地獄のバイオハザード
地獄からの使者マースィー
幼馴染みのマースィーが言いました。マーシーじゃなく、マースィーが。
「オレ、やっとプレステ買ってん。見せたろか?」
「マジで!さすがマースィー金持ちやな」
「オレの家あかんから、たかやんの家持っていったるわ」
超絶ハイパー時代遅れであり、激烈ビンボーだった私は、プレステなるものを間近で見たことが無く、マースィーが家に来るのを楽しみに待っていました。
プレイステーション(初代) SONYから1994年12月3日に発売されたサービス満点の家庭用ゲーム機。「いくぜ、100万台!」が目標だったが全世界で1億台以上出荷されてしまう。
マースィーがプレステを持って家にやってきました。
キキィッ
「ソフト何か持ってんの?」
「はぁ、あるで。はぁバイオハザードってはぁ、やつ。めっちゃ怖いで。はぁマジで、泣くではぁはぁ」
チャリンコ急いで漕いで来たから、めっちゃ息切れしてるやん。
それにしても、なんかよくわからんけど怖そうなゲームだなぁ。
バイオハザード(1作目) カプコンから1996年3月22日に発売されたサバイバルホラー。当時のちびっ子、大人達を恐怖のどん底に叩き落としたゾンビなゲーム。
プレステをテレビに接続しながら、マースィーが叫びました。
「しまった!お菓子とジュース忘れた!」
マースィーは友達と遊ぶ時はお菓子とジュースが無いと死んでしまうのです。
「スーパーで買ってくるわ!用意できたし先に一人でやっといて!」
マースィーはチャリンコをぶっ飛ばして近所のスーパーに行ってしまいました。なぜいつもそんなに急いでいるのか。
「やっといてって、やり方全然知らんけど」
バイオハザードの呪い
私はとりあえずプレステの電源を入れました。ぽち。
プレステの不気味な起動音が静かな部屋に響きます。
(えっ・・・なんか怖いんやけど)
「ウ゛ァイオ ハザァアアド」
外人さんの怖いタイトルコールでゲームスタートです。
(うわっ。プレステってめっちゃ怖いやん何なんこれ)
バイオハザードの呪い プレステ起動音とバイオハザードの恐怖が記憶に残り、その後はプレステを起動する度にバイオハザードを思い出すというやっかいな呪い。WHOによると、この呪いにかかっている人は世界中で5千万人以上いると報告されている。知らんけど。
父親が永久不滅でやり続けているファミコンソフト「麻雀」の画面に慣れていた当時の私にとって、今では笑ってしまいそうな実写映像も、カクカク画面も半泣きレベルの怖さでした。
ひとりぼっちの戦争
ヘタレの私は猛烈にビビりながらも、とりあえず適当にやってみることにしました。
「あれ?何これ?ちゃんと前に進まへんやん」
はやく帰って来てやマースィー。
これめっちゃ怖いやん。
プルルルルルルル
ビクゥッ!
こんな時にかぎって家の電話が鳴り響きます。あーこわ。
「もう何これコントローラーおかしいんちゃう?キャラの動きおかしいやん」
バイオハザードのキャラ操作はラジコン操作で難易度が高く、スーパーマリオみたいに簡単には操作できません。
いつも通りに操作するとキャラが壁に擦りつきまともに歩けない。なんだコレやってらんないよ!と挫折する人もいました。
私はキャラをなんとか無理矢理操作して、前に進ませました。
(何これ何これ・・・?どこ行ったらいいの?)
わけがわからないまま私はゲーム進めていきました。
そして通路を曲がると、えっ?誰か・・・おるやん!
怖い演出の中、初登場のゾンビさんがゆーっくりとこっちをふり向きましたよ!
ああっ、頭落ちた!人間食べとるがな!
これはいけない!怖すぎて声も出ません。
うわっ、こっち来た!
ゾンビがゆっくりと襲ってきました。
うわぁああ!やめてよう、やめてよう!
武器、武器は?あれっ銃ってどうやって撃つの?って銃無いし!
説明書をまともに読んでいなかった私は何もできませんでした。
そしてそのままゾンビに襲われて死んでしまいました。
YOU DIED
(えぇーっ・・・めっちゃ怖い・・・)
私は怯えながら思いました。マースィーは一体どこで何をしているのだ。こんな恐ろしいゲーム持ってきやがって。
くそう、もうええわ。説明書ちゃんと読んでやり直しや。もうなんか腹立ってきた!ゾンビ待っとけや!
恐れていたことが起こりました。遂に私は覚醒してしまったのです。
覚醒とは 説明しよう。普段のたかやんはヘタレのザコキャラだが、ある一定以上の恐怖を味わうと覚醒し、強気のガリガリヒーロー「タカヤン」に変身するのだ。地球の平和を守ってタカヤン!
タカヤン死す
なめんなよゾンビめ。絶対殺したんねん。
怒りモードになった私は、マースィーのことなど完全に忘れてゾンビ討伐に夢中でした。
そして適当にウロウロと館を徘徊し、通路を歩いていたその時ッ!
ガッシャーーーン!!!!!
いきなり窓ガラスをぶち破ってケルベロス(ゾンビ犬)が突入してきました。
うわぁあああああ!!!
私は驚きのあまりコントローラーを放り投げました。
世界中のプレイヤーがのけぞったと言われる恐怖の演出。
ヘタレの私が吹っ飛ぶのも無理はありません。
もしあの時、私が椅子に座っていたら、桂文枝もビックリの豪快な椅子ゴケを披露していたことでしょう。
「ゾンビ犬さん、いらっしゃーい♪」
私は驚きと恐怖で何もできず、またもや死亡しました。
「えぇーっ・・・もう嫌やこのゲーム。泣きそう」
(むっ、殺気ッ・・・!)
振り向くとマースィーが立っていました。
「うわっ、ビックリした!遅いなマースィーどこ行ってたん?これめっちゃ怖いやん!いきなり犬が、あれ?・・・マースィー泣いてんの?」
マースィーは目を擦りながら言いました。
「チャリの座るところ盗まれた・・・」
彼女ができました
あれから数年の歳月が流れ、ゾンビ犬の恐怖もすっかり忘れたある日、私宛に小さな荷物が届きました。
早速開封してみると、その中には・・・
そんな・・・まさかッ!
なんということでしょう!
箱の中には「バイオハサード」のソフトが入っているではありませんか!
私は当時、雑誌の懸賞に応募するのにハマっていまして、運良く何度もゲームソフトを当てていました。
そしてこの時は、今は懐かしい任天堂ゲームキューブ版「バイオハザード」が当選したのです。
これは私が初めてプレイしたバイオハザードのリメイク版で、グラフィック、恐怖がさらに向上している大迷惑なゲームなのです。
確かにプレステ版は挫折した。今回も怖くて難しいみたいだが、成長した今の俺様はひと味違うぜ!やってやろうじゃないの。
でも私は相変わらず貧乏だったので、ゲームキューブ本体を持っていませんでした。
どうしたものか・・・。あっ、そうや!
「ゲームキューブ?もちろん持ってるで!」
困った時の心の友、マースィーはやはり金持ちでした。女の子を紹介することを条件に、ゲームキューブをしばらく借りることができたのです。
ある日曜日、私の部屋に彼女が遊びにきたのですが、バイオハザードの恐怖を体験したいということで、彼女は私のプレイを横でビビりながら見ていました。
私は周りにいるゾンビをすべて倒したので、「もう大丈夫かな」と呟いたのですが、それを聞いた彼女は言いました。
「ちょっと私にもやらせて♪」
彼女はバイオハザードをまったくプレイしたことがありません。
周辺のゾンビは全部倒したから大丈夫かと思い、彼女にコントローラーを渡したのですが、彼女は何を思ったのか、その場所を離れてどんどん進んでいってしまいました。
(あれ、ちょっと、そっちはもしかして。あっ)
悪夢再び
私はこの感じを覚えている。
そう、あの恐怖のシーンを。
ガッシャーーーン!!!!!
彼女を止めようとした瞬間、爆音と共にゾンビ犬登場!お久しぶり!
リメイク版はさらに怖くなって驚きも倍増です!
きゃああああああ!!!!
驚いた彼女はコントローラーを思いっきり放り投げました。
そのコントローラーは私の頭に直撃。
ガッツン。
あいやー!!!
頭に激突したショックで停止ボタンが押され、画面のゾンビ犬は止まり、私達の時間も止まりました。
しんと静まりかえった部屋に流れるのは、彼女の涙と私のうめき声。
(イデデデデデ・・・こんなことって、ある?)
彼女はショックでボロボロ泣いています。
いや泣きたいのはオレや!たんこぶできとるやないかーい
あれからまた、何年もの時が経ちました。
泣き虫だったあの子も、今ではパワフルなお母さんです。そして優しい旦那さん、可愛い子供達と幸せに暮らしています。
恐ろしいバイオハザードも、因縁深いゾンビ犬も、私にとっては甘酸っぱい青春の良き思い出です。
END
ここだけの話ですが、現在タイムマシンを作っているので、その資金に使わせて頂きますね。サポートして頂けたら過去のあなたに大事な何かをお伝えしてくることをお約束します。私はとりあえず私が14歳の時の「ママチャリで崖から田んぼにダイブして顔面めり込み事件」を阻止したいと思います。