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自#062|決して、急がず、待つ時間を大切(自由note)

 星野概念さんのインタビュー記事を読みました。星野さんは、精神科のお医者さんで、音楽活動もされています。クライアントと面談をしている写真が、掲載されています。紺のクールネックのフィシャーマンセーターを着て、髪は大阪のおばちゃんみたいに、ちりちりにパーマをかけて、眼鏡の奥から、優しそうで、それでいて深い見透すような目で、患者さんを見ています。「診察では、患者と医師の関係ではなく、人と人の関係になれたらいいと考えている」と語っています。患者と医師と云う枠組みと云うか、思考形式の中では、見えて来ないものがあると云う風なことだろうと、推測しました。

 星野さんは、中学校に入って、ギターを弾き始め、高3の時に「Yokohama High School Hot Wave」に出演し、応募総数1758組から選出された20組の中に入り、演奏したと書いてあります。つまり、横浜球場で実施された決勝大会に出演したと云うことです。

 Hot Waveの決勝大会には、最初に勤めたA高校のバンドが出演しました。現在の総文祭のバンドの大会は、福岡などの有力な地区のバンドは、参加してません。Hot Waveは、博多、広島、京都などの地区の、かなり実力のあるバンドが参加していました(関内ホールで実施されていた準決勝大会には、毎年、出演していましたから、どういう大会だったのかは、理解しています。東京のバンドが、まったくもって弱小で、低レベルだと云うことを、嫌と言うほど解らせてくれた全国大会でした)。博多、広島、京都には、高校生離れしたスケールの大きい、バンドが存在していました。何が違うのか、解りませんが、例年、優勝候補だった博多のバンドには、到底、叶わないと思っていました。が、これは、大人と云うか、顧問目線の感想です。出演している高校生にしてみれば、横浜球場のステージで、全国の精鋭バンドに互して演奏できたんだから、プロとして行けるかもと、思ってしまうのかもしれません。星野さんも、将来は、音楽のプロになると考えたそうです。

 が、北里大学の医学部に入学しています。どっかそこらの、Fランクの大学の文系に進学したのであれば、大学のサークルを拠点にして、活動するのもありかなと云うことで、取り敢えず(嫌ならすぐ退学するつもりで)入学したんだろうと考えられますが、医学部となると、話はまったく別です。そもそも、相当hardな勉強をしなければ、私立の医学部であっても、合格できません。医学部に入学した時点で、ダメだった時の保険をかけていたと言えます。

 27歳から、7年間、医師活動を最小限にとどめ、音楽活動中心の生活をしていたそうです。医師免許を取得し、非常勤の医師として勤務していたわけです。大学の担当教授には、「自分は、音楽で売れますから、医局は途中でやめます」と、強気の発言をしていたようです。

 が、売れませんでした。医者の数と、ミュージシャンの数を、比較すれば簡単に解ることですが、医者になるよりも、弁護士になるよりも、公認会計士になるよりも、ミュージシャンになる方が、はるかに難しいんです。音楽のプロなんて、普通の人は、なれません。普通じゃない、特別な何か(something)を持っている人のみ、それもchanceに恵まれた人のみプロになれます。

 音楽のプロになれなかったのは、人生で初めて味わう大きな挫折でしたと、語っています。27歳から、7年間も頑張ったのは、正直、ちょっと長すぎました。27歳から、3年間頑張って、3年間で、芽が出なければ、30歳で、医学の世界に戻っておけば、more betterでした。が、まあ、誰の人生も思い通りにはならないものです。

 星野さんは、精神科医としての仕事に役立てるために、心理学を学びます。臨床心理士と設立されたばかりの公認心理師の資格を取ります。音楽のプロになるハードルの高さと比較すれば、臨床心理士や公認心理師の資格を取るのは簡単です。星野さんは「精神医学は病気の学問、心理学は心の学問」だと言っています。が、心理学だけが、心の学問ではありません。音楽やアート、文学などカルチャー全般が、ある意味、心の学問だと言えます。患者の心をケアするためには、カルチャーのアンテナは、あればあるほど、様々なケースに当てはめて、使用できると考えられます。

 星野さんは、患者を散歩に誘って、話すのだそうです。プラトンやアリストテレスの用いたスタイルと同じです。ラファエロが描いた、バチカンにある「アテノの学堂」では、プラトンとアリストテレスは、歩きながら、哲学を語っています。西田幾太郎が開いた、京都学派は、琵琶湖から引いた疎水沿いを歩きながら、哲学を語っていました。別段、哲学に限らず、ちょっとした世間話でも、歩きながら喋った方が、面白いネタが飛び出したりもします。それに、身体を動かしていた方が、お互いリラックスできます。

 星野さんは、現在、発酵にこだわっているそうです。診察に疲れた心身を癒やしてくれる日本酒。その日本酒をリスペクトしている内に、発酵に興味を持ったそうです。星野さんには、発酵の師匠がいます。広島の杜氏組合長の石川達也さんです。石川さんは、狙わない酒造りを実践しています。狙わないと云うのは、品評会で評価されることを、狙わないと云うことです。音楽の大会で、賞を狙わないのと同じです。「とにかく発酵させきること」を目指しているそうです。

「杜氏の仕事は、原料、微生物、それぞれが個性を存分に発揮し、気候風土も反映した発酵ができる環境づくりをすることだ。結果として、毎年、違った味になるのだが、飲めば生きる力がわく。酒らしい酒ができる」と石川さんは語っています。星野さんは、杜氏の仕事は、精神科医の仕事と、本質、同じだと感じたようです。

「精神科医は、ゴールを決めて、こうしなさいと指示するのではなく、患者さん本人が、どうしたいのかを聞きながら支える。決して、急がず、待つ時間を大切にする。つまり患者さんの伴走をするのが、精神科医の仕事です」と語っています。この仕組みは、カウンセラーであれ、教師であれ、まったく同じです。クーリオの「C U when U get there」のコンセプトとも完全に被っています。

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