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定時先生!第19話 減らせる気はしない

本編目次 

第1話 ブラックなんでしょ

「実は、部活が辛くて、減らしたいんです。でもー」
「でも?」
「ーでも、減らせる気はしないです」

 遠藤は、少し俯き、そう呟いた。中島は黙ってハンドルを握り、前方を見つめている。ただ、遠藤の絞り出した言葉だけが車内を反響し続けているように感じられる。二人の無言が、その苦悩がいかに解決困難かを示していた。

「俺がS中に来る前ー」

 中島が切り出し、俯いていた遠藤は、顔を上げた。

「ー俺の前のバド部顧問がそれはもう熱心な人だったんだ。平日は朝練放課後練もフル稼働。土日は両日朝から夕方までやってるような週7部活だった」
「週7ですか…」
「俺は前の学校でもバド部だったからS中バド部のことは知ってたし、着任すると知った時は、どう部活を運営していくか悩んだよ」
「今じゃバド部の活動は週2回なんですよね。どうやってそこまで減らしたんですか」

 食い入るような表情の遠藤。一方中島は、表情と同様に発言からも、謝罪が滲んだ。

「…少しずつ、減らしたんだ。3年生の最後の大会が終わる夏を待ってからね。日曜の午後、次に月曜の朝練、週5、週4ってね。本当はすぐに解決できる特効薬を教えられたら良いんだけどー」

 中島は不甲斐なさを感じながらも、こう声をかけるしなかったのだ。

「ー今の状態までには5年かかったよ。申し訳ない。遠藤先生も、3年生が引退してから、少しずつ減らしたらどうだろう」

 今度は、中島の言葉が車内に余韻を残し、再び沈黙が車内を包んだ。中島は、少なくともあと数年は部活動の重荷を背負うよう、遠藤に我慢を強いてしまっているように感じていた。中島は、目線だけで遠藤を見た。再び俯いていた遠藤の表情を伺い知ることはできない。
 中島の憂慮を余所に、この時遠藤の胸に過っていたのは、中島への感謝だった。謝罪されてしまったが、それは本来、部活動顧問を命じる立場の管理職でもない中島が負う必要は全くない感情だ。それほどまでに自分のことを真摯に考えてくれてたのだ。それに、解決策の見えない部活動負担を、出口のない闇を歩くように感じていた遠藤にとって、中島のケースは、闇を照らす一筋の光明に他ならなかった。
 とはいえ、中島が詫びたのは、その光が、頼りないほど細いためであり、その点に間違いはない。遠藤は、中島に謝意を抱きながらも、正直なところ半信半疑であり、思わずこう口にしていた。

「それでうまくいきますか」
「わからない。状況次第かな」

 そう返されるとはわかっていたが、うまくいくよ、と言ってほしかった。