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「勝ち組たちの一夜」─#呑みながら書きました

「勝ったな、と思った事はあるか?」という僕の問いに対して、我が友は「それはどういう意味なのか」と、どうにもピンときていない様子であった。

「キミは随分前に起業して、社員がいて、結婚していて子供がいて、同じような歳の僕よりも収入が3倍くらい違っていて。どう見ても成功者なのだと感じるワケだけれど。勝ち組になったなって思うた事はあるか?って意味だよ」

「相変わらずシニカルだねぇ。嫌いじゃないけど」

 彼は自分のグラスに口を付けながら軽く笑った。

「けっこう、真剣に質問しているのよ?」と言うと、

「勝ったな、ってのはないなぁ。でも……」

「でも?」

「初めて大きな仕事を自分の会社名義でクリアして、黒字になった時はデスクで泣いた」

「それそれぇ! そういうのが欲しかったのよぉ!」

 僕はグラスをグイッと傾ける。

「ヒトのちょっと良い話を酒の肴にするなんて、相変わらずイイシュミしてるよホントに」

「そんなに褒めないでよ」

「褒めてはない」

 お互いのグラスが空になり、また同じ酒をトクトクと注ぎ合った。

「そっちは?」

「ん?」

「勝ったな、って思った事だよ」

「あー……、んー、仕事ではまだないかねぇ。雇われの身ですからなぁ。でも……」

「でも?」

「大好きなアンティカを飲みながら、大好きなジャンゴ・ラインハルトを流して、こうやって親しい友と2人で語らう余暇が作れるようになった今は、それなりに幸せ」

「そういうのいいから」

「照れんなよぉ」

「照れてはいる」


(606文字)



『編集後記』

 "呑みながら書きました"の企画へ初参加させていただきました。最も好きな酒の1つであるアンティカ・フォーミュラというベルモットをお供に楽しく書けましたが、やっぱり一筆書きは緊張します(笑)

 内容は自身の実話を元にしたフィクションですが、酔ってくるとなかなか描写や表現が思いつかず、普段よりも会話を沢山入れて誤魔化した次第でございます。

 楽しい企画をありがとうございました。他の方の記事もこのまま呑みながら肴にさせていただく事にします。

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『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。