スポーツベンチャーがシリーズAの資金調達するまでのリアルな話
先日、シリーズAファイナンスにて2.3億円の資金調達の発表をさせて頂きました。今回ラウンドは決算のタイミングやキャッシュ状況などから2回に分けて資金調達を実施しました。
前回プレAが2022年の6月だったので2年ぶりです。シードが2019年12月なので、その間コロナがあったとはいえ、5年ちかく経ってしまい歯痒さもあるのが正直なところです。
今回出資して頂いた皆様、スポーツという難しい領域で我々を信じて頂いてありがとうございました。
とにかく辛かった資金調達…
2023年の6月ぐらいから動き出して1stクローズが2024年の4月なので10ヶ月かかり、2ndクローズが9月でしたので1年3ヶ月ほどかかりました。
さらにキャッシュフローの状態が想定していた以上に早く厳しくなり、キャッシュが底をつく可能性があったので、デットも同時並行で動いていました。もし調達ができなければ破産か、会社を売却することも考えていました。
調達中、新婚旅行も重なり、夜のショーの間2時間ずっと電話したり、時差の関係で深夜にホテルで5時間オンライン面談したりしてました。奥さんを起こさないように薄暗い部屋でピッチをしてました。さらには食事中に前向きに進んでると思っていたところから断りの電話をもらった時は、食事内容はあまり覚えていません。正直、心ここに在らずの状態で新婚旅行をしていました。シリコンバレーに日帰りで行って、現地のVCさんとも話しました(目的はNBA観戦でしたが…)
このラウンドはとにかくキャッシュフローに追われ、前回より会社規模も大きくなってたので過去のファイナンスよりはるかに大きな責任を感じていました。自分の報酬を止め、支払いが分割できるものはお願いし、早めに回収できるものは早く請求書を出したり、やれることをやりながら売上も作り、できること全てを考えて同時並行でやっていました。みんなよく頑張ってくれました。
とにかく、家族にも株主にも社員にも周囲にも勘付かれなように、平静を装いながらやっていましたが、実は本当に辛かったです(やっと言えた。笑)とまあ、心情についてはこれくらいにして、本題(調達の話)に戻りたいと思います。
これまでのラウンドで合計110社の繋がりから今回はその中から、あるいは新たに壁打ちや相談させて頂いたVCやCVC計数十社にピッチしました。事業内容や業界のせいもあって資料の提供やアポの回数は1度で終わらないことが多く、前回ラウンドより費やした時間は長かったです。
それぞれ定義があるかもしれませんが、シード期はビジョンの大きさと、そのビジョンが与えるインパクトと社会的(市場的)な評価が論点となり、あとは経営陣やチームによって角度が変わってくると思います。シリーズAのファイナンスに関しては今回の私の感覚では、ビジョン(目標)とのGAPを正確に伝え、そのGAPを埋めるプロセスを具体的に提示するラウンドだったと思っています。また目標達成までの計画の整合性や実現可能性をこれまでの実績で証明することができれば、角度がグンッと上がります。
実際に最初の6ヶ月はあまり手応えがなかった中、最後の3ヶ月は手応えを感じながらやっていました。但し、不安は後半のがやばいという精神状態になります。そもそもベンチャーが6ヶ月経つと実績も数値もその時とは大きく変わり、ピッチや質疑応答のクオリティがブラッシュアップされるので、後半ほど手応えがあるのは普通かもしれません。なので皆さん資金調達は「思ってるよりも早く動いて!」とだけアドバイスしておきます。
資金調達できた理由
スタートアップにおける資金調達ではスポーツという領域は不利なのが現実です。評価額1,000億円を超えるユニコーン企業が他の業界で出てくる中、海外の事例やトレンドも考えると、他業界がスポーツ業界と比較された時、かなり不利になりコンプス・マルチプルと言われると厳しさを増します。相手がVCであれば尚の事です。
しかし、結局はどの領域であっても市場規模があって、シェアを取れるという可能性を証明さえできればいいわけです。競争が激しい業界なら事例を、過去にいなければ自分たちがその業界で最初の企業になればいいですし、それが可能かどうかを正確に伝えれば良いわけです。
1.何を実現したいのか(ビジョン・ミッション)
私たちのビジョンは「スポーツの夢の国を創る」で、ミッションは「スポーツ界のインフラになる」です。私たちの場合、ビジョンは最終的に作りたいゴールのようなもので、ミッションがやろうとしている事=事業内容そのものになります。つまり、私たちがやろうとしていることが実現できた時、スポーツ界のインフラになっているということです。
私たちが解決しようとしている課題は『1.人材』『2.場所』『3.資金』の問題です。スポーツ界におけるこの3つを解決する仕組みを構築し、サイクルを回すことで社会的にも大きなインパクトを与えることができると考えています。
弊社はこの8年間で数百人のスポーツの専門人材の育成と、専門職のフリーランスの方々(パートナー)と共に様々な案件を受託してきたことでノウハウを培ってきました。その中で、複数のスポーツアセットを運用した実績を積んできました。
この1年で日本全国にある活用できていないスポーツ施設や、使っていない遊休地を運用してほしいと、声を頂いております。弊社はスポーツ施設や遊休地の状態に合わせて持続可能な形でプロデュースし、アセット化して利活用することをしています。
重要な点は、私たちはアセットを「保有」をしているわけではなく、「運用」をしているという点にあります。
2.市場規模はどれくらいなのか?
例えば日本のスポーツ施設は170,000ヵ所以上もあり、民設民営の施設も増えています。それらの施設を活用し、弊社はアセット(資産価値のあるもの)として運用していく予定です。
全国の全てが運用できる(確実に収益が上げれる)とは限りませんが、1アセットの収益性が5000万/年なら100件運用することで50億、1,000件なら500億です。さらに大型のアセットであれば収益性も大きく、1アセットあたり数億円も可能です。
TAM、SAM、SOM、これくらい市場がありますよ!としっかり伝え、そして更にはアセット自体の売買や物販などのクロスセルなども可能性を含めて大きな市場があることを伝えることが重要でした。
スポーツ業界はそれなりに大きな業界ですが、地域性や専門性、競合特殊性からシェアをとる方が難しく、ビジネスモデルや目的、戦略を間違えるとそもそもが不可能である点を伝え、私たちの目指すものやシェア数%取れる理由を説明しました。
3.どういうKPIを追うのか?(事業計画)
最重要KPIは、アセットの運用数と1アセットあたりの収益性の2つです。
売上 = アセット数 × 平均収益。アセットの収益性は、スタジオや寮、アカデミー、スタジアム、アリーナなどサイズや用途によって違いますが、新しいブランドコンセプトやパターン化された形態など、アセットの数と種類を増やすことで売上が作れます。
アセットの稼働率が100%近くになれば、アップセル、クロスセルを考え、新しい収益となる何かを考え生み出す必要があります。それに付随して、専門人材の数やその他のKPIを設定していますし、それぞれのアセット毎にKPIを設けています。
4.どうやって実現するのか(戦略)
私たちの事業戦略において「人材」「場所」「資金」をいかに効率的に獲得し、運用できるかになります。今ラウンドは私たちの成長を加速させるためにより高度なアセットマネジメントを実現し、拡大できる組織体制に強化することが目的でした。
アセットのSPC(特別目的会社)やファンドの構築により、投資家に対して多様な資産運用の機会を提供し、長期的な成長基盤を築いていく考えです。先ずは金融商品取引2種免許取得やその他アセットマネジメントの体制を整える為に人材採用と連携を強めていきます。そして、誰でもスポーツアセットオーナーになれる仕組みを構築することで、スポーツ産業の成長を実現します。
またスポーツ関連アセットやシナジー性のあるアセットを保有する企業との資本提携によって、共同での成長機会を追求する基盤を強化していきます。加えて、M&Aの推進により、スポーツ関連事業におけるシナジーを最大化し、業界における競争優位性を高めていきます。
専門人材の育成にも力を入れて、多様なキャリアや経験を積める機会を増やして、Ascendersの一緒に働きたいと思える環境づくりも強化していきます。
5.なぜAscendersなら実現できるのか(独自性)
私たちの強みはスポーツで働くフリーランスの専門職(トレーナー、栄養士、コーチ、マネージャー、マーケター、クリエイターなど)と共に選手やチーム、企業の課題解決をしてきたことによるノウハウやネットワークがベースにあり、様々な競技のトップ選手やチームをサポートするお仕事があります。
8年間スポーツ領域の専門人材領域のサービスをやってきた経験から育成やサポートの体制を整え、ノウハウやネットワーク、信頼を業界内で積み上げることはそれなりの時間がかかります。
この優位性に関しては詳細は書きませんが、伝えれるのは、点で真似しても確実にできないということです。
優秀なパートナーたちと、アセット化の仕組みと運営ノウハウ、オリジナリティのあるブランド構築など、いかにモートを築けるかが重要なので、更に資金調達をして、いち早くポジショニングをとることで後から参入してきたとしても大丈夫なように競合優位性を高めていきます。
6.いくら資金が必要なのか(資金使途)
そもそも、何が現状の課題なのか?それをどう補うためにいくら必要なのかを伝えなければいけません。今回の調達場合は、さらなる資金100億があったとしてもアクセルを全力で踏める組織体制になっていないので、今回はその為の調達をしました。
利益が出続けるにはどのくらいの規模のアセットをいくつか運用する必要があり、何を作ることでポジショニングがとれ、どういったスケジュールでその目標を達成するのかを明確に示すことが重要です。それは次回の調達にも付随する部分だと思います。
組織強化:
CxO、重要ポジション、ディレクターなど(採用コスト n万/人)
働く環境強化として東京・大阪オフィス拡大戦略投資:
ファンド構築、法務・会計体制強化、M&A、アセット拡大の投資PR/マーケ:
パートナー拡大のためのPR、カレッジの広告費
コンテンツ制作、アセットのマーケティング費用など運転資金:
バーンレート、キャッシュフローを見て計算(損益分岐点はいつか)
人件費社員10名→ n名。販管費の拡大など。
以上が私たちが調達するまでのリアルな話でした。イグジットを前提としているので当然、自社のバリュエーションも考え、その将来性も伝える必要があります。社会的なインパクトや事業の収益性、資産や負債の価値、類似している会社や取引先など様々な要素を加味して企業の価値を評価されます。
市場や政治も絡み、業界の未来の詳細は分からないと言われたらそれはそうなんですが算定プロセスやロジックなどは株主に対して合理的に説明可能で客観的に説明ができる必要はあります。そこは諦めず、考え、やり続けなければいけないと今ラウンドで思うようになりました。この辺りもシード期との違いだと思います。
一緒にAscendersで働きませんか?
近々、採用ポジションも増やしますので私たちにご興味がある方はぜひ以下より採用ページも確認してみてください。
今はめちゃくちゃ面白いフェーズだと思います。がむしゃらに若いメンバーが頑張ってやってきた10年(気がつけばみんな30代になってました…)から、大人の成長戦略のフェーズになりました。ベンチャーらしさ、Ascendersらしさは勿論残しつつ、責任と目標、頑張りどころをはっきりさせ、アクセルを踏むためのエンジンや器を作っているタイミングです。
「スポーツの夢の国を創る」、「スポーツ界のインフラになる」より詳細な話を聞いてみたいという方はぜひご連絡ください。
3万字バージョンも書いてますが、本日「スポーツの日」に間に合わなかったので、後日公開します。