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世界中で36秒に1人の手術を行う手術ロボットda Vinci(Intuitive Surgical社)について調べてみた

最近、大学・大学院で授業をさせて頂くことがあるのですが、冒頭ロボットビジネスに関して色々と質問をしてみます。大学なのでロボット技術に関することは勉強していてもロボットビジネスについては基本的にはほとんど考えたことがない、というのがほとんどという状況です。

その中で良く聞く質問としては、「産業用ロボット以外で一番事業として大きい会社はどこですか?」というものがあります。何を評価軸にするかによって、一番は異なるかもしれませんが、大体どの軸で考えても、ドローンのDJI社手術ロボット"daVinci"のIntuitive Surgical社ロボット掃除機"ルンバ"のiRobot社が入ってくると思います。iRobot社については、以前少し調べて見たので、今回はIntuitive Surgical社について調べてみたいと思います。

手術ロボット

手術ロボットとは、遠隔ロボットの一種(マスター・スレイブ型ロボット)で、離れた場所から医師が操縦桿を操作すると、患者の体表に開けられた小さな穴から挿入されたロボットアームが医師の操縦どおりに動くことで手術するものです。

約1cmと非常に小さい切開で手術ができ、患者へのダメージが少ないこと、医師の動作の手振れ補正や縮小動作(医師が1cm動かすと、ロボットは1mm動くなど)により、非常に精密な作業ができること、などが大きな特徴となっています。

現在、急速に市場が拡大しており、手術ロボットの市場規模は、現在国内で200億円くらい、グローバルで約4500~5000億円市場と言われています。

最近は一般のニュースなどもちょくちょく出てきますし、昨年はドラマ「ブラックペアン」などで紹介されていたのを記憶されている方もいらっしゃると思います。

なぜ今、注目されるのか?

では、なぜ、手術ロボットが日本で注目されているのでしょうか?個人的な推測でしかないですが、理由は2つあると思っています。

● 保険適応範囲が一気に拡大したこと
● 特許期限切れにより日系企業からの商品化が間近になってきていること

これまでキラーアプリである前立腺がんなど特定の疾患のみが保険適用の対象となっていましたが、その有用性を背景に2018年4月から肺がん・胃がんなど主要な疾患が対象になりました。結果として、一回200万円とも言われていた手術費用が人によっては10万円で受けられるようになっています。

日本は手術ロボットの台数はアジア1とも言われていますが、稼働率は世界最低水準で、1台当たりの年間症例数は約100例。1台で年間900症例近い米国などと比較すると大きな課題です。保険適用の拡大がこのような状況を改善するかもしれません。

また、技術面に関しても、1990年頃に米国のスタンフォード研(SRI)やMITなどで軍事目的で開発され、1999年にIntuitive Surgical社から商品化されたときの基本特許が切れ始めており、参入障壁の1つが崩れようとしています。日本勢ではオリンパス、ベンチャーであり空気圧技術を使ったリバーフィールドや川崎重工・シスメックス系のメディカロイドなど多くの参入が間近と目されています。

海外勢も積極的で医療機器大手のMedtronicやGoogle系のVerilyとジョンソン・エンド・ジョンソン系のVerb Surgicalは、AIなども積極的に活用しながら2020年にはda Vinciより小型かつ安価な商品をリリースすると言われています。そして、なんと言っても中国勢は国策として安価な手術ロボットの開発および導入を進めています。

da Vinci (Intuitive Surgical)のビジネス状況

手術ロボット市場は、現在は完全に”da Vinci”一強という状態です。

da Vinciは最近でこそ安いモデルも出てきていますが、元々1台約3億円という高額な値段にもかかわらず、2018年3月時点で累計約4528台(国内約300台)が販売され、年間で100万件に近い手術に使われているとも言われています。Intuitive Surgical社は2018年には売上3724M$(4077億円)、純利益1127M$(1234億円)を達成しています。売上の額にも驚きですが、更に驚くのは、30%という利益率です。メーカとしては異常なレベルです。この高い利益率は、彼らのビジネスモデルによるです。

売上全体の中で手術ロボット本体が占める売上げは約3割に過ぎません
残りの7割を占めるのは、消耗品(53%)とサービス(17%)です。ロボットアーム先端のハンドにあたる鉗子などの手術器具は10回使用すると交換が必要になっており、交換頻度の高い消耗品になっています。一方、サービスはロボット本体の保守と関連する医師や看護師などへの教育訓練です。このような収益モデルを構築することで、利益率30%という高収益を実現しています。いわゆる、手術ロボットという言葉からイメージする事業とはギャップがあるかもしれませんが、プリンターのトナーや髭剃りの剃り刃のような消耗品のビジネスモデルを展開しています。

ただし、intuitive surgical社も危機感を強く持っていると思われます。

現行da Vlnciもそろそろ米国市場を一巡し始める頃でしょうし、いくら消耗品ビジネスと言えども対象市場を広げようとしています。

da Vinci自体は、廉価版(da Vinci X)を定価1億7000万円で販売開始していますし、パイオニアとして蓄積してきた知見・ノウハウは決して特許が切れたくらいでは下がらないレベルの障壁になっていると思われます。

また、新しいロボットとして肺などへの生検用ロボットIONも投入し始めているようです。

https://m.youtube.com/watch?v=0ZaobUiJhCQ

このように日本企業が業界構図を塗り替えるのはそんなに簡単ではなさそうですが、いよいよ本格的な競争が始まることは間違いなさそうです。

いずれにせよ、各社の技術、ビジネスモデル、収益がどう変化して行くのが注目していきたいと思います。

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