財布を忘れて町まで出かけた
夜の23時に散歩へ出かけた。ついでに24時間営業のSEIYUに寄った。私はバナナが好きなので、バナナを買うつもりだった。
バナナ売り場に到着し、私はハッと気づいた。財布を持っていない。バナナが買えない。
私はガッカリしなかった。実をいうとバナナの必要性はそこまで高くない。SEIYUはオマケ、メインは散歩である。
「買い物しようと思って財布を忘れる」この状況が愉快ですらあった。
愉快がっている最中に、今の状況がサザエさんの歌詞とほぼ同じだと気づいた。愉快な点まで一致している。
買い物しようと街まで出かけたら、財布を忘れて愉快なサザエさん。
みんなが笑ってる。お日様も笑ってる。るーるるるーるー今日もいい天気。
よく歌詞を見返すと、私とサザエさんにも多少の違いはある。
まずサザエさんは「買い物しよう」と町まで出かけている。私はあくまで散歩しようと出かけた。
目的が買い物なのに、財布を忘れるとはどうかしている。うっかり具合ではやはりサザエさんに軍配が挙がる。
そしてもう一点、私の場合は誰も笑っていなかった。
疲れた表情を浮かべたSEIYUの店員。缶チューハイを漁っているサラリーマン。ジョージアを握りしめたおっちゃん。笑顔のカケラも見当たらない。深夜のSEIYUに笑顔は似合わないのだ。
上を見上げれば、蛍光灯がただ光っている。
外に出たってお日様はとっくに沈んで笑っちゃいない。
お月様とお星様すら顔を出さない。空は雲が占領している。前からはチャリに乗った中年男性が向かってくる。なにやら鼻唄を歌っている。たぶん町の変な人だ。すれ違い様に鼻唄が耳に入る。
「るーるるるーるー」
ありがとう町の変な人。おかげで少しサザエさんの歌詞に近づいた。ただちょっと怖かったな。