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自#175|東大に合格するより難しい(自由note)

 アエラで、将棋の記事を読みました。現在、空前の将棋ブームだそうです。ブームの立役者は、18歳になったばかりの天才少年、藤井聡太二冠(王位・棋聖)です。雑誌やウェブマガジンで、次々に特集が組まれ、棋界と一般社会との距離が近づいているそうです。

 ブレイクしたのは、藤井さんのお陰ですが、棋界は藤井さんの登場以前から、将棋をよりポピュラーにするために、地道に活動をしていました。プロ棋士が所属し、タイトル戦などの大会や各種イベント運営を手がけるのは、日本将棋連盟ですが、日本将棋連盟は、2006年に「学校教育課」を立ち上げています。これは、東京都教育委員も務めた米長邦雄会長(当時)の肝いりで、伝統文化としての将棋を、次世代に継承する目的で設置したセクションで、学校教育への将棋導入推進事業を行っています。具体的には、小学校・中学校・高校を対象に、申し込みに基づいて、プロ棋士や女流棋士、指導棋士を派遣し、1校あたり年10回を上限に、総合学習で将棋の歴史を学んだり、放課後やサタデースクール、部活動や委員会活動など、幅広い取り組みに対応して来たそうです。申し込みは、2007年度の43校から、順調に伸びて行き、2019年度は、176校に増えています。
「派遣先は将棋会館のある東京・大阪を中心とした、関東と近畿圏が主になりますが、これとは別にアマチュアの普及指導員が全国で千人以上、フル活動していて、統計に表れない普及が浸透しています。小中学校の3人1組の団体戦も、地方予選からの参加者が増えています」と、将棋連盟普及課は、PRしています。

 こういった事業は、新進棋士奨励会のような、プロの養成に直結する活動ではなく、庶民の遊びである将棋の魅力を伝えることで、文化の裾野を広げることが目的であって、期待に違わない成果が出ている様子です。

 将棋を子供に習わせようとする保護者は、将棋の思考力が、学力を伸ばすことにつながるかどうかを、知りたいと思っているのかもしれません。が、将棋と、学校の教科における学力との相関関係を調べた調査考察はないそうです。そもそも、学力の向上を目指して、将棋を習わせるとかって、ある意味、邪道です。ただ、東大に合格するより、新進棋士奨励会から、プロ入りする方が、はるかに難しいとは言えます。アニメ作家として成功したり、バンドのプロになったり、画家として名をなしたりすることが、東大に行くより難しいのと同じです。東大には、時間をかけて、手順をきちんと踏んで勉強すれば、おそらく誰でも合格できますが、アーティストは、才能がないと、世の中に出て、いい仕事をすることはできません。

 将棋のプロになる場合の条件について、将棋ライターの松本博文さんは
「少なくとも6歳ぐらいまでに将棋を始めた同世代の中で、突き抜けた存在の『筋のいい子』が、時間が許す限り、将棋に没頭することが、トッププロになる条件。伸び悩む子もいるけど、最終的に残るのは、そういう人です。棋士と学問との適正は、別モノです」と、語っています。

 私も、長年バンドの部活の顧問をして来ました。各学年の部員は、平均して35名くらいです。ボーカルとかギター、ドラムの「筋のいい子」は、10年に一人くらいはいます(ベースは2人くらい)。つまり、350人に一人くらいは、「筋のいい子」がいるわけです。が、プロになることを勧めたことは、かつて一度もありません。いくら筋が良くても、プロのアーティストになれるかどうかは、判らないんです。音楽は、将棋とは較べものにならないほど、筋の良さ以外のモノが求められます。見た目、「華」があるか否かと云うことも、決定的に重要です。「華」がなければ、スタジオミュージシャンにしかなれません。

 プロになるためには、一万時間が必要だと言われています。アンダース・エリクソンと云う方が、チェスや音楽家を対象に調査し、プロになるためには、一日、3~4時間の集中したトレーニングを10年間ほど続け、計一万時間が必要だと云う結論を導き出しました。が、この結論は、あくまでも必要条件です。プロになった方は、一万時間くらいの練習時間は、楽々、こなしています。一万時間、練習しても、プロになれない方は、沢山います。アーティストの場合、一万時間=プロ、では決してないんです。一般の仕事の場合は、一万時間やれば、だいたいプロの域に到達します。教師も、10年間くらい教壇に立っていれば、一人前になると言われていますから、この法則は、当てはまっています。

 プロ棋士の脳内が、集中している時、どういう状態になっているのかを、MRIなどを使って分析し、画像を抽出した実験結果があります。脳内の状態は、どうやら人によって、大きく違っているようです(個人はそれぞれ別の人格ですから、まあそれが、あたり前って気もしますが)。たとえば、羽生九段の場合は、81マスの盤面を4分割した部分図が高速スライドして、脳内を動き回っていたそうです。森内九段は、盤や駒だけでなく、対局室の小物までが、オールカラーで、脳内に浮かぶ超リアル型だったとか。清水市代女流七段は、色も形もそのとき次第で、海の中を駒が泳いでいたり、動物が駒のお面をかぶって走ったりするファンタジー型。糸谷八段は、9×9のかっちりした将棋盤が頭の中に出て来て、それを次々に動かして行く、オーソドックスな将棋中継パターン。渡辺名人の頭の中には、盤自体がなく、ダークグレーの空間に、駒の形や文字もはっきり浮かばない暗黒星雲型。この暗黒星雲型に近い、暗い脳内に黒っぽい駒らしきものが、うごめいていると云うタイプの方が、どうやら一番多いそうです(佐藤九段、郷田九段、久保九段、広瀬八段、里見香奈女流四冠)。何か、これって、解るような気がします。

 プロは、負けの宣言の礼をして終了したあと、感想戦を行います。つまり、最初から一手一手、再現し、この時は、こういう手もあったと、ふりかえり、分析、反省をやっているわけです。当然のことながら、一手目からの駒の動きを全部、覚えています。正直、これは驚異的な記憶力です。将棋と学力との関連は、やっぱりありそうな気がします。私は、小6で将棋を止めて(まあ遊びで指していただけですが)ヤンキーな道に、走ってしまいました。あのまま、将棋を続けていたら、もうちょっと賢くなっていたかもです。

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