【労務論点②】社会保険料の当月徴収って大丈夫?

こんにちは、社会保険労務士の川住です。
「労務論点」シリーズの第2弾は、「社会保険料の当月徴収って大丈夫?」です。

まずは、当月徴収と翌月徴収の概念を整理しておきましょう。
「15日締め・当月25日払い」と「末締め・翌月10日払い」の2パターンで説明します。

15日締め・当月25日払い
当月徴収 8月25日給与で8月分保険料を控除
翌月徴収 8月25日給与で7月分保険料を控除

末締め・翌月10日払い
当月徴収 8月10日給与で8月分保険料を控除
翌月徴収 8月10日給与で7月分保険料を控除

このように、8月に支給する給与から8月分保険料を控除するのが当月徴収、7月分保険料を控除するのが翌月徴収です。

健康保険法・厚生年金保険法には、「前月の標準報酬月額に係る保険料を報酬から控除することができる」とあり、翌月徴収が明記されています。

健康保険法第167条第1項
事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

厚生年金保険法第84条第1項
事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。

労働法を勉強したことのある方には当然すぎる話かもしれません。
しかし、当月徴収を行っている企業は意外にも多く、当月徴収に対応した給与計算ソフトも多く存在します。

社会保険料の当月徴収は法的に可能なのでしょうか?
労働基準法第24条第1項を確認しましょう。問題になるのは、全額払いの原則です。

労働基準法第24条第1項(一部抜粋)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、…法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

健康保険法・厚生年金保険法は翌月徴収を明記していますから、当月徴収は「法令に別段の定めがある場合」には該当しません。

それでは、労使協定を締結すれば当月徴収は可能でしょうか?
これは微妙な問題で、健康保険法第167条第1項や厚生年金保険法第84条第1項が、全額払いの原則の例外としての規定にとどまるのか、社会保険料の控除の方法として翌月徴収以外を認めない規定なのか、の解釈によります。

また、労使協定を締結したとして、月末払いの場合を除き、給与支払日時点で保険料の負担義務は確定していないため、当月徴収は適当ではないように思います。

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