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『相手を受け止める』ということ

以前勤めていた会社に、苦手な上司がいた。

男性で年齢は僕よりいくつか上。性格はガツガツしていてオラオラしていて、『自分が正しい』と本気で信じている人だった。

自分が気に入らないことがあれば遠慮なく攻め込んでいくタイプで、ある種のカリスマ性があったため味方もそれなりにいたが、おそらく圧倒的に敵の方が多かったと思う。

僕はなぜか彼に気に入られ、直属の部下として1年ほど配属されていたのだが、この期間は率直に行って地獄だった。

ただでさえ敵の多い彼は、自らの一言でさらに敵を増やしたり反感を買っていく。それを裏でひたすら根回しを行ったりフォローをした。

また、彼は仕事ができる人だが、いかんせんそのレベルを周囲に求める。いや、そういう存在があってこそ組織は成長すると思うので求めるのは構わない。

しかし、ここでも問題はやはり彼の性質にあって、できない部下に対しては「なぜそんなことも出来ないんだ!」とどんどん責め立てる。見ているこちらが辛くなるくらい、責められ方や追い込み方が尋常ではなかった。

その中で自分の意に沿ぐわない人や反発する人がいれば、ことごとく他の部署に飛ばしたり辞めさせたりしていた。周囲からは「まるで帝国だね。」と揶揄され、内部にいる僕自身もその表現を肯定せざるを得なかった。


そんな僕自身も、常にいっぱいいっぱいで余裕なんて微塵もなかった。

自分の役職としての仕事+周囲のフォロー+彼から日々振られる大量のタスクで、毎日文字通り仕事に追われていた。

朝は誰よりも早く出勤し、夜は誰よりも遅くまで残って仕事。この時間の中の毎日2時間以上は給料のつかないサービス残業。

他部署の先輩から、「いつも朝早いし夜遅くまでいるよね?無理しちゃダメだよ。」と優しく言われたが、僕はそれに「ありがとうございます。」としか返せなかった。

次々に発生する問題、終わりの見えない量の業務、毎週の納期。

全てがギリギリだった。常に神経を張り詰めていた。日々の楽しみなんて何にもなかった。


そんな中で、上司との定期面談。相手はもちろん冒頭の彼だ。

僕はそれまで、彼に相談という相談をしたことがなかった。相談をする気にならなかったし、したところで何となく返答に予想はついていたからだ。

しかしこの時は既に心身ともに限界だったので、意を決して今の辛い想いを全て伝えようと思った。仕事を辞めようか考えてることまで、全て。

そうして僕が話している途中で、彼から返ってきた言葉は、こうだった。

「じゃあ、どうすればいいと思う?」

予想通りの返答だった。期待を裏切らなかった彼の言動は、僕の『辞めよう』という気持ちを確定させた。

この時の僕が欲しかったのは、そんなものではない。

僕はまずこの辛い想いを受け止めてほしかった。「そうだったのか。頑張ってくれていたんだな。」といった共感だった。そして話の続きを促し静かに聴いてもらうことだった。

「どうすればいいか?」という解決策を思考することは必要である。そんなことは分かっている。

だが、こちらはまだその段階に至っておらず、考える余裕などない。求めていたのは、ただただ受け止めるという行為だった。

***

人とのコミュニケーションの中で、相手の気持ちを受け止めることはとても大切です。

自分とは違う他人、当然考えていることも思っていることも何もかもが違って、最初から全て通じ合えてて分かり合えていることなんてなくて、それはきっと幾度も言葉を交わし時にはぶつかりながらも少しずつ進んでいくものだと思います。

きっとあの上司には、それが圧倒的に足りなかったのだと今にして思います。現に当時の同僚も、「相談しても無駄だった」ということを言っていたので。

僕は心理カウンセラーの勉強の中で、「カウンセラーには共感力が必要だ」ということを教わりました。

当初はそれが何なのかいまいちピンときませんでしたが、今ならそれが痛いほど分かる気がします。

相手の気持ちを、想いを、心情を受け止める。

このことをこれからも忘れることなく、人と接していきたいです。




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