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『コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共にあることを受け容れるための技法』という名言

「しびれた。心の奥の方がしびれた」。心地よい気持ちと共になぜかそう思った。

本を読んでそう思ったのはあんまり記憶にない。そんな本でした。ドミニク・チェンさんの「未来をつくる言葉ーわかりあえなさをつなぐためにー」。スラスラと流れるように読めるという類の本ではないかもしれないですが、是非味わいながら最後まで読み進めて頂きたい本に出会いました。

多様性に満ち溢れた社会をどのように作っていくのか、そのような社会の中でどうやって共に在るという形を作っていくのか、について実に多面的な視点で書かれている本です。ここまでの多面性は、フランス・アメリカ・日本など複数の国々とその文化、情報学・哲学・アートなど複数の学問領域への関与されてきたドミニクさんだから書ける、まさに作品。

そもそもコミュニケーションとは何なのか?

本書の中でさり気なく書かれている『コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共に在ることを受け入れるための技法』という言葉は、多くの人を勇気づけるととともに、皆がこう思えば、多くのヒトとヒトとの関係をより良い方向に導き、より良い社会を実現できるんだろうと心の底から思いました。

最近流行の1on1も基本的には相手をわかるために傾聴し、コミュニケーションを取ると考えがちです。私もそんなときもあります。ただし、わかろうとすればするほど、離れてしまうことも多々あるように感じます。そうではなく、

・まず分かり合えていないことを確認し、お互いにしっかりと受け止める
・その上で同じ場所に存在し、進んで行くことをお互いに受け入れる

そのために存在しているのがコミュニケーション。

わかりあえなさは、埋めるべき隙間ではなく、新しい意味を作る余白

娘さんの日本語とフランス語の話など直近なところから始まり、哲学、科学、情報学、民俗学など多くの領域の興味深い事例を通すことで、「コミュニケーションとは何なのか?」「これからの多様かつ混沌とした社会をどのように明るい未来にしているのか?」そのことをスーッと理解し、最後にすべてが繋がり、完全に痺れました。静寂と感動が一気に来る感じです。

●能で使われる「共話」という文法的には完成していない相互補完的かつ自律的かつ他律的な自他の境界を溶かすためのコミュニケーション。

●ドゥルーズが否定的に捉えた「人は統合的な個人ではなくなり、いくつもの社会属性やデータの束としての分人」を肯定的に捉え、鈴木健さんの「なめらかな社会とその敵」に書かれているような分人化された「わたしたち」による関係性に満ち溢れた場の実現。

●ぬか床の多様性から感じる「共生」の意義。

●ベイトソンの個体ではなく関係性から出発する哲学。

●日常で使う言葉や使う技術が、個としての世界の認識の仕方、他者との関係の築き方に与える影響。

●数百メートル離れていても共在感覚を持つボンガンド族。

この事例だけ読んでもよくわからないような少し難しめの「ヒトとヒト」、「わたしとあなた」、「わたしとわたしたち」に関する様々な言葉がまさに縦横無尽に紡がれ、わかりあえなさをつなぐためにはどうしたら良いのか、それができる未来をみんなでつくりたい、自然にそう思うことができました。

(言葉の)「翻訳行為には必ず漏れがある」。もちろん、違う言語もそうであるし、おそらく日本語同士であってもそう。家族レベルで話していてもそうであろう。それぞれの環世界の中で作り上げた言葉によるコミュニケーションは、わかりあえなさを理解するためのものである。

そして、「言葉とはいつも遅れて到着するもの」。非常によくわかる。いつも若干の後悔をもつ。なんであのときにあぁ言えなかったのだろうか、こんな言葉を使ってしまったんだろうか。それでも共に在りたいと思い、進んで行く。そのためにコミュニケーションは存在しているのだと思う。

まだ頭の中できれいに消化できていない状況でこの記事を書き、すでに上手く表現できていないのですが、笑
是非とも読んで頂きたい、むしろ感じて頂きたい本です。


そんなドミニクさんにインタビューをさせて頂きました。こちらも良ければ、ご一読ください。(宣伝のようになってしまい、申し訳ございません!)

なお、インタビュー自体は昨年度実施したものです

こちらの中では、ドニミクさん監訳書『ウェルビーイングの設計論』、そして近著の『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために』とも絡めながら、我々のAug Labの活動についてもアドバイスを貰っています(後編は5月中には公開になるはず)。この2つもWell-beingとテクノロジーの関係を体系的に理解するにはベストではないかと思います。


では、また来週~!!

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