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データのリッチ化”に向かう企業 ~前編

「データ分析を行うにあたり使えるデータは多ければ多いほど良い」

これは確かにその通りであり、データをリッチにすることは重要ではあるのですが、AI導入検討をしている企業のいくつかのケースを見ると、“データのリッチ化”を図ることが必ずしもAI活用の成功に結び付いていない例が多々見受けられます。

結論を書くと、この原因はAI活用そのものではなく、AI活用のためのデータをリッチにすることが目的と化してしまうことで起こるものです。そこで本日は、なぜ“データのリッチ化”を図ることが成功に繋がりにくいのかについて、よくある検討シーンと具体的な失敗例を紹介したいと思います。

AI活用を考える上の最重要事項であるデータについて考えるきっかけにしていただければ幸いです。

”データのリッチ化”が目的と化すまでのよくある流れ


“データのリッチ化”に動く企業のよくある流れとして以下のようなケースが見られます。

◆AIを活用して自社の生産性向上やや売上増を実現したい
◆まずは自社が保有しているデータにどんなものがあるか洗い出してみる
◆洗い出してみると、様々なデータが存在していることに気付く
◆保有しているデータに加え、「あんなデータ」や「こんなデータ」が加われば、もっと面白いことが出来るのではないか?とアイデアが浮かぶ
◆データと追加取得や外部調達などに議論が広がる
こういった方向性に関する議論があった上で、新たに取得したいデータについての議論が行われていきます。データを取得するにあたり、検討するべきポイントは4つあります。

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①取得の範囲・量
どんなデータをどれぐらい取得するのか?

②取得の方法
取得するべきデータをどのように取得するのか?

③ゴール設定
データを取得することで何が実現できるのか?

④投下リソース
追加取得に必要な時間・コストはどれぐらいか?

この4つの議論がとても重要で、企業の“データのリッチ化”の成否を分ける非常に重要な生命線になります。まずは失敗例を見ていきましょう。

コンシューマー向けサービス企業の失敗例


顧客数500万人超を誇る国内有数の企業であるX社の事例です。X社ではAIを用いたデータ活用を自社の重要課題として設定しプロジェクトを立ち上げました。その中で、自社保有データに加えて更なるデータを追加取得することでデータのリッチ化を進める方向性が議論されました。大まかな内容は以下になります。

① 取得の範囲・量
保有している500万会員基礎情報に加え、より詳細な情報とその周辺情報の取得。具体的には、職業という基礎情報に加えて年収や月間の支出額などの家計情報を取得する。

② 取得の方法
まずは会員の約5%に当たる25万人分のデータをアンケートを用いて収集する。その後、取得した5%のデータを元に、残りの95%の詳細データを予測するAIモデルを構築する。

③ ゴール設定
詳細な家計データを取得することで、その後のAI活用がより有効的に進むようになる。

④ 投下リソース
アンケート実施にかかる費用:会員へのインセンティブ含め600~700万円
アンケート回答からの予測モデル構築費用:約1,000万円程度
プロジェクトにかかる期間:1年強
※内部のデータ構造の変更など、その他必要な諸々のリソースは一旦割愛

いかがでしょうか?
私はこの話を聞いたときに正直違和感を感じました。特に②取得の方法は、AI活用のためのデータ取得のためにAIを利用するというものであり、手段が目的化してしまっているように思います。予測精度もわからないものをデータとして活用する計画に、そもそも香ばしい臭いがしました。そして、初めて見て結果が見えることに1年という時間であったり、閲して小さいと言えないコストであったり。。。
結局X社の中で最終的にどのように検討が進んだのかは分からないのですが、今のところアンケートを伴うAIモデルの構築を行ったという話は耳に入っていません。

小さく始めることの重要性


AI活用で重要なことは最初の一歩を小さくすることです。
X社の例ですと、どのような成果が見えるのかわからないチャレンジングな施策であるにも関わらず、最初の一歩のためのコストが数千万円・1年がかりの大規模プロジェクトになってしまっています。

最初の一歩のハードルが高ければ、チームや部門としての成功イメージを共有しにくくなってしまいますし、プロジェクトの成否も博打に近くなってしまします。

実際にX社の中でも

全体の5%のアンケート回答データから、残りの会員のデータを本当に予測できるのか?
その精度はどれくらいを目指すのが妥当なのか?
データ予測の為のAIモデル構築に多くのコストを投下することが本当に正しいのか?
という議論は出たと聞き及んでいます。
たらればではありますが、もしこのとき最初に超えるべきハードルを小さくしてプロジェクトを進めていれば、今とは異なる結果になっていたのではないでしょうか。

X社の例は決して特殊な例ではなく、AI導入を検討される企業の一定割合がこの“データのリッチ化”というテーマでの議論が発生します。このときに森に迷い込むことなく、小さなハードルを超えてAI導入に漕ぎつけることがAI活用で重要なポイントです。

そういった意味で、“データのリッチ化”に成功し自社データを活用したAI導入にまで進んだ例はとても参考になると思います。後編では“データのリッチ化”の問題に対して上手く取組、AI活用まで順調に進んだ企業の成功例を紹介します。

~後編に続きます~



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