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前十字靭帯手術とリハビリの盲点!再発率を下げるには!

アスリートにとって一番の悪夢。それは怪我です。皮肉にも、僕は怪我をしたアスリートのケアを日々してますが、怪我なんてまず起きて欲しくないですね。

ただし、ハイレベルでのパフォーマンスは怪我が不幸にもついてきちゃうことも多々あります。そこで今日のトピックは前十字靭帯損傷とリハビリについてです。この怪我は、とても厄介でリハビリ期間はとても長いです。たくさんのアスリートが負ってる怪我ですね。ここで注目したいのは、この怪我の再発率です。研究によると、30%もの選手がまた負傷してしまうと統計が出ています。一回前十字靭帯を切ると、その人は健康な人と比べて約30−40倍の確率で同じ怪我をしてしまうとも出てます。この数字が明らかにしているのは、一般的な前十字靭帯再建のリハビリが十分ではない、何かが欠けている(盲点)という事です。選手をケアする立場のものは、このままではいけないと感じないといけないでしょう。こんな再発率が高いままアスリートを放っておけないですよね。

運動に関する脳・神経系の役割

Ohio 大学のDr Groomsは脳科学という視点からこの再発率を下げようと試みています。アスリートが走ったり、加速・減速、相手の動きの予測、空間感知、パフォーマンスに必要な動きが全て脳からきています。Dr Grooms はACL断裂の原因には脳・神経系に何かしら関係しているに違いないという興味から過去10年に至って色々と研究してます。

相手の動き、ボールの動き、どういった動きを次はしようなどのプランニング、フィールドやコートでの目に見える位置関係、常に変動しているフィールドやコート上での周りの刺激(external stimuli)を脳内で処理すると同時に、体の動きをコントロールする能力が劣っている時に、怪我が起きてしまうのかもしれないと言われている。

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Prediction Error (神経系の予測のズレ)

脳内、求心性、遠心性神経の全ての神経細胞は予測性といった性質を基本的に持っています。ヒトの体(または神経たち)は常に予測をしながら行動しているのです。

例えば、コップを持ち上げようとする行動を考えて見ましょう。人は何か中に入っている、どのくらいの重さなのか予測して持ち上げようとします。それが自分の予測とは違った重さのコップを持ち上げた時には、瞬時に神経細胞が信号を体の他の部分に送りだし、違った行動を生み出します。

アメリカで行われた調査で、ACLを断裂した選手に怪我をした時の状況について質問をしました。

”怪我した時の感覚、周りの状況を描写してください”

多数の人が

”地面が近づいてきたように感じた。”
”地面が足の下をぐっと動いてきた”

などと言った答えをしました。これは脳内で先ほどのPrediction Error (神経系の予測とのズレ)が生じたのです。ACL断裂は足が地面につく前に、脳内で起こってしまっている可能性も大にあるのです。

これに関して面白い研究があり。オハイオ州の病院で脳震盪患者の脳内活動をfMRIを使って調べると言った研究がありました。通常、コーディネーション能力のある人は、”足をあげてください”と言われると行動と同時にそこを操る脳内の箇所が活動するようになってます。この足と脳内活動がどれだけシンクロしているかによってコーディネーション能力がわかります。アスリートは基本的に80−90%など高いシンクロ性があります。被験者の中でACLを後に切った人たちは、この脳内でのシンクロ性が全くないまたは真反対だったのです。Cerebellum (小脳)とSensory Cortex (一次体性感覚野)間での連携が全くなかったのです。実はこの二つの間で行われるのが先ほど述べたPrediction Error Correction (予測のズレを直す)役割があるのです。ACL断裂する人にはここで劣っているものがあったことが見えたのです。

怪我による神経可塑性の変化 (Neuroplasticity)

Neuropasticity (神経可塑性)とは、Neuro (神経)ー Plasticity (プラスチックのよう変幻自在)と考えてもらうとわかりやすいかも。神経もプラスチックのように、それぞれ能力や役割を変えることができるのです。

そこで、同じくDr. Groomsの研究で、ACL再建手術によって脳内の活動と神経系の活動が変わることが判明しました。

ACL再建手術後は脳内のVisual (視覚)sensory (感覚)とsensory-visual-spatial(視覚感覚を用いての空間感知)をコントロールする部分に影響を及ぼす。この研究では、手術後はCortex Excitability (皮質興奮性)が下がることがわかりました。これは簡単に言うと、一つの簡単なタスクまたは行動をするのに通常より多くの脳内(ある一部)での活動が必要とされる事です。

ブラジルの学者による研究でも、アスリートのレベルによって脳内活動を比べたところトレーニングによって脳内の活動が凄まじく違うことが判明。 この研究では、フェンシング選手、空手選手、一般のアスリートではない人に片足で立ってくれというタスクを課しました。空手の選手は脳内の活動はゼロに近く、一般人は著しくたくさんの脳活動が見られました。すなわち日頃トレーニングをしてる空手のアスリートは一般の人に比べて、同じタスクをするのにそれほどの脳内活動が必要ではないということです。

手術 の後には、脳の一部である Lingual Gyrus(舌状回) の活動が著しく上がっていたことが判明しました。ここは視覚から入る刺激をプロセスし、行動などに繋げるといった役割があります。ACL手術後のリハビリによってある一つの簡単な行動(例えば大腿四頭筋のアクティベーション)をするのに脳内で視覚の情報に頼り、Lingual Gyrus(舌状回)の過活動が見られるのが明らかになりました。これはのちに、視覚に頼ってしまう運動パターンにつながってしまうのです。

一般的なACL再建手術後のリハビリの盲点!

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筋力の向上、バランストレーニング、プライオメトリックス(ジャンプなど)などが基本的なリハビリの要素になってきます。これらの各点が正常時に戻っても、現実には、動きに違和感だったり、理想的ではない動きのパターンだったりが手術後1−2年でも残っているのがリサーチでは出ています。そこで、神経系に対するアプローチや介入がそこのギャップを埋めれるのではないかと言われています。

基本的なリハビリでよく見るのが、internal focus (自分の行動、動きのみの固定的注意)です。例えば、スクワットさせながら ”膝が内側(knee vulgus)に行かないように注意してね”と 鏡の前で指導するセラピストの方も多いのでは?

確かにこれは初期段階では効果はあります。ですが、ハイレベルでパフォーマンスするアスリートたちがスポーツに復帰するにはexternal focus, いわゆる自分の集中を、体外に常に変動しているものにフォーカスしながら、意識せずに自分の体一部一部の位置感覚をトレーニングしなければいけないのです。初期中期段階のリハビリでは、おそらくアスリートは今まで見たことないくらい膝のことを見て、意識しながらリハビリをするでしょう。先ほど述べたように、脳神経もそのように鍛えてしまうのです。フィールドまたはコートに戻ると、そのように膝を見て考えながらプレーする選手は一人もいませんよね。

Cortex Excitability (皮質興奮性)が低下してしまうことと関連して、簡単な動作をするのに必要な脳内活動量が上がってしまうと先ほど述べました。この状態でプレーに復帰してしまうと、フィール上やコート上で、視覚や聴覚からの大量の情報量の処理、次の動作行動などを予測する、などなどいろんな情報を脳内ですばやく処理していかないといけない状況になります。これが術後に適切にトレーニングをせずに競技復帰してしまうと、脳内がいわゆるパンク状態になり、脳内には膝をうまくコントロールしてくれ!と言った指令を出すほどの余裕がなくなるのです。そうです、怪我につながる動作パターンにつながってしまうのです。

Neuro-Efficiency (神経活動の効率)/Visual sensory biased (視覚に頼った)行動パターンの改善

今まで話したように、昔ながらのリハビリには何かかけている要素があるかもしれないですね。再発率が語ってますよね。今回話したように神経系に対するアプローチを含むことはACL再建手術後のリハビリではかなり大切です!

そこでアメリカの一部のプロチームや大学のアスレティックトレーニングルームで使われているのは Strobe Glasses とVirtual Reality Game (よくゲームなどで見る4Dのメガネ)です!

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引用;Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393

StrobeGlass (上の写真)はこのような特殊なサングラスで設定によってグラスが高速に遮断されるようになってます。これを着用しながらバランストレーニングなどすることによって、視覚に頼らない脳内の神経系の改善に繋がります。

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同じように、VR (Googleなどが4Dメガネを安値で売ってます)を頭の周りにつけて、ローラーコースターに乗った感覚が味わえるアプリなどでゲームをしながバランストレーニングをしたりすることによって同じ神経系のトレーニングをすることも可能です!


これからどんどんこの分野でのリサーチも進んでいき、色々なアプローチの仕方が出てくるでしょう。トレーナー、セラピストは患者のためのベストを考えて、常に成長していかないといけませんね。怪我の再発など一番見たくないですからね。


では!

See Yah!


参照文献:

1. Grooms DR, Page SJ, Nichols-Larsen DS, Chaudhari AM, White SE, Onate JA. Neuroplasticity Associated With Anterior Cruciate Ligament Reconstruction. J Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(3):180-189.
2. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393

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