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ゼロ円で導入して農家の収入に応じて課金するモデルを実現したアスパラガス収穫ロボットinaho社

ネットでロボット企業を調べてみるシリーズ第四弾。これまでにiRobotIntuitive SurgicalUniversal Robotと海外の既に売上が十分に上がっている企業を調べていましたが、今回は日本のアグリテックベンチャー「inaho」について調べてみたいと思います。本格的事業が開始されたのは、2019年10月と半年前なので実績はまだまだわかりませんが、初期費用&メンテナンス費用無料で完全な収穫量連動のRaaS(Robot as a Service)モデルを採用し、業界大注目の会社です。

農業ロボット

数年前に日曜劇場「下町ロケット」で自動運転トラクターが紹介されて以来、一般の方にもある程度認知されるようになった農業分野でのロボットですが、人手不足の背景もあり、今後間違いなく伸びる市場と考えられています。複数の調査レポートがありますが、農業用ロボットの市場は2020年の74億ドル(約8000億円)から2025年には206億ドル(2.2兆円)に達し、年間成長率(CAGR)は22.8%で成長すると予測されています。無人トラクタからドローンによる点検・農薬散布収穫ロボットなど様々はロボットが世界中で既に活用されています。

書籍も入門的なところから本格的なものまでいくつか出ておりますので、興味ある方は以下をどうぞ。

inaho社とは?

inaho社はアグリ分野のベンチャーで2017年1月に創業。菱木豊さんが代表取締役CEOを務め、現在25名くらいです。菱木さん自身はエンジニア出身ではなく、調理専門学校、不動産系などでキャリアを積まれ、2014年頃から人工知能に注目、2015年に農業というフィールドにフォーカスを当てているようです。様々なインタビューと読んでいると、ガチガチのロボット屋さんではなく、現場の感覚を非常に大事にされており、だからこそ非常にユニークなビジネスが展開できているのではないかと思います。

本社は鎌倉ですが、佐賀を中心に開発、実証、事業立上げを推進されています。

現在は、アスパラガスを収穫するロボットを開発しており、導入費用・メンテナンス費用無料で収穫金額に応じて課金するというビジネスを進められています。

創業からたった2年で実際に農家への課金を開始するというスゴイスピード感を持っており、2019年には伊藤忠テクノロジーベンチャーズなどから1.7億円の資金調達を完了するなど、今まさに伸びようとしている会社ではないでしょうか。

農業はどうなっているのか?

では、inaho社が挑戦している農業という業界をもう少し見てみましょう。少し数字を追ってみると、2010年には、約261万人いた農業就業人口が2019年には約168万人と、約35%減少しています。そのうち、約70%を65歳以上の高齢者が占め、平均年齢67歳と高齢化もすさまじい業界です。また、地方での人手確保や後継者不足なども深刻になっています。

何年続けられるかわからない、後継者もいない、という状況ではなかなか高額な投資はできないという状況だと思われます。

それでも、米やジャガイモのように一括収穫できるものはこれまでもトラクターのような機械化が進んできましたが、トマトやアスパラガスなど大きさや形を1つずつ確認して収穫適期のものだけを選択収穫する野菜の場合は、人手が基本となっています。

その中で、アスパラガスは種まきから収穫まで3年かかりますが、1kgあたりの単価はトマトが400円前後に対して、アスパラガスは1,000円を超えるなど野菜の中でも単価が高い状態で安定しており、かつ収穫期も8カ月程度あり、稼働率を高く出来るため、ロボット化には向いている野菜と言えるかもしれません。

収穫ロボットという意味では、国内でもinaho社以外にもアグリスト、デンソーやパナソニックなども取り組んでいます。

inaho社の技術

開発しているロボットは、クローラタイプの移動機構の上で、先端にカッタが付いたロボットアームが動いており、作物の成長具合を判別する赤外線センサー付きカメラとディープラーニング機能が備わっているようです。畑に設置した白い線に沿ってルート走行するため、畑の中を移動するだけでなく、ビニールハウス間の移動や夜間の利用もできるようになっています。資料によるとGPSを使った自律走行も可能なようです。

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引用:inaho社資料

収穫方法は、アスパラガスの画像から長さや穂先などの形状をもとに、収穫時期にあるかを判別。収穫時期のアスパラガスをロボットアームの先端のカッタで1本1本収穫し、ロボットに備え付けたかごに入れていく。かごがいっぱいになると、農家のスマホに連絡が行くので、無人での稼働が可能になっています。1本のアスパラガスを収穫する時間は現在12秒で、稼働時間は約10時間とのことです。収穫性能は18年は収穫率50%・収穫時間30秒程度だったものが、現状収穫率90%・収穫時間12秒と短期間でかなりの性能アップが実現されており、これくらいになると収穫性能的にはパート3人分の働きを担うことができます。

また、もう一つのポイントとしては、様々なデータを蓄積することができるようです。気温や日射量などの環境データ、成長率や収穫率などの成育データ、作業の時間や内容などの管理データなどです。さらに、将来的にはこれらのデータを有効活用して、収穫の自動化だけでなく、さまざまな観点から農業経営を支えるシステムを構築していく予定のようです。

inaho社のビジネスとビジネスモデル

前述したように収穫ロボット本体を販売するのではなく、無料で貸し出し、使用料をもらうというRaaS型(Robot as a Service)になっています。従量課金制の中でも、使用時間に応じて課金するモデルではなく、収穫高に応じて課金するというのがユニークな点になっています。収穫による売上に対して課金するので、市場価格の変動にも対応でき、農家にとっても導入しやすくなります。現在は、アスパラガスの場合は、「市場取引価格×重量の15%」を農家はinaho社に払うというモデルです。平均的な農家だと1000万円強くらいを販売し、大体年間150万円くらいをinaho社に払うという状況になっているようです。ロボット導入前が人件費180万円くらい掛っているとのことなので、農家にとってはロボット導入により売上は変わらないけど、利益が改善できるため、メリットがあるという感じです。

ネットで調べる限り、何年間使用しないといけないみたいな制約があるようにも感じなかったので、ロボット業界においては私が知る限りには他に例を見ないくらい思い切ったビジネスモデルだと思います。

今後は、アームを変えることで、トマト、いちご、キュウリ、ピーマン、なすなどの他の作物にも対応していくとのことです。例えば、アスパラガスの収穫時期である2~10月はアスパラガス農家へ、11~1月はイチゴ農家へと1年を通して異なる農家に貸し出すことで収益性を高めることを想定しています。

また、拠点も拡大する予定で、2022年までに九州地区で24拠点、全国で40拠点を開設し、20年にはオランダに拠点を構える予定のようで、台数的には2019年40台、2022年には8400台運用(150万円/台とすると売上126億円)を計画されています。(23年IPOという文言もありました)

今後の想定される課題・ポイント

勝手に想像してみたいと思います。

・RaaSモデルを続けるための「経営改題発見装置」となれるか?

RaaSモデルのジレンマとして、導入しやすいとともに解除もしやすいということがあります。冷たい言い方をすると、従量課金になっているので、他によい性能のロボットが現れれば、そちらに乗り換えてしまうことができてしまいます。これを避けるためには、複数の人が指摘していますし、私も以前のロボット学会誌で書きましたが、収穫性能を上げるということに加えて、収穫ロボットであるとともにIoT化により、「経営課題発見装置」としてロボットを使えるか、農園の経営を改善するための次の提案をし続けられるか、というのがポイントになっています。inaho社もデータ活用と言うことを書かれているので、既に十分に意識されてと思いますが、いかに早くその仕組みを構築できるのかというのが課題になってくるのではないでしょうか?

・サービス体制をコストを抑えながら拡張できるか?

inaho社はRaaSモデルを取るが故に、ハードのコストを下げるという戦略を取っています。各種のインタビューでも

「ロボットの部品の90%以上をモノタロウなどの通販サイトで購入可能な汎用品にすることで、安価なハードウェアを実現している」
「耐久性を求めなければ安価な部品を使える。センサーなどは年々進化し安くなる。その時々の最も良い部品に交換する」

という内容を言われています。当然、安価なモデルを採用する場合には、品質はそこまで高くないというか、修理の頻度が増えてくると思います。台数が増えたときの、高頻度修理を実現する体制の構築(アライアンス含む)がポイントになるはずです。また、いくら安価な部品を採用していると言えども、クローラにアームが付いていればロボットの部品代としてはそれなりにするはず(当初600万円の売切りも考えていたそう)で、RaaSモデルにすることで、初期はキャッシュフローが結構傷むはずです。それに加えて、修理などのサービスコストを台数拡大時期まで凌いでいくことができれば、大きく化ける可能性が十分にあると勝手に思っています。

新しいビジネスモデルに果敢に取り組んだロボットベンチャー。是非、大きく広がって言って欲しいなと思います!

菱木豊CEOによるピッチは以下からご覧ください。

では、また来週~!!

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