【受験ノート】東京外語大学

 東京外大の最寄り駅は、西武多摩川線の多磨駅です。そこから南東に少し歩くと、東京外大。反対方向に出ると、山本五十六や内村鑑三らの墓がある巨大な多磨霊園。大学の北側には野川公園。東側には武蔵野の森公園。つまり、国木田独歩が描いた武蔵野の自然に、どっぷりと取り固まれたー画に東京外大の校舎は建てられています。

 味の素スタジオも、すぐ近くです。FC東京や東京ヴェルデイのサポーターにとっては、便利な大学ですが、普通の意味での華やかなキャンパスライフは、東京外大には存在してません。

 東京外大は、語学のスペシャリストを育成するための学校です。ルーツは、ペリーが浦賀に来航したあとに設置した蕃書調所ですが、その頃から、今にいたるまで、語学を徹底的に学ぶ学校と云うキャラは、一貫しています。東京外大では、27ヶ国語が学べます。フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語と云ったヨーロッパのメジャーな外国語は、ルーツがつまり英語と同じですから、しっかりとした英語力があれば、もうひとつ仕上げることは、そう難しいことではありません。ですが、ウルドゥー語、アラビア語、トルコ語などは、まったくのゼロからのスタートです。大学の3年次には、基本、留学しますから、1、2年の2年間で、語学を仕上げることになります。常に専門語の辞書を持ち歩き、ちょっとした隙間の時間も無駄にせず、せっせと単語カードをめくると云った、ある意味、受験勉強時代よりも厳しい、語学漬けの2年間を過ごすことになります。

 ところで、「語学の勉強をして語学のエキスパートになる=将来の人生が開ける」と云う公式は、さほど、成り立ちません。これが成り立つのは、メジャーな言語だけです。東京外大で学べる27ヶ国語の内、将来、食って行けそうなのはヨーロッパ系のいくつかの言語(英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語)と、中国語くらいです。東京外大では、東南アジアのすべての言語を学べますが、東南アジアの諸国で、高校まで進学した人であれば、全員、普通に英語が喋れます。つまり、会社に入って仕事をするとして、英語のみ堪能であれば、それで充分なんです。英語が、世界の共通語であることは、認めざるを得ない事実です。わざわざ、好き好んで、マイナーな言語を学ぶのは、人生を棒にふる系の個人の趣味だと言えます。

 受験の案内本に、東京外大の現役の学生が、受験生に対して「ちゃんと語学がやれる人語学が好きな人、やる気がある人じゃなかったら、正直(東京外大を)受験するのは、絶対にやめた方がいいです。2年までは、本当に語学漬けなので、合わないと入ってから後悔します」と、本音のアドバイスを書いています。

「英語科の学生の英語力は高いが、他の学科の学生は、入学後、2年間は自分の専攻語の勉強ばかりしているので、英語力は落ちてしまう」と云う忠告も掲載されています。東京外大に進学して、スワヒリ語とか、ヒンディ一語のような、マイナーな言語を勉強したいと進路相談に来る生徒が、3年に一人くらいはいるんですが「マンガ、アニメ、声優、ミュージシャンより、リスクは高い。そのマイナーな言語では、100パーセント、食ってはいけない。仕事もない。普通に英語科に行って、マイナーな言語は、趣味で勉強した方がいい」と、忠告しています。

 東京外大は、語学のスペシャリストを養成する学校なので、語学の授業は厳しいです。入学後、2年間は、ほとんど毎日、専攻語の予習復習をして、ようやく何とか、ついて行けます。試験で点数が取れない場合は、問答無用で、容赦なく留年です。大学は、留年率を明らかにしてませんが、厳しいことで知られている東京理科大より、はるかに留年率は高いと推測できます。長期留学をする学生が、たくさんいるので、どうしても大学の在籍期間は長くなってしまうんだと思いますが、4年で無事卒業できるのは、3人に1人だと言われていますから、留年率は相当高い筈です。

 東京外大には、言語文化学部と、国際社会学部の2つの学部があります。言語文化学部は、各地域の言語や文化そのものに関して、学び研究したい人向けで、入試では希望する言語ごとに受験します。国際社会学部は、紛争や格差、環境問題などを含め、諸地域の政治・経済・社会とその歴史についての知識を深めて、問題解決に取り組みたい人向けで、希望する地域ごとに受験します(国際社会学部の後期は、英社国の3教科で受けられます)。入学後は、両学部とも、専攻地域と専攻言語の学習をします。1、2年次のカリキュラムは、ほぼほぼ同じで、3年次から、言語文化学部の学生は、言語・情報、グローバルコミュニケーション、総合文化のいずれかのコースに進み、国際社会学部の学生は、地域社会研究、現代世界論、国際関係の各コースに進んで、専門領域を学びます。

 1964年の東京オリンピックの時、東京外大の学生が、通訳のボランティアとして活躍しました。その頃ですと、英語が本当にできる学生は、東京外大くらいしかいなかったんだろうと想像できます。今でも、学生の40パーセントが、TOEICの800点を越えています。2年次終了時のTOEICの平均スコアは、729点で、600点に到達するのが目標のような、そこらの国公立とは、さすがにレベルが違います。

 4学期制を導入しています。春・秋学期に必修科目を集中して履修し、本来、春休み、冬休みだった時期を、夏学期・冬学期と位置づけ、短期語学留学や集中講義、インターンシップなどで、活用しています(1年中、勉強ばかりしていると云う感じもしますが)。

 学生会館に食堂は、3つありますが、使い勝手は微妙です。1階のミールは、井物・麺類・小鉢などが選べますが、14時で閉店。2階奥の特別食堂は、夜まで営業していますが、定食が700円以上で、値段がお高め。同じフロアーのさぼおるは、スペース的に狭く、全体としてキャパが足りてません。が、まあお弁当を持って来るなり、コンビニで買い弁をして来るなりすればいいだけのことで、語学オタクの人たちにとっては、食堂のキャパが足りないと云った風なことは、枝葉末節の些事に過ぎないのかもしれません。

 学園祭は、11月末に、5日間に渡って開催されます。専攻語ごとの外国語劇(日本語字幕あり)が、上映されます。ベリーダンスやフラメンコのような民族ダンスも披露され、飲食系も各国料理の模擬店がメインです。いかにも、外大っぽい学園祭です。

 東京外大は、平成12年に府中に移転しました。それまでは、北区の西ケ原にキャンパスがありました。北区のキャンパスがあった頃は、東京外大が昔は、スパイ養成機関だったと云う都市伝説は、結構、あるあるだろうと信じられたんですが、府中に来てからは、割と、人畜無害な、ヤバさのまるでない学校になってしまいました。昔のOBたちは、ちょっと複雑な気持ちなんだろうと、推定できます。

 毎年、5月中旬に、埼玉県戸田市にある戸田オリンピックボートコースで、学内対抗の競漕大会(ナックルフォアと云う5人1組で、1艇のボートを漕ぐ競技)を実施しています。1年の各言語・地域別レースが行われ、1年生にとっては、入学早々に体験する大きなイベントだと言えます。

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