脚本家 × 作詞家 × 漫画家 × アナウンサー 対談⑨ 作家性と人間性について〈後編〉

学生時代からの知り合い同士だからこそ語ることが出来る作家性と人間性について〈後編〉


ちゃんと引き立てるし、尚且つ自分の想いを捨てないというバランス

小山:自分の世界に入ってしまって自分の言いたいことを言おうとするアナウンサーっているじゃないですか? そういう人ってぶっちゃけた話、冷めるんですけど、久美子の実況の場合は、自分の感情を短い言葉で伝えて「そうだな」と思わせてから解説に入るから全部興味を持って聞けるなっていう印象があって、ちゃんと引き立てるし、尚且つ自分の想いを捨てないというバランスも取れているから、やっぱり人間性が出るんだなって感じました。

 

高瀬:本当に職人ですよね。喋りも、言葉のチョイスも、状況判断も、職人技。凄腕のギタリストのギタープレイを見ている感覚と一緒です。

 

村田:本当にアナウンサーという仕事が天職だと思います。パーソナリティーを務めているラジオに僕がゲストで出演したときも雰囲気を作ってくれてとても話しやすかったし人柄がやっぱり大きいのか、大学のときに一緒にラジオ番組を作ったときや読み合わせをしたときから声が良くて聞き取りやすくて。テレビで活躍している卒業生の方が大学に来て、在校生に向けた講演でよく覚えているのが「大学生活のときと同じことを将来なんやかんややっているよね」と言っていたことで、大学生活中に「あぁこの人ちゃんとやっているんだ」と思ったら今もちゃんとやっているし、同じサークルだった2人(平井と高瀬)もそうで大学生と同じことをやっているのかなと今、話を聞いていて思いました。

 

小山:確かに久美子と飲み会の席で一緒になって気まずいと思ったことは1回もない……。話しやすいと思っていました。

 

平井:この4人だけに限らず、5年経って10年経ってみんなこれくらい頑張っているからもっと自分も頑張らなくちゃと思わせてくれる仲間がいるのは有難いですよね。


自分自身としては、自分という人間性が作家性として作品に出ていると思う?

高瀬:好きなものとか性格とか趣味とか思考や考え方が作品に出るんだなと続ければ続けるほど思います。

 

平井:人生経験みたいなのを、どこからインスパイアされるのですか? 自分の人生ってひとつしかないじゃないですか? 色んなジャンルの歌詞が書けるのはなんでだと思いますか?

 

高瀬:その作品やキャラクターから共感できるものをみつけると親近感が沸いて、自分自身のことのように思えるので、“共感”は凄くキーワードになっていると思います。

 

小山:僕の場合は、賞を取った2つの作品はオリジナルでしたが、その2つは自分の経験から派生して作ったかもしれません。原作があるときは、原作を凄く大事にして書こうというチームのときは原作のいい部分を拾って、原作のこのキャラクターだったらこういうことを言うんだろうなって共感で膨らませることが出来るんですけど、それが出来なくてもどかしいときも正直あります。

 

高瀬:村田さんはどうですか? 村田さんこそオリジナルで勝負をしている人だから人間性がまさに出ていると思いますが……。

 

村田:出そうと思って出してはいないですね。ただただ描きたいものを描いて、それがオリジナルになるのかなって思っています。逆に作詞家さんや脚本家さんはオリジナルを出したいというのはあるんですか? 自分を出したいのか、それとも出さない方がいいという線を引いているのか? 本当は出したいのにと、心の中では思っているとか。

 

高瀬:私は、大学生のときにコピーライターの養成所に行っていてコピーライターも良いと思ったけど、作詞に比べるともっとクリエイティブで自己表現が出来る部分が少ないと感じました。だから私の中では、作詞がアーティストな部分とクリエイティブな部分が丁度良くて、自分も出すこととオーダーに応えて作ることのバランスが良いと思っています。

 

小山:脚本でいうと、原作の素晴らしさを伝えたいという気持ちもあるけれど、0から100までちゃんと自分で作れたと思えるオリジナルの方がやっぱり遣り甲斐というものが大きいですよね。例えば、「連ドラ、原作ものでゴールデンです」と言われるのと、「地域発ドラマで単発なんですけど、オリジナルです」と依頼が来たときの嬉しさはイーブンくらいです。

 

高瀬:つまり、「連ドラ、全国放送、ゴールデンでオリジナル」というお話が来たらめちゃくちゃ最高ということですね?

 

小山:泣いて喜びます(笑)

 

村田:オリジナルの方が良いですよね。なんやかんや。

 

小山:やりたいけど、その状況が整ったらプレッシャーで書けない……みたいな(笑)

 

高瀬:自由すぎてもそれはそれで緊張しちゃう面も正直ありますよね。

 

小山:プレッシャーはありますよね。原作ものを5回くらい続けると「あぁ……オリジナルが書きたい」と思うし、オリジナルが5回くらい続くと「原作ものを書いて自分を軌道修正したいな」と思います。天気のように変わりますね。

 

高瀬:私もきっちりしたオーダーに合わせる案件と自由に任せられる案件の両方がある方が良いです。

 

小山:ある意味、本当の意味で自由にやらせてもらっているなと思うのは、原作ものを選ぶこともオリジナルを選ぶことも出来るという自由は、凄く遣り甲斐があると思います。

 

高瀬:確かにそうですね。村田さんだったら基本的にはオリジナルを描くことが仕事ですもんね。場合によっては、コミカライズみたいなものもありますが。


みんな反復する、コピーするという点で同じなんですね。

小山:ずっと疑問だったのですが、アナウンサーの人はどういう訓練をしていますか?脚本家だと、上手い人の脚本を書き写して体に覚えさせるというトレーニング法があるんですよ。知識も色々仕入れなければならないことに加えて、自分の話し方や言葉選びの磨き方で、日常生活の中で心掛けていることやトレーニングの時間を用意したりしていますか?

 

平井:自分の喋りを録音したり、他の人の番組を聴いたり、過去の映像を観たりします。まさに脚本家と共通点なのが、上手いと思う実況を文字で書き起こすことです。発声や発音とかは、訓練としてアナウンススクールへ通って身に付けました。

 

高瀬:私も学生の頃によく歌詞を書き写していましたね。

 

平井:漫画もじゃないですか? 素体でしたっけ? 100体描いたと言っていましたよね?

 

村田:漫画もめちゃくちゃ描きました。めちゃくちゃ模写りました。素体という裸のような人体のようなやつがあるのですが、それをたくさん書きましたね。漫画家は、イメージしやすいとは思いますが、アナウンサーも脚本家も作詞家も変わらないんですね。みんな反復する、コピーするという点で同じなんですね。

 

平井:みんな筋トレしているんですね……。アナウンサーは、アナウンススクールがありますが、みなさんスクールとかに通っていましたか?

 

高瀬:音楽関係のプロの人に見せたり、作詞家の人が書いている作詞の本を読んだりはしました。でも、プロの歌詞を見て分析して自分なりにオリジナルを書いて自分なりに考えて向上させるという独学の部分がほとんどです。

 

平井:やはりアナログな努力がそこに……。

 

村田:漫画のスクールはないので独学ですね。

 

平井:漫画は、編集という見てくれる人がプロですからね。しかも、その人が選んでそのまま担当することがほとんどでしょうし。脚本は、脚本講座みたいなものがありそうですね。

 

小山:脚本のスクールがあって、スクールに入ったことはあります。運よく早めにデビューが決まったので、在籍半年程度でしたが。そういったカルチャースクールでも学べますし、大学でも脚本コースがあれば勉強できます。「馬鹿でエロいものを書きなさい」というアドバイスもしてくれたのも日芸のカリキュラムからですね。

 

高瀬:脚本とアナウンサーは学べるコースが日芸にあって、2人は実際に大学で学ぶことが出来ましたからね。歌詞と漫画のコースはそもそもなかったので。よその大学にもないと思いますが。

 

平井:脚本コースでは、ひとりひとりに「あなたは〇〇系」というようにアドバイスしてくれていたのですか?

 

小山:自分をよく見せる言い方になっちゃうけど、他の学生と違って僕の場合は、作品を見てもらう回数を増やしたから言ってもらえたんだと思います。

 

平井:やっぱり積極性が大事ですよね。

 

高瀬:4人とも卒業するときは、人生あとは進むのみで希望でいっぱいというよりは、不安を抱えまくっていた状態だったと思うのですが、目標に向けて積極性があるタイプだから今の自分があるのかもしれないですね。卒業してしばらく経つ今だから言えることですが、ずっとやりたかった仕事に転職して活躍している人も結構いて、人生って大学を卒業するときだけでは、想像していた以上に全然分からないもので積極性次第で切り拓かれるものもあるんだなぁと思いました。


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