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【2024年6月FOMCプレビュー】インド経済と政策金利から、米国の政策金利推移を考える

●インドの政策金利と成長率

インド準備銀行は6月7日に金融政策決定会合を開催しましたが、今回の政策金利は6.5%と8会合連続で据え置きました。

インドでは元々高い成長率を誇るために中央銀行が目標とするインフレ率を米国や日本などの先進国の2倍 (4%±2%) の範囲に収めようとしており、政策会合を構成する6名中4名が「金融引締め継続」を選択する事態となりました。

インドは先進国よりもインフレしやすい国ですが、実は2020年から4%~7%台をうろうろしており、2022年のロシアによるウクライナ侵攻が発生した際も米国ほどインフレしませんでした。

インドの消費者物価指数 (CPI)
2020年には他国でインフレ率が0に近い状態だったがインドでは違った景色に
また外交が上手いインドはロシア産の原油を安く輸入してその利益を享受している

背景にはそもそもインドの政策金利がここ数年4%を下限としており米国や欧州ほど金融緩和的では無かったこと世界的に制裁を受けているロシアから天然資源を安く輸入していることが功を奏していると言えそうです。

このため直近のインド物価指数 (CPI) は4.8%ほどをマークしており、政策金利6.5%よりも低い水準で低位安定していることからインフレ率が急騰する確率は低そうです。
ただしインドのGDPに占める第一次・第二次産業 (農業+工業) の割合は2021年時点で47%弱であり (参考として米国はわずか21%ほど)、例えば天候不順が起こったり原油価格が上昇する、またはロシアや中国との関係が悪化すればすぐにインフレ方向へ走る特徴もあるため注意が必要となりそうです。

インドと米国の産業構造
図中、オレンジの第三次産業 (いわゆるサービス業に該当) の割合が多い米国は
付加価値をより多く付けることで経済が発展してきた

それでも2024年の実質GDP成長率 (インフレ分を除いた実際の成長率) は前年比7.2%となる見込みであり、インドでは今後もこのような成長が続く可能性が高いと考えられます。


●米国の政策金利と成長率

ところで米国の実質GDPは2024年度に2.5%という先進国としては高成長率に着地する予測が出ており、またインドと同じように5.25%の政策金利が3.4%のCPIを下回る状態 (金融引締め状態) が続いています。

現在は企業業績が良く消費者の消費も比較的底堅いため問題にはなっていませんが、例えばGDPの2.5%にインフレ率3.4%を加えた5.9% (すなわち名目的な成長率) はわずかに政策金利を上回る程度であり、このまま名目的な成長率が下落し政策金利を下回ると経済に明確なブレーキを掛けると言われています。

更に2025年にはGDPが1.8%まで落ちる計算であり、今年は成長率の高さにおいても特異な年とも解釈できそうです。

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政策金利 ≧ 物価上昇率 (インフレ率) + 成長率 (GDP) の時、経済にブレーキ
$$

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政策金利 ≦ 物価上昇率 (インフレ率) + 成長率 (GDP) の時、経済を後押し
$$

一方のインドでは名目的な成長率が7.2% + 4.8% = 12%となり、現在の6.5%という引締め的な政策金利を差し引いても5.5%の「成長余白」があると解釈することも出来ます (その分インフレしやすいですが...)。

翻って見れば米国はその成長余白なるものが1%未満を切っており、年内に利下げをするシナリオは自然な流れと考えられます。


●今回のFOMCにおけるポイント

話を少し切り替えますが、今回のFOMCではSEP (経済見通し) が発表される予定です。

前々回→前回のSEPの変化として「年内3回の利下げ (4回利下げもあり得るかも)」→「年内3回の利下げ (むしろ2回利下げくらいかも)」とタカ的な変化もあり、今回のFOMCではこのSEPが更にタカ的な変化をし「年内2回の利下げ (場合によっては3回かも)」に近づく可能性が指摘されています。

2023年12月FOMC (上段) と2024年3月FOMC (下段)
前回は2回利下げ寄りの3回利下げへ変化したが、すでに市場は
年内1回利下げまで織り込みつつある
今回「2回利下げ」へと移行しても市場への悪影響は限定的と思われる

ただしここ最近、既に市場では想定より強い経済データにより「年内1回利下げから2回利下げ」の間をウロウロしており、また市場に悪い意味でのサプライズを嫌うFRBからすれば突然年内1回利下げを突き付ける可能性は低いと言えそうです。

いうなれば市場は「FRBからとんでもない攻撃が来るかもしれない」と構え続けた関係で、利下げ回数の縮小に対し十分慣れたとも解釈できます。
ここで仮に今後のFOMCにて「年内1回利下げ」とタカ的変化をしても市場は「そういえば以前、年内利下げ1回って騒いだりしたなあ...」と懐かしむくらいで大きなダメージを受ける可能性は低いと思われます。

むしろ今後のFOMCで「やっぱり年内3回利下げするかも」とハト的な変化があれば、市場はこれをボーナスと感じ株価にプラスとなりやすい、とも見て取れるでしょう。

既に3月にスイス、5月にスウェーデン、6月にカナダと欧州が利下げへ入る中、米国も遅かれ早かれ利下げに転じなければならない時が近づいていると見られます。
市場が「思ったよりも利下げしないかも」と既に身構えている中でも株価が上昇し続ける中、予想通り or 予想よりハトな変化をすれば、少なくともFRBの金融政策は株価に対し「横ばい or プラス」の影響を与えやすい、とも言えそうです。


【まとめ】
・インドでは高めの政策金利であるが、第一次・第二次産業が国のGDPにおいて半分を占め、資源価格などにインフレが左右されやすいためある意味合理的

・また名目値である政策金利から「インフレ率 + 実質GDP成長率」を引いた値、すなわち政策金利がどれだけ物価と成長にブレーキを掛けているか?との観点から見れば、インドはまだまだ余裕があるのに対し米国はブレーキを強めに掛けている印象がある

・米国に絞れば、すでに市場は年内1回利下げまでの「タカ的変化」を織り込んでいると考えられ、今会合で突然「年内3回利下げから1回利下げまでタカ的な変化をする」ことは非常に考えづらく、したがって株価に下落トレンドを引き起こしにくい会合となりそう

・また先進国が利下げへと舵を切る中、いくら成長率が高いと言われる米国でも現在の高い政策金利の環境下では成長率を高いままに維持しにくく、いずれにせよ年内1回利下げはほぼ確定で行われると考えられる


※当記事はファンダメンタルズにおいて事実の正確さを満たすために尽力していますが、万一事実と異なる点等ございましたらお気軽にご教示ください。
また本稿では分かりやすさを優先するため、金融用語を厳密に使い分けないこともございます。

※サムネイル画像はこちらより

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