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【春の実力テスト】練習試合 鹿島アントラーズ-北海道コンサドーレ札幌 レビュー

戦前

Jリーグが中断となって、約1か月。この期間、鹿島アントラーズは継続してトレーニングを積み、並行して3月1日にジェフユナイテッド千葉、3月4日にザスパクサツ群馬、3月7日にグルージャ盛岡、3月11日に大宮アルディージャと練習試合計4試合も併せて行って、いずれの試合も勝利。この北海道コンサドーレ札幌戦は練習試合5試合目となり、この中断期間で初めてのJ1クラブとの練習試合となる。

一方の札幌はリーグ開幕戦で柏レイソルに2-4で敗戦。その後リーグ中断が決まると、熊本でのキャンプを予定より延長した後に札幌に戻り、トレーニングや練習試合を経て今日の試合に臨んでいる。

鹿島はレオ・シルバなどが、札幌はク・ソンユンなどが欠場している。

スタメンと布陣遷移図

スタメン

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後半開始時

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61分~

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70分~

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73分~

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76分~

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82分~

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85分~

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得点経過

49分 鹿島 ファン・アラーノ
63分 札幌 鈴木武蔵
65分 鹿島 町田浩樹
78分 札幌 鈴木武蔵
88分 札幌 ジェイ
90分+2 札幌 ジェイ

プレスは一定の成果が

まずは鹿島の守備について見ていく。この日も前線からのプレスを基本線にしていた鹿島は、2トップがスイッチを入れることで札幌のビルドアップを阻害して、高い位置でのボール奪取を狙っていた。対して札幌は3バックで数的優位を作る、ボランチを1枚落として4枚になって鹿島の2トップ+2列目と噛み合った時はキーパーも加えて数的優位を作ることでボールを前進させようとしていた。

プレスについては一定程度の効果があったように思える。練度が高くないことで労力をムダに消費している場面も見られたが、相手に数的優位を作られてもそれを補う勢いでプレスをかけ続けたため、札幌にロングボールを蹴らせたり、あるいは狙い通りに高い位置でボールを奪えるシーンも何度か見られていた。札幌もロングボールの供給先は、自分たちのウィングバックのスピードが活かせ、かつ高い位置を取っている鹿島のサイドバックの裏と決めていたようだが、ここでの対応も落ち着いており、ボールは回収出来ていた。ただ、このショートカウンターからのチャンスを前半は決め切ることが出来なかったのが、鹿島にとっては痛手だった。

赤点ビルドアップ

問題は、鹿島のビルドアップだ。札幌は5-2-3で守り、鹿島と同じくハイプレスを採用してきた。これに対して、鹿島は前半ボランチの三竿健斗が最終ラインに降りて3枚でのビルドアップを試みていた。

ただ、鹿島が3枚でビルドアップを行うと、札幌の前線のプレス部隊である1トップ2シャドーの3枚としっかり噛み合ってしまう。キーパーも加えれば数的優位を作ることが出来るが、キーパーのクォン・スンテは決して足元の技術に長けているとは言えず、ビルドアップの枚数に加えるには不安が残る。こうなるとビルドアップが発展途上の鹿島は札幌との数的同数を回避できなくなり、次第に苦し紛れのロングボールが増えていった。前半は確かにチャンスが多かったが、同様にピンチも少なくなかった。自分たちが試合をコントロール出来ずに、想像以上にハイテンポで試合を進めてしまったからだろう。

札幌が3枚で前から来るなら、何も三竿が最終ラインに降りることはなく、2枚のセンターバックと2枚のボランチのまま、4枚で数的優位を作ってボールを前進させれば良かったのだ。札幌がプレスの枚数を増やしてきたのなら、サイドバックも受け役に回すなどして札幌を前がかりにさせ、そこからのロングボールで前線の4枚にボールを渡して、疑似カウンターのような状態で攻めることも出来たのだ。札幌の左センターバックの福森晃斗はスピードに不安を抱えており、鹿島もその部分は狙いどころにしていたようだ。右サイドの裏のスペースをファン・アラーノが裏抜けで狙うシーンが試合を通じて何度か見られ、後半はその流れで得たセットプレーから町田浩樹のゴールが生まれただけに、そういったシーンを再現性を持って作り出せる可能性はあったのだ。

ビルドアップでボランチが最終ラインに降りるのは、それが数的優位を作りたいという目的の下で効果的だから行うのであって、それでも数的優位が作れないのならわざわざポジションを動かす必要性はないのである。ザーゴ監督がこうしたプレーを選手たちに求めるのは繰り返すが数的優位を作るという目的の下であって、なぜ数的優位を作るのかと言われれば、その方が自分たちにとって有利な状況を作り出せるからである。逆に言えば求められているプレーは、自分たちに有利な状況=(この場合は)数的優位を作り出すことなのである。つまり数的優位を作り出すことさえできれば、必ずしもボランチが最終ラインに降りる必要はないのである。ゲームモデルというのは自分たちが試合を有利に進めるための原理原則であって、その原理原則を実現するための手段は試合の状況に応じて常に変化していくものである。同じプレーを常に選んでいればいいという訳ではない。鹿島はチーム内で目的と手段を改めて定義していく必要があるだろう。

守備の基準点を見つけよう

前半はお互いにチャンスを作りながら0-0で折り返した両チームだが、後半早々に試合が動く。札幌陣内での札幌のスローインから鹿島がプレッシャーを掛けて相手のミスを誘うと、三竿の縦パスを受けたファン・アラーノが決めて、鹿島が先制。この場面は前線からのプレスがハマった良い場面と言えるだろう。

ただ、ここから鹿島は徐々に運動量が落ちていく。理由は前半から試合をコントロール出来ずに、ハイテンポで試合を進めてしまったからだろう。前線からのプレスを仕掛けても連動せずに単騎特攻のシーンが増えていった。

こうなると、札幌はポゼッションにある程度余裕が出てくる。札幌はサイドにボールを振ってからのクロスに活路を見出していた。ゴール前に鈴木武蔵やアンデルソン・ロペスなどターゲットがいたこともあるが、これが鹿島の弱点を突くことにもなっていたのだ。鹿島の守備はボールを基準点として個々がコンパクトな位置取りを取る形になっている。ただ、当たり前だがボールは動き続けるために、ボールが動けばその分だけ位置取りを変化させていく必要がある。今の鹿島は基準がハッキリしている場合は各自の位置取りも的確なものになっているのだが、基準であるボールが動かされることによってブレてくると、スライドが追いつかず間延びが生じてしまうシーンが目立つようになってきてしまっていた。特にサイドチェンジされた時は視野がリセットされてしまうため、それがより顕著になっていた。

1失点目はその形からだ。札幌が左サイドでボールを持った時に鹿島のスライドが寄せが甘くなったところでクロスを上げる。そのクロスは流れたが、右サイドで札幌が再度ボールを拾った時には、鹿島守備陣の視野はリセットされている。そこからもう一度クロスを上げられ、鈴木に決められてしまった。ただ、このシーンは大外に走り込み、サイズで競り勝てるように広瀬陸斗とのマッチアップを選択した鈴木の位置取りも褒められるべきだろう。

連続した最終ラインのミス

その後セットプレーから勝ち越した鹿島だったが、選手交代をしてもスタミナが削られたことにより発生した間延びは改善されず、特にセンターバックがブエノと関川郁万のコンビになると、最終ラインを押し上げられず、間延びは広がる一方になっていった。

こうなると、プレスはもちろん、個々の距離感が広がっているだけ、ボールを奪われた際にすぐに人数を掛けてボールを奪い返す即時奪回も難しくなっている。2失点目は即時奪回が上手くいかずに札幌にカウンターを食らい、足が止まりかけていた広瀬が鈴木をたまらずファウルで止めてしまい、それで与えたフリーキックから失点したものである。

さらに、最終ラインのマズいプレーはこれだけではなかった。札幌にサイドチェンジを繰り返されて、守備の基準点をブラされると、右サイドのクロスからフリーで途中出場のジェイに合わされて、逆転を許してしまう。この3失点目のシーン、サイドチェンジで視野がリセットされたことにより、関川はボールウォッチャーになっており、ブエノはボールホルダーとジェイから目を切ってしまったため、ジェイの動き出しに全く反応することが出来なかった。

そして、後半ATには再度右サイドのクロスをジェイに合わされてラストプレーで追加点を奪われてしまう。このシーンも、名古はジェイへのマークをブエノに受け渡したはずだったが、受け渡されたブエノはジェイに付いていかずに目の前であっさりとヘッドを許してしまっている。3失点目と合わせて、あまりにもあっさりとやられすぎと言われても仕方のない失点だろう。

総括

結局、試合は2-4で終了。鹿島は今季初めてJ1勢からゴールを奪ったが、勝利を奪うことは出来なかった。ただ、逃した決定機が多かったことを考えれば、もう少し上手く戦えていれば結果は違うものになっていたかもしれない。

ただ、結果はこの試合において大きな問題ではない。もっと大きな問題は公式戦3試合で露呈した課題が、この試合でも改善されずに露呈してしまったことである。正直に言ってしまえば、この一か月でチームとしての上積みをあまり感じることが出来なかったということである。ここが改善できなければ、安定して好成績を残していくことは難しいだろう。

まずは、ビルドアップ。もっと言えば、各々のプレー判断の正確性の向上。この課題改善は待ったなしである。





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