見出し画像

不可避の理不尽と、これでもかの身勝手。たらい回しは解決ではなく、

昨夜は娘がよく寝ているようなのでご飯を研いだりするのを諦めました。とにかく少しでもよく眠ってほしいのです。それでよくなるとかは思っていませんが、独り言が少しでも減ってくれたらとは願っています。

私も早めに寝ました。途中で起きることもなく朝まで熟睡。目覚ましが鳴るより前に目が覚めるのはどうしようもありません。

早めに起きたのでご飯を研ぐかと思いましたが、娘の軽めのいびきを聞いてやめました。寝てるな。寝てる寝てる。

娘の日中の食事は近所のコンビニで揃えることにしました。おにぎりとサンドイッチとカップ麺とサラダ。冷蔵庫にはその他にヨーグルトや温泉玉子もあります。大丈夫でしょう。

コンビニから帰ると娘が起きていました。

「今日はご飯炊いてないから、これ食べてね」

「わあった」

たっぷり寝たはずですが眠そうです。寝過ぎもよくないとは聞きますが、寝不足よりはいいはずです。

薬だけ飲んで食べないと言っていた娘は家の中をウロウロしています。微妙だな、ダメっぽいな。

私が出かけようとしたところで声をかけてきました。

「カップ麺、やって」

作ってという意味です。

「自分でできるでしょ」

「やって」

ダメっぽいです。お湯を沸かしてカップ麺のかやくやらなんやらを用意してキッチンタイマーをセットして。

「あとは出来るよね」

「やって」

なんかもう面倒くさい。本当に面倒くさい。

私がやかんを取りにキッチンに向かうと娘が小さな声で喋りだします。やっぱりダメだ。

お湯を入れてタイマーをセットします。

「あとは出来るよね」

「やって」

これでもダメか。

タイマーが鳴るのを待てないようで、何度も立ち上がって確認しています。娘の視界から私が消えると喋り始めます。もう本当にダメそうです。

時間になりました。フタを外して液体スープと粉末スープを入れます。娘に混ぜてと箸を渡しました。全然うまく混ぜられない。もうダメだ。箸を受け取って代わりに混ぜてから改めて箸を渡します。娘は無言で食べ始めます。

外したフタをゴミ箱に捨てるために娘の視界から離れます。すぐに小さな声でぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋り始めます。「シンデ~」などと言っています。いつものことですが、どうして「死んで」とか「死刑」とかばかり言うのか。

「パパまだいるから、いる間は喋るのやめて~」

一瞬だけ止まりました。すぐにまた食べながら合間に喋ります。どうしても止まりません。

「やめて~」

一瞬止まって復活。

リスパダールの液剤を出しました。

「喋るの止まんなくなったりなんか聞こえて困るんだったらこれ飲んでね~」

「飲んでねとか言うなッ」

インスタントに激昂。

「ここに置いとくね」

「置くなッ」

ほぼ絶叫。

「わかったよ、置かないね」

「早く死ねッ」

寝すぎたのがよくなかったのかなあ。パパは悲しいよ。

出勤。諸々あって退勤。

駅前の書店に寄ります。『ドクター・ストーン』を買うかどうか迷っています。棚を見るとごっそり抜けてました。まとめ買いか。じゃ、またにするか。

帰宅。娘は起きていました。ニヤニヤというかニタニタというか、やや粘着した感じで笑みを浮かべています。

「はいらない」

晩御飯は要らないという意味です。

「わかった。食べたくないのね」

「んあ」

そうですか。私の晩御飯はどうするか迷います。

「じゃ、パパ、外食してこようかなあ。回転寿司、カツ丼、ハンバーグ、中華、ひとり焼肉、んー、でも面倒くさいなあ」

言ってみただけです。ダルいので外食に行きたくはないのです。それと、もう3年近く昼食もほぼ外食していない状態なので、ひとりで食べに行くのが億劫です。元々一人暮らしの時も滅多にひとりで外食はしませんでした。外食はお金かかるから苦手です。

着替えてダラダラしていたら満面に粘っこい笑みを浮かべた娘がやってきました。

「なに、お腹すいたの? なんか食べる?」

「そうじゃなくて、パパ、出かけなよ。外食行ってきなよ」

「いやだよ。ダルいし」

「ママいる時はよく行ってた、外食」

「あれはママと一緒だったからでパパはひとりで外食はしないよ」

「行ってきてよ」

ニヤついた娘を見て急に腑に落ちました。娘は私にしばらく出ていってほしいのです。

「わかったよ。外食はしないけど30分ぐらい出てくるよ」

「出てって」

嬉しそう。なんかひどい。

特にあてもなく出ました。一時間ぐらい歩いてから帰るか。どちらに行くか。ふらふら歩き続けます。大きい通りに出ました。こっちは久しぶりだな。思ってる以上に閉まってる店多いな。いや、廃業とかじゃなくもう営業時間外ってことか。

昔は酔っ払って終電が無くなって歩いて帰ったりもしょっちゅうでした。なんだかそんな日のことを思い出します。コンビニを見るとホッとして歩き続けます。気がつくと30分ぐらい経っていました。ここからグルっと回って帰るか。

40分ぐらい経過したところでどっと汗が吹き出してきました。上着を脱いで持ちます。なんだか足がふらついてきました。夕飯を食べなかっただけでなく水分も摂っていません。それかも。

スシローが見えてきました。スシローで食べて帰るか。でもなあ、最近の昼食は200円台か高くても400円台です。スシローで食べてそういうわけにはいかないでしょう。それに、今朝のコンビニのサンドイッチ・おにぎり・カップ麺・サラダで1000円を超えています。ここでお金を使うわけにはいかん。

本気でふらついてきました。まずい。公園のベンチに腰をおろします。なんもかんもいやになってきました。娘は私に「死ね」と言います。言ってるだけで娘が私を殺すようなことはないでしょう。私が限界を超えて自暴自棄になってしまった時のほうがよっぽど危ないです。つまり、娘に私が殺されるより私が娘を殺すほうがよっぽど起こりうるということです。

少し座って落ち着いてきました。公園で水を飲みます。生き返る。トイレにも行きました。これでもう少し歩ける。

いつものスーパーにたどり着きました。ちょうど半額シールの時間です。ワラワラと群がる人々の波に私も乗ります。弁当もカキフライもメンチカツもぶり大根も手羽塩焼きも半額です。

家に帰りました。娘は襖を閉めた和室でぶつぶつ喋っています。夜の薬の時間です。薬を用意して娘に声をかけます。

「薬飲んで~」

出てきません。返事もありません。

襖を開けました。娘は布団を頭からかぶってぶつぶつ喋っています。肩を揺すって「薬飲んで~」と声をかけます。無視。布団をはがしました。

「布団wb時オたwぇいhtァkhvふぁsd」

何を言っているのかわかりませんが怒っているようです。

「薬飲んで~」

やはり怒っています。

面倒くさい。

「薬飲んで~」

「今すぐ死ねッ」

「パパ死んだら困るよ~」

「シネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」

「薬飲んで~」

「シネッ、シネッ、シネエエエエエエエエエエエエエエエ」

そろそろ暴力が出てきそうなのでこれぐらいにしておきます。

娘を施設に預けたところで負担を私ではない誰かに押し付けるだけのことです。家族は施設の誰かに押し付けることができます。施設の職員もやめてしまえば誰かに押し付けられます。そうやってグルグルとたらい回しにしたところでなんの解決にもなりません。ですが、現状はそうやって誰かが誰かに負担をたらい回しにしてるに過ぎないのです。そして、いつか、年を取って終わりが来ます。それまでずっとたらい回しを続けていくのです。

どうにかなんねえかな。AIでもなんでもいいんだけど、そろそろなんとかしてくれよ。バチッと治る薬とか治療法とかさあ、なんかそういう兆しでも無いとやってらんねえよ。

やってらんねえよ。

◇ ◇ ◇

書籍『シネシネナンデダ日記』発売中です。

いただいたサポートは娘との暮らしに使わせていただきます。ありがとうございます。