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“データのリッチ化”に向かう企業 ~後編~

AI導入企業検討企業でほぼ毎回議論になる“データのリッチ化”についての話の後編です。
前編はこちら(“データのリッチ化”に向かう企業 ~前編~)からご覧ください。

前編では、AI導入検討をしている企業が自社の保有データを棚卸した際、もっと多くのデータを保有していた方がAIから有益なアプトプットが得られるという議論が立ち上がり、せっかくなので様々なデータを追加で取得したり外部調達することで“データのリッチ化”を図ろうとするという状況についてお話しました。

この手の話はなかなかうまく行かないケースが目立つのですが、そんなな中でも“データのリッチ化”に成功したケースがあるので、今回はその好例についてご紹介いたします。

Y社が取り組んだこと

成功事例のY社はオンライン専業の旅行代理店です。事例を見る前に前回のおさらいとして、“データのリッチ化”に動く企業の思考の流れを確認します。

◆AIを活用して自社の生産性向上やや売上増を実現したい
 ↓
◆まずは自社が保有しているデータにどんなものがあるか総ざらいしてみる
 ↓
◆総ざらいしてみると、様々なデータが存在していることに気付く
 ↓
◆保有しているデータに加え、「あんなデータ」や「こんなデータ」が加われば、もっと
 面白いことが出来るのではないか?とアイデアが浮かぶ
 ↓
◆データと追加取得や外部調達などに議論が広がる

さて、多くの場合は、如何に新しい種類のデータを取得するかを重点的に考えられるのですが、
貴重な成功事例であるY社は違いました。欲しいデータを創り出すことで“データのリッチ化”を果たしたのです。

Y社はオンライン専業の旅行代理店という特性上、データを活用した施策の成否がそのまま売上に影響します。そのため以前からデータを積極的に活用して集客やサイト回遊率の向上、コンバージョン改善に取り組んできました。
しかしながら、激しくなる同業他社との競争環境や消費行動の多様化により、これまでの戦法では売上の成長を維持することが困難になっており、何かしらの打開策を模索し続けていました。

そんな状況もあり、Y社がAIの活用を目指したことは必然であったと言えます。様々議論がなされる中、AI活用の効果を最大化させるためには、より多くの詳細なデータを活用することが有効であるという考えに至りました。つまり“データのリッチ化”に取り組むという意思決定です。

Y社が多くの他社と異なるのは、“データのリッチ化”の実現手法にあります。
Y社が採用した方法は、外部からデータを取得したり、新規で新たなデータ取得を開始するものではなく、自社が保有しているデータから新たな価値を創り出そうとしたのです。

欲しいデータは創り出せば良い

どういうことかを具体的に説明します。
Y社が保有しているデータには、過去10年以上に亘る旅行商品の販売履歴が有ります。
誰が、いつ、何を、いくらで購入したかという履歴ですね。
Y社は、販売履歴のデータを細分化したり意味を付け加えることで“データのリッチ化”を実現しました

元々は下の表のようなデータを保有していました。

-データのリッチ化-に向かう企業-~後編~-なるほどザAI

販売履歴には『旅程』というものがあります。

しかしながら、いつの時期に出発した旅程であっても、全て同じ取り扱いをしていました。しかしながら、販売履歴には日付のデータを持っている訳ですので、日付に対して「年末年始」や「ゴールデンウィーク」、「盆休み」などの情報を追加で付与したのです。これまでは単純な日付であった「旅程」という特徴量に加え、「期間」という新たな特徴量を生成することが出来ます。
これにより、利用者の利用傾向をより具体的に把握することが可能となったのです。

上の表の例であれば、これまでは会員ID111、222のユーザいずれも『4月や8月出発で5~7日間の旅程を組むことが多い利用者』という分析結果でした。

一方で、新たにデータを創り出したものはこちらになります。

-データのリッチ化-に向かう企業-~後編~-なるほどザA

特徴量生成後は、
会員ID111:『GWや盆休みに5~7日間の旅程を組むことが多い利用者』
会員ID222:『ローシーズンに5~7日間の旅程を組むことが多い利用者』
という分析結果になっています。

特徴量生成前であれば会員ID111のユーザーも222のユーザも同じような顧客セグメントにとらえてしまっていましたが、特徴量生成後においては、両者は全く異なる行動をするユーザとして捉えられています。
そのユーザーがどのタイミングで旅行に行きやすい利用者なのかを今まで以上に詳細に把握することが出来る為、レコメンドすべき旅行プランも両者では異なることは明確です。

また同様に、「旅行代金」という特徴量も、上記の特徴量生成前であればその絶対額を比較していましたが、特徴量生成後においては、旅行代金の絶対額にシーズナリティーを加味した重みづけをすることで、ユーザの旅行に対する費用のかけ方もより詳細に把握することが可能です。
(同じ200,000万円でも、ハイシーズンとローシーズンではその価値が異なる)

まとめ:上手くいくデータのリッチ化とは?

Y社が取ったアプローチは、新たなデータ取得をすることなく新たな特徴量を既存データからいくつも生成するアプローチです。この方法で短期間に“データのリッチ化”を実現させ、AIの活用にも素早く取り掛かることに成功しました。
またY社の事例は特別変わったものではありません。既存データからの特徴量生成は多くの企業で取り組むことが可能であり、やってみる価値が大いにあるアプローチ方法です。

このように企業はすでに磨けば光るデータを持っていることが多くあります。是非とも参考にしてみてもらえると嬉しいです。


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