見出し画像

ネイマールに日本代表と対戦した感想を聞いてみた

今月6日に行われたサッカー日本代表対ブラジル代表の試合後、ネイマールと少しだけ立ち話する時間があったので、個人的に聞いてみたかったことを率直に尋ねてみることにしました。

すなわち「ぶっちゃけ日本代表はどうだった?」という質問です。
そこで話の合間に普通に聞いてみました。

僕「あのさ、日本どうだった?」
NJ「良いチームだった」
僕「良かった?本当に?」
NJ「うん、良いチームだった」

やりとりは以上です。
シンプルに「良いチームだった」という回答でした。
実際に話していた実感として、単なる建前や社交辞令だけの言葉ではないことが伝わったので、こうしてご紹介しています。

正直「もっと具体的に聞いてこいよ!」と思った読者の方がほとんどかと思います。そりゃそうですよね。もちろん僕にだってその気持ちはありました。ただ、この時はタイミング的に時間もなかったのと、何よりシーズン最後の試合を終えて既にオフモードになっていた彼にジャーナリストのような質問を続けるのは憚られたので、この話題をそれ以上掘り下げることはしませんでした。

それでも、実はこの短いやり取りだけでも、彼の口調や雰囲気も含めて色々と感じることがあったので、その話を今回は書きたいと思います。すなわち、彼のこの「良いチーム」という言葉が意味する内容について、もう少し詳しく説明を行います。



「良いチーム」という評価が持つ2つの側面

結論からお伝えすると、この「良いチーム」という言葉は2つの異なる視点で理解することができます。具体的には「ポジティブな視点」と「リアルな視点」の2つです。

①ポジティブな視点 : 文字通り「良いチーム」という評価

まずはポジティブな視点。これは文字通りの意味で、彼が日本代表を「良いチーム」と評価したということです。
上にご紹介した会話では彼のコメントを「良いチームだった」とだけ書きましたが、これは「Foi um bom time」という彼が実際に口にしたフレーズの直訳です。
ただ、この会話の実際の雰囲気(会話のテンポ、間、彼の答え方など)も含めてニュアンスごと意訳すると、以下のような感じでした。

僕「ところで日本どうだった?」
NJ「普通に良いチームだった」

日本語で言うところの「普通に」のニュアンスがあったんです。
ですので、これは素直にポジティブな話として聞きました。

というのもネイマールと日本代表と言えば、2013年のコンフェデ杯では彼の衝撃的な先制点に始まって3-0でブラジルが完勝し、翌年シンガポールで行われた親善試合でも彼の4得点による4-0でやはりブラジルの圧勝に終わった歴史があります。ちなみに最後に対戦した2017年の親善試合(inフランス)でも、ネイマールの先制PKを含む3得点でブラジルが勝っています。

となれば当然、少なくとも彼の中の日本代表戦の記憶を想像すれば、日本チームに対する評価がそもそも「bom(良い)」だったと期待するのはちょっと難しいでしょう。

だからこそ、この「良いチームだった」というコメントに少なくとも一定の値打ちは見出してよいのでないかと思います。社交辞令が全くのゼロだったとまでは言いませんが、間違いなく一定以上の実感はこもった言葉でした。


②リアルな視点 :まだ 「良いチーム」どまりという評価

というわけでもう一つの視点です。一般的にポジティブの反対はネガティブですが、ここでは必ずしも「ネガティブ」というわけではないものの、客観的で「リアル」な視点という意味で、この書き方を選んでいます。

これまで僕は数多くの日本を知るブラジル人(その多くがサッカー関係者)と日本のサッカーについて話してきましたが、ほぼ全員に近い人達が判で押したように口にする台詞があります。それは「随分よくなった」あるいは「年々よくなっている」というものです。ここで大事なのがその口調なのですが、簡単に言ってしまうと教師が教え子について語るような、もっと言えば大人が子供について語るような、あるいは良くても先輩が新しく入ってきた後輩について語るような、そんな口ぶりで語られることがほとんどです。つまり、これがブラジル人の日本サッカーに対するリアルな一般的認識なのだと思います。まあ歴史を考えれば致し方ないですね。日本人が柔道を語る時のスタンスに近いのだろうなと思いながら彼らの話を聞いています。

これが逆に対等もしくは対等以上と認識している場合、彼らは「bom(良い)」でなく「grande(偉大な)」という言葉を使います。つまり今回のネイマールも、日本は確かに「bom time(良いチーム)」ではあったけど、「grande time(偉大なチーム)」とまでは思わなかったのだろうなというのが、彼の言葉から受けたリアルな印象です。

あるいは本当に相手のレベルや実力に驚嘆していた場合、ブラジル人の多くはもっとスラングを沢山使って表現します。あるいはこちらが尋ねた瞬間の第一声で「Nossa!」という感嘆詞が飛び出してきたりします。ですので、「bom」という穏やかな言葉を選択されている時点で、衝撃を与えるレベルには至らなかったのだと考えざるを得ません。

例えば2013年のコンフェデ杯開催時、ちょうど僕はブラジルにいたのですが、日本がイタリアをギリギリまで追い詰めた試合の後、結果的には3-4で負けてしまったにも関わらず、興奮気味に日本のサッカーや戦いぶりを激賞するブラジル人の姿を少なからず目にしました。あくまで個人的な基準ですが、あの時のあの感じを彼らから引き出すことができて初めて、互角かそれ以上の戦いだったのだと判断できるのだろうなというのが僕の中の物差しになっています。

ざっくりまとめると以下のような感じです。

良いチーム :自分達が格上という前提でポジティブに評価
偉大なチーム:対等または対等以上の相手としての深い敬意
ヤバいチーム:実感として衝撃を受けて心が動いたガチ敬意

チームだけでなく個々の選手を評価するときも同じような感じです。
いずれもポジティブな評価であり、敬意を伴った表現であることは間違いありませんが、「良い」という表現にはご覧のような含みがあると言えます。誤解のないように補足すると、格下として横柄に見下しているいう意味では決してなく、純粋にほぼ自明の前提としてそういう認識をしているということです。あるいは「特によく知らないけどポジティブに評価している」時なども同じく「良い」という言葉を使います。

というわけで今回のネイマールのコメントに関しても、ひとまずこれが最もリアルな理解の仕方なのかなと考えています。


以上、ブラジル戦直後のネイマールとのやり取りから、彼の日本代表に対するコメントを「ポジティブ」「リアル」の2つの視点で分析してみました。どちらか一方が正しくて他方が間違いというのでなく、あくまで同じ事実の異なる側面です。

その上であえて言うなら、「過去→現在」という文脈においては「ポジティブ」に捉えた上で、「現在→未来」という意味では「リアル」な視点を持っておく、というのが日本と彼らとの距離感に関する、最も正確な認識の仕方なのかなと思います。つまり以前と比べて確実に前進はしているものの、まだ一定以上の距離がある、それが彼のコメントから僕が感じ取ったニュアンスでした。

というわけで、結論としては特に新鮮味のある話ではなかったかもしれませんが、他ならぬブラジル代表の大エース、ネイマール自身の言葉として聞けたということで、ちょっと詳しく論じてみました。

ようやくオフになった瞬間に試合の感想なんか聞いたのに普通に答えてくれたネイマール、ありがとう!

11月に開幕するW杯、日本代表が「grande time(偉大なチーム)」として世界に記憶される大会となることを心から期待して応援したいと思います。

それではまた。


【追記(2023年5月1日)】
 ネイマールとの出会いやブラジルでの経験なども詳しく綴った著書『東大8年生 自分時間の歩き方』が全国発売中です。ご興味ある方は是非!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?