音楽世迷い言 (仮) その8 REQUEST LINE(97)/ZHANE クラブで騒いだ次の日のためのレイバックミュージック
93年にノーティ・バイ・ネイチャーのケイジー(KEY GEE)によるバックアップでデビューしたジャネイ。「HEY MR.DJ」はじめ多くのヒットを放った90年代を代表する女性ブラック・コンテンポラリー・デュオである。この曲「REQUEST LINE」はセカンドアルバム「SATURDAY NIGHT」からのファーストシングルとして97年にリリースされた。
90年代に入るとブラックミュージックをメインにかけるクラブが大流行しはじめる。クラブといえばそれまでハウスやテクノなどのエレクトロ系がメジャー。かつてはディスコという名前でブラックミュージックを主体にしたものはあったが、90年代においてはほぼ死語同然。
90年代はヒット曲のジャンルが一気にブラックミュージックが主流になっていたことで、クラブ側も必然的にR&Bやヒップホップを多くかけるようになっていた。(※クラブでかけやすいように、ヒット曲/シングル曲はカップリングにリミックス・バージョンを多く作りはじめた。ロングバージョンやエクステンドバージョン、原曲をとどめないほどにまるっきりアレンジを変えるものまで登場するなど、多彩なアプローチができる土壌がこの時期にできたといえる。結果的に多くのDJ人口を輩出、豊富な楽曲が数々生まれるなど音楽市場はファン大喜びのバブル期を迎えることになったというこの流れは、個人的にかなり面白いと思う。)
ブラックミュージックの中に「クラブで夜遊びをするための音楽」という新たなコンセプトが生まれたのもこの90年代だったような気がする。ノトーリアスBIGやパフダディ、ジュニアMAFIAなどのヒップホップ系のミュージックビデオには決まってクラブで踊るシーンや、セクシーなダンサーとの絡みが不可欠になっていたほどだった。
そうなると制作チームの中でもクラブヒットを狙った曲を作る必要がでてくるのはごく自然な流れ。しかし97年リリースのジャネイのアルバム「SATURDAY NIGHT」はちと趣向が違う。面白いのは、どんちゃん騒ぎで踊り明かす金曜夜の次の日、つまり「土曜日の夜」がテーマになっているところ。金曜の夜には威勢が良かったオスもメスも、土曜日の夜にはレイバックし、仲間同士少人数でリラックスしたい。そんな時にふさわしい音楽。ミッドテンポ、スロー、チルアウト、バラードといったまるでシャーデーのようなムードが欲しくなる。クラブ人気を逆手に取って、新たなコンセプトを提示しているようで、なかなかウィットに富んでるなと私は思った。
ファーストシングルとして用意された「REQUEST LINE」はそんなリラックスしたテンションにぴったりな曲。初めて知り合う男女をとりもつ歌ではなく、気心の知れた仲間同士でビール片手に体を揺らしながら楽しむための歌。メインヒットを狙ったテンションぶち上げな曲じゃないから、かえって長く聞くに堪える歌になってるのではないだろうか。