見出し画像

定時先生!第10話 部活はどうした

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「中島先生は生徒も知ってるくらいいつも定時退勤なわけじゃん?先生方からはさ、どう思われてるかなってこと」

 職員トイレで北沢が真っ直ぐ遠藤を見つめている。質問の反応を待っているのだ。

「…なるほど確かに定時先生だわ。周りからは…今は働き方改革大事って言うし、やっぱすごいって思われてるんじゃない?」

 遠藤の返答を食い気味に北沢が続ける。

「だよね。遠藤くんは初めての教員生活な訳だけどさ、ホント大変じゃん?この仕事。毎日夜遅いし休日は潰れるし。それがだよ、あんな風にほとんど定時で帰れるってすごくないか。俺去年は講師でこの学校いたけど、ずっとあんな感じよ。中島先生。」

 まくしたてるように北沢は話すが、遠藤は北沢ほど中島を評価している訳ではなかった。中島の仕事の早さは確かに尊敬できる。だが、中島と初めて会話を交わした職員会議では、内職に勤しみ会議を流す姿に適当さを感じてしまっていた。それに、皆が残業する中一人定時で退勤するのも疑問だった。皆でやれば早く終わる仕事もあるだろう。それに、部活はどうした。うちは全員顧問制だ。定時で帰っているのなら、放課後練習は誰かが代わりに負担しているはずではないか。部活動は、その活動のほとんどが定時外なのだから。

「北沢くん、だいぶ憧れてるね」
「俺今年は中島先生の真似しようと思ってるんだよね。遠藤くんもそうすれば」
「…目標の先輩を真似した方が良いって言うしね」
「だろ。まずは、部活減らそうと思ってる。中島先生のバド部って、週2しか活動ないからね」
「え、週2?」
「そう。朝練1回、放課後練1回。放課後はうちのバスケ部と体育館半面ずつで一緒になるけど、17時過ぎには解散させて、中島先生もそのまま帰ってるみたいだね」
 
 遠藤の胸中に、複雑な感情が押し寄せた。週2の部活動なんて有り得るのか。俺はソフトテニス部に向かう足が重くなっている。週2ならどれだけ良いだろう。いや待て、週2では生徒の活躍の場を奪っていることにならないか。どうやら部活動を誰かに投げてる訳ではなさそうだがー

 足元に野球部の軟式ボールが転がってきた。拾い、投げ返すと、野球部員は帽子を取り深々と頭を下げた。グラウンドの端にあるテニスコートで、ソフトテニス部の活動を見守りながら、遠藤は先ほどの北沢との会話、そして中島のことばかり考えていた。
 時刻は、もうすぐ18時になる。