先制を許してしまった。ファウルを犯した三竿のミス、クォン・スンテのポジショニングの問題もあるが、ここは決めたマテウスを褒めるべきだろう。

エネルギーを注げない後半

後半になり追いかける立場になった鹿島。攻撃の起点を右サイドに置きボールを前進させながら、チャンスを窺うようになる。右サイドに偏りがちだったのは、先程も触れた関川の存在と、右サイドバックの広瀬陸斗が単独でボールを奪えていたからというのもあるだろう。

ただ、広瀬がボールを持っても手詰まりになるシーンが多く、結局アーリー気味にクロスを上げては跳ね返されてしまうことが目立ってしまっていた。最終ラインの裏を狙う選手が少なく、また起点としたかったエヴェラウドが本調子ではなかったこと、さらに彼と周りの選手との連係や距離感が上手くいっていないこともあり、中々中央に縦パスを入れることが出来ずにいた。

また、前半でスタミナを消耗してしまったというのもあるだろう。水戸戦でもそうだったのだが、ボールを奪われた後に前半のようにすぐに奪い返しにいけず、そのまま名古屋にボールを運ばれるシーンは後半の方が多くなっていた。ハマらなかった部分含めて前半のプレッシングで体力を使ってしまったこと、またプレスを効果的に繰り出すために「休む」という意味合いも込めたビルドアップでも、安定してボールを保持することが出来なかったことが、スタミナの消耗に影響しているのであろう。ここの部分が整備途中ということは後半に攻勢を仕掛けることが難しく、それはリードされた展開において特に影響してくる部分であるということである。

奮闘した途中出場の若手たち

それでも、鹿島は途中出場の選手が流れを変えつつあった。まず、最初に登場した荒木遼太郎。他の味方と動きが被る部分もあり全てが効果的だったとは言えないが、サイドから中央寄りでボールを引き出し、そこからボールを運ぶことで、ゴールに迫るシーンを作り出していた。

次に登場したのが上田綺世。鹿島での今季公式戦初戦だった訳であり、シュートチャンスこそ中々訪れなかったが、裏への抜け出しというチームに欠けていた動きを何度も繰り返すことで、相手のディフェンスラインを押し下げ、中盤以下の選手がボールを持てるスペースを作り出していた。

そして最後に登場したのが松村優太。右サイドの一番大外に位置取り、ドリブルで仕掛ける役割を務め、ボールを持ったらまずドリブルで相手ゴールに迫り、個の力でシュートチャンスを作り出そうとしていた。

こうしてなんとかチャンスを作り出そうと苦心していた鹿島だったが、終了間際に松村のゴールキーパーへのスライディングが危険なプレーを取られて、一発レッドで退場。結果として追い上げムードに水を差すことになり、そのまま試合終了。鹿島の2020ルヴァンカップは黒星スタートとなった。

総括

チームとして完敗だった訳ではないが、やはり完成度の低さが公式戦になるとモロに影響してしまうことを改めて突き付けられてしまった。しばらくは相手の土俵で戦うと厳しく、自分たちのペースに持ってこれないと、結果は出てこないというもどかしい試合をこなすことになるだろう。もっと言うと、先制出来ないと厳しくなるという、サッカーにおいて不変の定理が余計に重くのしかかってくる状態である。ひとまずは、もう一度プレッシングの質を改善して、チャンスの数を増やしていくことが先決だろう。


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