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道路交通法の改正でロボットが公道を走れる時代へ

2022年4月19日、「道路交通法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議で可決され、4月27日に公布されました。ちまたのニュースでは、電動キックボードが「いよいよ車道を走るようになる」「ヘルメットは努力義務」ということで多くの報道がなされました。一方で、メディアにはあまり取り上げられませんでしたが、、、、笑、ロボット屋にとっても非常に感慨深い日にもなったわけです。

法律案の概要には、このように書かれています。

本案は、最近における道路交通をめぐる情勢等に鑑み、特定自動運行に係る許可制度を創設するとともに、特定小型原動機付自転車及び遠隔操作型小型車の交通方法等に関する規定並びに特定免許情報の個人番号カードへの記録に関する規定の整備等を行うもので、その主な内容は次のとおりである。
一 (省略)
二 (省略)
三 原動機付自転車のうち、車体の大きさ及び構造が自転車道における他の車両の通行を妨げるおそれのないものであり、かつ、その運転に関し高い技術を要しないものである車として一定の基準に該当するものを「特定小型原動機付自転車」と定義し、その交通方法等に関する規定を整備すること。
四 人又は物の運送の用に供するための原動機を用いる小型の車であって遠隔操作により通行させることができるもののうち、車体の大きさ及び構造が歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして一定の基準に該当するものであり、かつ、一定の基準に適合する非常停止装置を備えているものを「遠隔操作型小型車」と定義し、その交通方法等に関する規定を整備するとともに、遠隔操作型小型車の使用者は、当該遠隔操作型小型車を遠隔操作により通行させようとする場所を管轄する都道府県公安委員会に届出をしなければならないこととすること。
五 (省略)
六 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。ただし、三は公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から、五は公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。
道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出第五二号)(参議院送付)の概要

電動キックボードなどが「特定小型原動機付自転車」と決められ、自動配送ロボットなどは「遠隔操作型小型車」として定められました。もちろん、すべてのロボットというわけではなく、遠隔操作により通行する、最高速度や車体の大きさなどの基準を守ったものに限定はされますが、遠隔操作型小型車であれば、歩行者と同様の交通ルール(歩道・路側帯の通行、横断歩道の通行等)が適用されることになっています。

私自身の研究開発活動を振り返ってみても、15年くらい前にも「これからはロボット特区だ!!」という話で、福岡の天神や中州の商店街や様々な屋外環境でロボットを走行させる実証をさせて頂きました。その後も、2011年には、つくば市でもロボット特区としてセグウェイなどの小型ロボットを街中で走行させる取り組みがなされてきました。このような中でもなかなか実現できなかったのは、「特区」という枠を外すことかと思います。

今回の法改正により、これまで曖昧だった「ロボット」という存在を明確に定義された状態になり、「特区」という枠組みを超え、広く一般に移動ロボットが利用される第一歩になったことは間違いないです。

2019年5月に出された政府の成長戦略の中で「宅配等への活用が期待される自動走行ロボットの社会実装を目指し、 2019年度内に道路使用許可の申請に対する取扱いの基準を策定するなどして実証のための枠組みの構築を行い、自動走行ロボットの公道上での実証を実現する。加えて、本格的な社会実装に向け、2019年度内に官民による協議会を立ち上げ、同協議会における議論も踏まえながら、ロードマップの策定及び社会受容性の向上のために必要な措置、必要なルールの在り方、求められる安全性等についての検討に着手する。」と記載されてから約3年(関連リンク)、その年の6月には官民協議会の準備会も立ち上がり(関連リンク)、2020年5月に当時の安倍総理が未来投資会議で「宅配需要の急増に対し、人手を介さない配送ニーズが高まる中、低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行する。関係大臣は具体的に検討を進めて頂くようにお願いする」と述べてから約2年(関連資料)。2021年6月の成長戦略実行計画には、「自動配送サービスを実現するため、低速・小型の自動配送ロボットについて、(中略) 産業界における自主的な基準や認証の仕組みの検討を促すこと等を前提に、本年度のできるだけ早期に、関連法案の提出を行う。」という文言が書かれ、道交法改正案は3/4に閣議決定され、法案提出は見事に達成されました。これを早いと見るか、遅いと見るかは人それぞれですが、個人的にスゴイスピードです。

今回は関係者の皆さまの多大なる尽力を、かなり身近で見る立場になりましたが、本当に頭が下がります。街の中をロボットというモノが走行するというのは、想像以上に多くのステークホルダーが存在します。警察庁自身も「多様な交通主体の交通ルール等の在り方」という文脈で多くの議論を行っていましたし、議論に混ぜて頂いたこともありました。法改正に向けて、課題を1つ1つを議論していく作業は、政治家の方々、官僚の方々、民間企業、そして、普通に暮らしている住民の方や既に移動に不便を感じている交通弱者の方など、多くのステイクホルダーのご協力で実現できたと思います。

最後に法律案として提出された文章は、論文とか特許とかの文章しか慣れていない私には、難易度が高すぎるものでしたが、多くの方の努力の塊かと思うと、なんだか可愛らしくも見えてくる気もします!?
もし興味ある方は、是非リンクリンク読んでみてください。笑

道路交通法の一部を改正する法律案

私のように全文読むのを諦めた方は、概要として以下のように纏められています。

出典:第5回 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会 資料5

一方で、多くの懸念点もメディアで取り上げられています。マックス20km/hくらい出る電動キックボードに関しては安全性について、配送ロボットに関しては、他の移動体(人を含む)との共存について、などなど。多くのご意見はごもっとなご意見です。

作る側も使う側もルールを作って終わりではなく、どのように使うのかということを真剣に考えていかないとイケないと思います。このあたりは国会の中でも議論もされていました。国会中継って、正直ちゃんと見たこともなく、NHKでやってますよね~くらいの印象だったのですが、さすがに自分の身近なテーマが絡む法律だと、どんな質問や議論がされるのか興味を持つものです。そして、ちゃんと一字一句まで公開されています。

そして、付帯決議が採択されています。配送ロボットに関しては、「他の移動者との安心安全な歩道での共存」「事故や非常停止時の対応」が指摘されています。調べて見ると、付帯決議には法的な力はないようですが、担当する二之湯国家公安委員会委員長が「趣旨を踏まえ、適切に対処」と発言されているように大事な指摘でもあるので適切に対処されていくんだと思います。

政府は、本法の施行に当たっては、次の事項に留意し、その運用等について遺漏なきを期すべきである。
一 (省略)
二 (省略)
三 遠隔操作型小型車(以下「自動配送ロボット等」という。)が歩行者の安全を脅かすことのないよう、悪質な使用をする者に対し厳正に対処すること。
四 (省略)
五 (省略)
六 (省略)
七 視覚障害者を始めとする身体障害者やお年寄り、子どもなどが安心して歩道を通行することができるよう、電動キックボード等及び自動配送ロボット等の歩道走行の在り方について検討した上で、必要な措置を講ずること。
八 (省略)
九 (省略)
十 (省略)
十一 (省略)
十二 自動配送ロボット等については、事故や非常停止が生じた場合の対応を速やかに行うことができるよう、自動配送ロボット等の使用者による対応方法等を検討した上で、必要な措置を講ずること。
十三 (省略)
十四 (省略)
十五 (省略)
道路交通法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

ちなみに海外の状況はいうと、少し前になりますが、2020年に経済産業省の令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤機構事業 (自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた調査)の中で、NTTデータ経営研究所が調べています。187ページに渡る大作です。

令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤機構事業 (自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた調査)  21ページ

世界的にも色々なトライアルがなされていますが、日本において今回の道交法改正の中のロボットに関する部分が「施行」されるまで、あと1年。タイトルに書いたように「ロボットが公道を走れる時代へ」になることはほぼ確実です。これを「ロボットが公道を『走っている』時代へ」できるかは、メーカー、サービサーのこれからの動きに掛っています。微力ながら頑張っていきたいと思います!!

では、また来週~。

では、また来週〜
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安藤健(@takecando)

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