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自#080|失敗しても、困るのは本人。だから放っておけ(自由note)

 サイボウズ社長の青野慶久さんのインタビュー記事を、EduAのハイスクールラプソディで、読みました。青野さんは、現在49歳。出身校は、愛媛県立今治西高校です。

 中学時代は、ゲームとコンピューターに夢中だったそうです。ゲームの方は、ファミコン第一世代。コンピューターは、まだ一般的には、ほとんど知られてませんでした。が、存在はしていました。青野さんは、MSXと云うコンピューターを、中2の時、小遣いをはたいて、お買いになったようです。その後は、自作のプログラムを書くことに没頭します。
「高校なんか行かないで、ゲーム会社に就職するんだ」と、思っていた時期もあったようです。愛すべき前途有為な、田舎の中二病の中学生です。

 が、中卒でゲーム会社に入ると云うルートは存在してないので(この頃、ゲーム会社はまだ小さく、仕事も文化祭のノリで和気藹々、ほぼ縁故で人を集めていた筈です)青野さんは、今治西高校に進学します。今治西は、野球ですと春夏通算27回の甲子園出場経験のある、文武両道の名門高校です。青野さんは、おそらく、理数系は得意な生徒だったんです。

 高校生になって、数学の時間に
「16進数のFFを10進数に直すと?」と云う問題を出されて、即座に「255」と答えたそうです。毎日、コンピューターのプログラムを書いているので、基本の数値は、頭の中にinputされているわけです。

 古文などは、まったくやる気がなくて、試験もせいぜい10点台。国語の漢字も「何回も繰り返し書いて練習しなさい」と宿題を出されても「それは、手の運動にすぎない。自分は、違う覚え方をする」と言って、やらなかったそうです。漢字を覚えるのは、手を動かす以外に違う方法があるとも思えませんが、やりたくないことは、やらない主義だったわけです。

 高3の担任が、家庭訪問に来た時
「もう、今学期中にゲーム機はしまって下さい」と、親に申し渡したそうです。おそらく1学期のゴールデンウィークの頃に(ここ以外は、家庭訪問をする日は設定できません)家庭訪問に来た筈です。つまり、夏休みからは本格的に受験勉強の態勢に入って欲しいと云うことです。正直、遅いかなと云う気もします。が、文武両道の学校です。高3の1学期の県大(けんたい)が終わらないと(5月下旬くらいに、3日間連続の部活の大会があって、部活に入ってない生徒も、それを見に行く仕組みです)受験モードには、入れないんです。

 高3の1学期の終わりにはゲームをやめる、これは、担任としては譲れないギリギリの限界のラインだと推測できます。ちなみに当時は、期末試験後は、試験休みでしたから、7月上旬(7月3、4日頃)には、実質、夏休みに突入していました。

 が、青野さんは「点を取るためだけに勉強するのは意味がない」と、理屈をこねて、ゲームをやめません。一向に受験勉強をする気配のない息子を見て、母親は単身赴任中だった父親に相談します。そうすると父親は
「失敗しても、困るのは本人。だから放っておけ」と、きっぱりと言い切ったそうです。自分の子供を信頼している、立派な父親だと言えます。母親は「私立ではなく、国立に入ってくれ」と言ったそうです。これは、親に、わざわざ言われるまでもないことです。地方の県立の名門高校には、私立大学に進学すると云う空気感は、まったくありません。私は、さほど名門でもない(高知は地方では珍しく私立の方が名門です)県立高校の出身ですが、高3の時、担任に「早稲田を受ける」と言った時、相当、驚かれました。
「でも、どっか国立は受けるやろ」と言われました。数学、理科の特別な受験勉強をしなくても、四国にある国立大学くらいなら、合格する自信はありました。
「国立は、受けません。早稲田に行って、演劇をやります。それ以外の進路は考えてません」と、担任に伝えました。

 青野さんが受験した年は、共通一次からセンター試験に移行した頃でした。国立を受験する場合、センター試験は必須です。時期は、今と同じ、1月の中旬。青野さんは、高3の10月末になって、ようやく受験勉強をする気持ちになったようです。センターまで、あと2ヶ月半です。母親にゲーム機を渡して、猛勉強をします。センターまでは、2ヶ月半ですが、国立の本試験までですと、4ヶ月間くらいは勉強できます。で、結局、大阪大学に現役で合格。

 EduAは、受験のためのリーフレットなのに、こんな極端な合格談を出して、「本当にいいの?」と、首を傾げてしまいます。ゲームをやっている高校生は、星の数、浜の真砂の数くらい、全国津々浦々に、どっさりいます。そのゲーマーたちが、青野さんのこのインタビュー記事を読んだら、「なあんだ、10月下旬までゲームやっちゃって、全然いいんじゃん」と、勝手に思い込んでしまいます。予備校だけが、大儲けをすると云う結果になります(10月末までゲームをやったら、現役は記念受験で、ほぼ間違いなく浪人に突入します)。私が、EduAの編集担当でしたら、青野さんに、「理数系は、もともとできたんですよ」くらいのひと言は、語ってもらいます。

 青野さんは、間違いなく、数学と理科は、抜群にできたんです。英語は(理数系にありがちですが)まあ、微妙。国語と社会は、ノー勉の白紙です。これが、10月末の学力です。国語の古典は捨てます。社会は、残りの時間で、合格点まで仕上げます。これは、可能です。英語も同時並行で、実力upを目指します。が、英語は最後まで微妙。合格したのは、英語のまぐれの流れが来たからです。つまり、流れで読める英文が本番の試験で出たんです。国語(現国)のまぐれも同時に来たのかもしれません。

 模試の合否判定は、当然、E判定だった筈です。が、E判定でも、2割は合格します。A判定は、8割合格しますが、逆に言うと2割は落ちます。つまり、最後の最後まで合格することを確信して、猛勉強をした結果、英語のまぐれを引き寄せて、大阪大学に合格したわけです。ずっとA判定でも、自分に自信がなければ、落ちる方のまぐれを引き寄せてしまうんです。模試では、ずっと合格判定だったのに、本番で落ちるのは、メンタルが弱いからです。

 まあ、しかし10月末までゲームを続けるとか、良い子は、絶対に真似をしないで下さい。あつ森で、自分を癒やしている高3生がいるのかもしれません。今すぐ、どっか遠くのおばあちゃんちに、郵パックで、任天堂スイッチとソフトを送りつけて、目の前から遠ざけて下さい。放置すると、ワイルドな自然に還ってしまうかもしれませんが、受験が終われば、ゲームは死ぬほどやれます。草刈りだって、釣りだって、一日中やり続けられます。

 青野さんは、高校時代に何かに没頭することが大切だと仰っています。高3生が、没頭すべきなのは、もちろん受験勉強です。コロナ禍で、わさわさしている内に、もう6月の終わりになってしまっています。誰がどう考えても、コレ、やっぱヤバいよねって、強烈な、超ド級の危機感を持つべき時期、場面だと言えます。

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