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仕組みづくりよりも、まずは自らなってみる

先月末、当社の決算だった。
ペレットストーブ事業をメインにする現在の体制になってから、13期が終了した。おかげさまで黒字決算の予定だ。そしてペレットストーブの通算の販売設置台数は、これもおかげさまで490台を超え春までに500台に達する。一軒一軒の家を確認・検討し、一通一通の見積書を作成し、一台一台のストーブを設置工事してきた。業者販売ではなく、片道90分以内で行ける地域のお客様への直接販売なので、一つ一つ手間をかけて信頼関係を築きながら販売する。正直、ホッとしている。

2011年に失業して、そのとき私に残されたのは「ワインツーリズム」だけだった。これに何とかしがみついて食って行こうと思った。ただ、これは2008年に地域活性化を目的に立ち上げた非営利事業だった。その仕組みはこうだ。「ワインを単なる商品ではなく、産地を表現する地域資源と捉える。これにより産地外の人々は産地を訪れることでワインをより深く味わえ、産地の魅力も知ることができる。そして産地の人々は自らの価値を再認識して、より魅力ある地域になろうとする」。地域資源による産業振興と地域の意識改革によって社会を変えよう(地域が自立する)とする。これが地域から始めた「ワインツーリズム運動」である。つまり、これで食っていく為には、この運動を営利事業にしていくための工夫が必要だった。

そこでいろいろ考えた。
ワインツーリズムという仕組みを他の地域資源にも活用しよう。例えば、山梨の他の地場産業に応用しようとか、他県にも展開しようとか。そうだ、「ワインツーリズム日本」構想を立ち上げて社会起業家になるんだ!全国各地に出向いてワインツーリズムの仕組みを講演してまわり、どうしたら自分の事業(儲け)に結びつけられるか試行錯誤した時期がある。しかし、実際にその仕組みを使って儲けられるのは、その地域の主体者だった。ワインツーリズムで言うなら、ワインづくりに関わる人々、ワインの原料となるブドウをつくる人々、ワインを売る人々、その他にも交通や宿泊など地域の産業に関わる人々だ。いくら仕組みを教えても、私はその地域の主体者にはなれない。私はと言えば、1回10万円ほどの講演料をいただいて終わりです。
これを事業化する手段として、まさか大手広告代理店みたいにコンサル料をもらう?そもそもワインツーリズムは、行政とか大手とか先生とか「“頭のいい人々”に頼る地域づくりはやめよう」と思って始めた運動なんで、それは絶対ないんです。それよりも、各地に行ってその地域の課題を聞いていると、まだまだ残ってる自分の地域の課題のことが気になって、こんなところで10万円の講演料もらって喜んでる場合じゃねえな、と思って社会起業家は1年ほどでやめました。

若いときはどうしても、大きく社会を変えたい、おれならできるかも?と思いがちだ。大人たちもちやほやしちゃって、行政も補助金なんか出しちゃって、派手なイベントで社会を変えようと思いがちだ。自分の生活や行動はさておいて、仕組みづくりを考えたがるものだ。なぜなら若者は、経営者なら社長交代も、サラリーマンなら昇進も、子育ても、住宅ローンも、ともすれば結婚さえも、大きな選択と現実を背負い込む前の自由な身だからだ。しかし、そういうものを一つ一つ選択するときに、また一つ一つ背負い込んで現実に対峙したときに、これまで大口叩いて語ってきた自らの考えとの矛盾に出会う。はい、ここからが勝負。一つ一つ真剣に悩もうではないか。

仕組みづくりよりも、まずは自らなってみる。
社会起業家として、仕組みづくりで社会変革を考えていた私は、自分自身の変革はさておいていた。仕組みによって地域が自立するどころか、失業後の自分の事業さえ定まらないまま1年が経過していた。もう「さておく」のは辞めにしよう。まずは自ら地域の主体者になってみる。まずは自ら事業をしっかりやって自立する経営者になってみる。そう心に決めたらあら不思議、それまで半信半疑で営業していたペレットストーブが2年目に売れ始めた。
まずは自らなってみる。地域経済を語るなら、ネットでばかり買ったり売ったりしてないで、まずは自分がその地域で商売してみる。地域教育を語るなら、まずは自分の子どもを地域の学校に行かせてみる。地域の自立を語るなら、補助金使って派手に事業やイベントをするのではなくて、まずは自分の身の丈で借金してコツコツ返していけるだけの力をつけてみる。

そうして初めてホッとする。
年取って背負い込むものが多くなって、現実の中で不自由になったわけではない。まずは自分が主体者になれたことで、世間からの信頼が増し、自信もついてきて、ようやく自由になれたのだ。社会を変える仕組みづくりを、自由に語ることができる自分になれたのだ。これを私は自立と呼ぶ。

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