「故郷はとても寒く、甘辛く、そして美味しい」─バーテンダーの書く#ふるさとの風景
12月になった。飲食業では体感時間が半分ほどになってしまう、文字通りの忙しい”師走”である。
この時期になると周りから、「年末年始は何をして過ごすの?」なんて聞かれるけれど、30日の深夜まで働き、そのまま仕事場のスタッフと常連さん達で忘年会、31日はビストロ時代の仲間で集まり、ダラダラと鍋をつつきながら年を越す。元旦の朝には、友人宅よりそのまま4時間ほどかけて実家のある群馬へ向かい、その寒空とニューイヤー駅伝を観ながらまた酒を煽る。
両親と祖母の毎年のルーティーンは変わらず、息子が久しぶりに帰ってきているというのに、お昼頃には家の近くの中継所へ選手達の応援へと出て行くのだから、1人ポツンと居間に残された僕は、こたつで温まりながら手作りの御節料理を食べ、飲み、年越し蕎麦の余りを啜って、そのまま軽く寝る。そのうち我が兄も帰宅し、夜は決まって”すき焼き”で宴会だ。
群馬県は必要な食材を全て県産で揃える事ができる「すき焼き自給率100%」として、数年前より”すき焼き県”を謳っている。全国の皆様へ伝わっているかは別として。
そうして2日を迎えればもう仕事が始まり、「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」とお客様へおしぼりを出す。
こんな過ごし方を、かれこれ5年以上続けている。なので今年はもう少し何かのアクセントをつけたくなった。
そういえば、「今年の疲れは今年の内に流しておきましょう」と行きつけのタイ古式マッサージの先生に言われていたっけ。奮発して本場の3時間コースを予約してみようか。そう考えたら忙しい日々も、楽しめる気がしてきたぞ。
なんだかんだでそろそろ、実家で過ごした18年間を、1人で横浜に住んでいる時間が越えてしまう。それでも群馬の寒空は今も好きだし、毎年必ず帰ろうとも思う。家族で食べるすき焼きも、相変わらず美味しいし。
『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。