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コロナ型「借金」の本質

持続化給付金では持たない中小企業

日本政府が5月6日までとされていた緊急事態宣言に関して、「1ヶ月程度延長」をする方向で調整に入ったそうだ。

街の人通りに左右される外食や小売、店舗サービス業にとっては、この「ロックダウン期間の延長」が事業に与えるマイナスインパクトは計り知れない。

以前書いたように、日本政府が給付する「持続化給付金」制度では、給付上限が200万円と決められてしまったことから、月間売上が50万円を超える事業者(実際は、従業員を1~2名以上雇っている事業者のほとんどがこのセグメントに入る事業者だと考えられる)は、この給付金を受領したとしても、年内のどこかのタイミングで資金に詰まってしまう(つまり借金をしなければ倒産してしまう)。

月商50万円でも11月、100万円なら7月に資金ショート

月商50万円以上の中小企業に関して、2020年の頭に月商2~3ヶ月分程度の現預金しか銀行に無かった場合、どのタイミングで資金繰りが悪化して支払停止状態から倒産状態に陥るのかシミュレーションを行ってみた。

月商50万円の事業者は、現預金が月商2ヶ月分しかなかった場合には、5月に持続化給付金を200万円受領したとしても、今年の11月前後には資金繰りが詰まり、3ヶ月分の現預金があった場合でも来年1月には資金繰りに詰まる。

一方で、これが月商75万円の事業者になると、各々8月と10月に資金繰りが詰まり、これが月商100万円の事業者になると、7月と9月に資金繰りが詰まる。月商200万円ともなると、6月、7月には資金繰りが詰まる計算だ。

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金融を知らずに、借金をしてはいけない

経営者にとって、資金繰りに詰まるということは、どこかからこの金額を埋め合わせないと、会社が倒産してしまうことを意味する。

しかし、金融というものの本質をしっかりと理解しないまま、借金(融資)の世界に足を踏み入れるというのは、本当に危険なことだ。大事なことなのでもう一度言う。本当に危険なことだ。

僕は4歳のときに自分の父親が事業で失敗し、(おそらくは彼が金融というものの本質を理解しなかったからこそ)借金ダルマになったことで、両親の離婚と、結果としての貧困を経験した。

そして、深い深い海の底から、息を止めて這い上がり、水面に出るまで、結果として20年近い年月を要した。それを知っているからこそ、今回のコロナ問題について、色々と自分なりに発言してきた。

金融の2つのパターンをきちんと理解する

持続化給付金では足りない、借金しなければ会社がもたない、それを政府として後押ししますよ、まずは借金してくださいということの問題、その本質はどこにあるのだろうか?

僕が以前書いた『未来を切り拓くための5ステップ』という本の中に、中小企業やベンチャー企業のために金融というものの本質について説明した箇所があるので、少々長いが、引用させてもらいたい。

これをきちんと読んでいただき、(これを読めば金融というものがある程度理解できると思うから)いったん金融というもののイメージを理解していただいた状態で、次の話に進むのが良いと思うので、お金の話が嫌いだろうが何だろうが、3分くらい息を止め、一気に読んでもらうことをオススメする。

 会社を始めるときはまず自分のお金で始めるか、家族などに少し出資してもらって始めるのが基本だ。色々なところで節約を重ねて、できるだけ出費を少なくしながら、お客さんに自分の製品やサービスを売って、稼ぐお金(売上)を大きくしていけば、少しずつ会社が大きくなっていく。
 ベンチャー企業が成長する過程では「資金調達」が不可欠だ。資金調達とは外部から会社を運営するためのお金を集めてくることだ。ではなぜ資金調達なんてしなければならないのだろうか?自分と一緒に始めた友人や家族のお金で会社を始めたならば、ずっとそのお金だけでやっていけばいいような気がするだろう。ここに「金融」というものの役割と本質がある。金融というのは例えていえばビジネスの「加速器」だ。
 例えば、あなたが会社を始めて間もなく、自分の製品やサービスを買ってくれるお客さんを見つけることができたとして、その会社なり個人に製品やサービスを売り込みたいとしよう。会社を30万円で始めたとすると、あなたがいま使えるお金は30万円しかない。だから材料費に3,000円かかる製品を1万円で売ることができたとしても、手持ちのお金では、100個(=30万円÷3,000円)しか製品を作ることができないのだ。
 ところがもしあなたの製品が素晴らしいものだとすると、それを買ってくれるお客さんは「どんどん作って欲しい」と要求してくる。1,000個の注文が来たらどうすればいいだろう、ではもしそれが1万個だったら?それだけで材料費が、それぞれ300万円、3,000万円かかってしまう。何しろ製品というのは「作ってから売らなければならない」のだ。そして作るためには材料費がかかるから先にお金が出て行き、売った時もしくは売った後にお金をもらうことになる。こうなると、あなたの会社は100個以上の注文が入ったとたんに、手持ちの資金が不足するという意味で、会社がパンクしてしまうのだ。
 ここで「金融」、つまり「資金調達」というものが必要になってくる。もし1,000個、製品の注文をもらうことができたら、銀行などの外部から270万円を調達して(融資を受けて)、自分の手持ちのお金を300万円にしてから、材料を1,000個分買ってきて、とにかく製品を作り、そしてお客さんに納品する。これが1,000個売れるということだ。そして1,000万円(1万円×1,000個)のお金が入ってくる。
 細かい計算は省くが、この取引を考えただけでも資金調達をするのとしないのとでは、6倍くらいお金を稼ぐスピードに違いが出てくる。1万個の注文をさばくことを考えると、もっとずっとスピードの違いが出てくる。つまりベンチャーがやっている事業に火がついたときには、急に注文が殺到するようになるわけだから、このスピードを手に入れる必要が出てくるということだ。だから資金調達(広い意味での金融)は、あなたの事業の「加速器」なのだ。
 考えてみれば分かるだろう、お客さんに対して「今少しずつ生産をしていますので、3年後にお手元に製品がお届けできると思います」なんて言ったら、絶対に買ってもらえない。なぜなら基本的にお客さんは、できるだけ早くその問題を解決したいと思っているからだ。極端な例だが、コーヒーショップに行って、店員さんから、「今コーヒーをいれていますので、明日になったらお渡しできると思います」と言われたら、「じゃあ結構です」と言ってあなたは店を後にするだろう。お客さんは、今コーヒーを飲みたいのだ。
 こうして資金調達をすることによって、ビジネスの時間軸をグッと縮めることができる。会社として急拡大が可能になるということだ。では、お金を調達する相手とは、いったい誰だろうか?それは銀行や投資家と言われる人たちだ。銀行は利息という形で貸したお金の数%を手数料としてもらうことで生計を立てているし、投資家と言われる人たちはあなたの会社の株式を買い求め、将来的にはその株式を買ったときの数倍や数十倍で売却することで生計を立てている(例えば検索サービスのLycos:ライコスの初期の投資家は買った値段の3,000倍の価格でライコスの株式を売却した!)。銀行と投資家では活動の方法や付き合い方に明確な違いがあるから、これについては後述しよう。
 要は、彼らは彼らなりの打算があって、起業家が立ち上げた会社にお金を出してくれるということだ。資金調達のパターンには大きく分けて2つのパターンがあり、最初に例としてあげた「既にお客さんから注文をもらっているが、材料を仕入れるためのお金を立て替えてもらう」といったパターンの資金調達のことを「立て替え資金(運転資金)」と呼んでいる。これ以外にももう一つ「投資資金」と呼ばれるパターンがあるからそれについて簡単に触れておこう。
 立て替え資金が無くて会社がパンクするということの他に、自分の会社としては良い製品やサービスの試作品を作っているものの、なかなかお客さんに買ってもらえず、もしくはなかなか完成品を作ることができずに時間を過ごしていき、活動資金が底をついて会社がパンクするということがある。これは新しい製品やサービスを作り出しているベンチャー企業としては仕方のないことで、よくあることだ。
 試作品の材料を買ったり、家賃を払ったり、従業員への給与を払ったりしなければならないので、毎月どんどん資金が減っていき、次第に資金が底をついてくる。もっと大きいお金の場合もあるだろう。この製品は本当に売れるかどうかは分からないが生産設備を作ってこれを生産するためには何億円もかかる、などといった場合もそうだ。
 自分も共同創業者ももう貯金が底をついてお金を出せないし、家族も出してくれない。ところがあなたは、自分たちの作っている製品やサービスは、お客さんを将来きっとつかまえることができると思っている。あと2、3年かかるかも知れないけれど。そんな風に思う時があるだろう。
 こういう場合は、資金の出し手からすると、立て替え資金よりもずっとリスクの高い資金提供ということになる。お客さんから既に注文をもらっているわけではないから、本当に自分の製品やサービスが売れるかどうかはまだ不透明で、とはいえ製品を開発するのにもまだ時間がかかる。その時間を埋め合わせてくれる資金のことだ。こうした資金のことを先ほどの「立て替え資金」と比較したときには「投資資金」と呼んでいる。成功した多くの起業家たちは交渉に交渉を重ね、「立て替え資金」や「投資資金」を外部から調達し、金欠状態を懸命に乗り切ってきたのだ。
 「立て替え資金」の提供に関しては主に商業銀行が担当していて、「投資資金」の提供についてはエンジェル投資家やベンチャー・キャピタルといった投資家が担当しているので、この二つのパターンに対してどのように資金調達をしていくのかを別々に見ていこう。
出典:『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社、2014年)p.205-210から一部引用

「赤字補填」はリスクの高い借金の典型

以上で引用は終わりだ。この話の中では、健全な借金のパターンとして「立て替え資金」というものがあることを説明し、一方で、「立て替え」資金よりもずっとリスクの高い借金のパターンとして「投資資金」というものを紹介した。

コロナの中で政府が後押ししようとしているものは、実はこの「投資資金」に分類されるものなのだ。

お客さんから「もっと作って欲しい」「もっと売って欲しい」という声があるわけではなく、単純にコロナのロックダウン下で売上が吹き飛び、一方で不動産賃料と従業員の給与を払い続けなければならないことから、その赤字を補填するために、「無理やり投資性の資金を借り入れなければならない」という構造になっている。

若葉マークを無理やり高速道路に乗せる「愚」

これは危険な話だ。

そもそも毎年そこまで売上が変わらない、生活していくので精一杯というビジネスをやっている中小企業が、将来どんどん利益(キャッシュフロー)が増加して、そのお金で返済されることを前提として貸し付けられる「投資資金」に近いお金を借金することなのだから。

例えて言えば、運転免許を取ったばかりで、地図の読み方もよく分からない人が、気づいたら道を間違えて高速道路に迷い込んだようなもので、周りの車はビュンビュン飛ばしているし、どうやって出口から出て良いかも分からないことになりかねない。

それでもアクセルを踏み続けなければならないというのは、恐ろしい話だ。

店舗ビジネス:2つの大きな固定費問題

なぜこんなことをしなければならないかと言うと、とりわけ店舗型ビジネスをやっている中小企業にとっては、

1.不動産賃料を払い続けなければならないこと
2.従業員を雇い続けなければならないこと

という2つの大きな問題(2つの大きな固定費)が立ちはだかっているからであり、こうしたことに国として真摯に対応することで、運転免許を取ったばかりの人たちを、無理やり高速道路で走らせるということを防ぐことができる。

①不動産賃料問題の解決

コロナ下で、街の人通りが規制され、店舗ビジネスが店舗ビジネスとして機能しなくなっている状況下で、そもそも「駅からの距離や、不動産の前の道路に対して人通りがあることを前提に設定されている不動産賃料」を払い続けなければならないということは、そもそも理にかなわない。

そしてそれが個別の店舗、個別の不動産に関する、個別リスクということなら分かるのだが、それが今回のようなパンデミックを原因とした、社会全体の仕組み上のリスク(=システムリスク)ということになるのであれば、これをきちんと制御するのが国の仕事というものだろう。

社会や経済全体におかしな歪(ゆが)みができることを良しとせず、国が中小企業に対して不動産賃料を補填するか、不動産賃料自体を一律で50%カットするなどの方策を早期に実行する必要がある。

②解雇、一次休職問題の解決

もう一点、従業員の給与については、何もアメリカのように何でもかんでも解雇できることが良いとは言わないが、店舗で労働ができる社会状態というものを前提として契約関係を持ち、そもそも労働(時間や成果)の対価として給与が支払われるべきところ、従業員が企業に所属するという状況を維持するだけで給与をもらい続けることができるということは、上記の不動産賃料と同じく理にかなわないと言える。

だからこそ、解雇や一次休職手続きを簡便にしつつ、一方では国として失業ないし休職状況に陥った個人をきちんとサポートすることが必要なのであり、こうしたことを体系的、公明正大に行わなければ、脱法的解雇などが横行することで問題が見えにくくなり、気の弱い人が損害をこうむるというような話になってしまう。

厚生労働省が始めた雇用調整助成金は、日本的な解決策として有望だが、一日8,330円の壁が指摘されている。

2点を解決できなければ、持続化給付金の積み増しか

上記2つの問題を一気に解決することは至難の技だ。例えば、アメリカが行ったPPP(Paycheck Protection Package)という枠組みがある。

これは貸し付け、つまり中小企業から見ると「借金」なのだが、不動産賃料を払い続け、また従業員を解雇しなければ、「借金の返済が免除」されるという意味で、給付金と同じことになる。

とはいえ、不動産賃料や従業員給与に関して、実質2ヶ月半分の免除しか無いということで、日本の持続化給付金の規模に近い。

結局、冒頭のシミュレーションが正しいならば(僕の元々の専門は企業再生だ。この計算は残念ながらおそらく正しい)、持続化給付金を積みまして一気に上記2つの問題を片付けるか、不動産賃料の補填、減免を行う枠組みを準備して、さらに従業員の解雇や一次休職を容易にしつつ、最終的に失業ないし休職状況に陥った人たちの生活をセーフティーネット的に救済することが不可欠だと言える。

コロナ倒産は、「産業の新陳代謝」などではない

社会に必要とされている外食や小売、店舗サービス業をむやみに倒産させることは、「産業の新陳代謝」などでは決してない。

僕はFacebookやnoteで繰り返し主張しているが、デジタルだけの世界などは存在しないのであり、外食や小売、フィットネスクラブなどサービス産業といった基本的な生活を支えるビジネスが、インターネット上の「上前をはねるビジネス」を成立させていたことを再度認識するべきだ。

経済というのは複層的にできていて、とりわけ最も基本的な層が崩れると、その他の層も崩れてしまう。特に物理層(外食や小売などの店舗や、サービス産業)が崩れると、これを作るのにはデジタル以上に「お金」と「思い」、さらに「時間」がかかる。

そしてその手前で、その上に成り立っていたビジネスも崩れてしまう。

政府は、国家・経済システム問題として解決を

ロックダウンを1ヶ月延長するということは、中小企業経営者にとって「たやすく受け入れられること」では到底無い。

昨日も書いたが、コロナ問題のボトルネックは、いくつかの科学技術によって解決されつつあるものの、いずれにしても、この問題が長期化することは避けられないのであり、その間に国の産業基盤、生活基盤を整えるために、中小企業に「間違った投資資金」を借りさせてはいけないと僕は思う。

持続化給付金というのは、「何にでも使って良いお金」と見えてしまうので、国としてやりにくいことは理解する。

一方で、明らかに不動産賃料だと特定できる資金、明らかに従業員の雇用維持と分かる資金については、これを直接・間接にサポートすることで、個人がコントロールできない、国家・社会システムの問題を、構造的に解決することが必要だ。

(記事終わり)

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