【短編脚本】私たちのホトトギス
< 登場人物>
吉江
千代子
羽柴（マスター）
○バーにて
吉江と千代子、マスター（羽柴）がいる。
行きつけのバーであり、月に一度、二人はここで飲んでいる。
吉江 千代子
千代子 ん？
吉江 私、絶対前世織田信長
千代子 え？何が？
吉江 私、前世織田信長だと思う
千代子 はい？
吉江 これ、まじ
千代子 待って待って。前世が織田信長って、何！？
吉江 直感。… 前世じゃないな。前前前世？いや前前前前/
千代子 意味わかんない
吉江 絶対信長だって。小学生の時、教科書で織田信長が出てきた瞬間なんか心臓がバクバクしてさー！
千代子 それ、恋じゃない？（笑）
吉江 違うの！まるで自分を見ているかのような気持ち？勉強嫌いだし歴史も全然好きじゃないのに戦国時代のテストだけは満点でさ！身体が勝手に覚えてるっていうか。
千代子 それたまたまでしょ。私も歴史といえば戦国時代が最初に出てくるよ。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。
吉江 そんなんじゃないんだって！
千代子 マスター、どう思います？
マスター、グラスを拭く手を止めて、
羽柴 吉江ちゃんがそんなに言うなら信長なんじゃない？
千代子 え、信じるの！？（笑）
吉江 マスターはやっぱり分かってくれる。
千代子 でもさ、ほら織田信成？
羽柴 元スケート選手のね。
千代子 そうそう。信長の子孫なんでしょ？
吉江 うん。だから？あの人は子孫なだけでさ、生まれ変わったら全然違う人になりたいと思うんだよね。
千代子 うーん…
吉江 きっともうさ、令和になってまで争いごとなんかしたくないのよ、私のココにいる信長も。
吉江、胸に手を当て、心の声を聴く。吉江を見る羽柴。
羽柴 生まれ変わった「令和の信長」は幼稚園の先生か…。
千代子 … うそくさっ！
吉江 まじなんだって！！！
千代子 信長が幼稚園の先生！？ありえないありえない（笑）
吉江 私の心がそうって言ってんの。
千代子 そんなことより！秀光くんのことだよ！
吉江 あーそうだ。
千代子 そうだよその為に呼んだんだから。
吉江 なんか進展あった？
千代子 それがさ… 未だ未読無視。
吉江 え！？千代子が告白して以来！？
千代子 そう。こんなに待ってるのに。
吉江 何も連絡ないの！？
千代子 ないよ。あんなに優しかったのにいきなり…。
吉江 告られて未読無視する男… やばいな。
千代子 どうしよう～絶対嫌われた。
吉江 もう一回連絡したらいいじゃん。
千代子 未読なんだよ！？無理だよしつこいって思われるじゃん。
吉江 だからって待ってるだけなの？
千代子 うーん…。
千代子、スマホを見つめる。
千代子 マスターは私の立場だったらどうする？
羽柴 え、俺！？
千代子 待つしかないよね？
羽柴 んーそうだな… 。返事がないならとりあえず俺は電話するかな。
吉江 電話か。
千代子 私そんな勇気ない。
羽柴 それでも無理なら家に行くね。
吉江 それはストーカー。
羽柴 だって答えを聞かないと、納得しないじゃない。
千代子 たしかに。でも家に行くのはちょっと…。
羽柴 待ってても時間がもったいないからさ。色んな方法を考えて、あの手この手を使って返事を聞きにいくかな。
千代子 凄い行動力。
羽柴 モヤモヤしながら生きるの辛いじゃん。
吉江 てかさ、そいつと本当に付き合いたい？
千代子 え？
吉江 人としてどーなのそれ、って思うね。「はい」か「いいえ」も答えられない、既読すらつけられない逃げ癖のある奴と、本当に付き合いたいか？
千代子 うーん、まあ確かにちょっとひどいなとは思うけど…。
吉江 ちょっとどころじゃねえよ。そんな奴こっちから願い下げだわ。相手の気持ちを考えられない人間以下の奴と隣で歩きたくもないし自分の価値を下げるだけでしょ。
千代子 …
吉江 いるんだよねーそうやって背く男が。最初は優しくしておいて、気をもたせておいて、いざこっちから気持ちを打ち明けた瞬間、縁を切る奴。
羽柴 …
吉江 いっそ土に埋めるか海に沈めて殺すか！
千代子、羽柴黙り込む。
吉江 ん？
千代子 吉江。殺すのはさすがに怖い。
吉江 そ？
千代子 あ！
羽柴 あ！
千代子と羽柴、目を合わせる。
千代子 （自分を指さして）鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス
羽柴 ( 自分を指さして) 鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス
吉江 ( 自分を指さして)… 鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス…
吉江 ほら、やっぱり私信長なんだわ。
（完）
※こちらはstand FMの「Retro Works Radio」＃130にて放送されたラジオドラマの脚本です。
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