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2013年夏、ニューヨーク(その2) ファストファッションが広がる全米で勝ち残る業態を見て歩く④

2013年夏のニューヨークレポートの2回目はローカルチェーンとグローバルチェーンの競合です。

マンハッタンのアパレルチェーンの価格対比で感じたGAPの立ち位置の変化

マーケットリサーチに行くと必ず確認するのがローカルチェーンとグローバルチェーンの価格政策です。

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そのお店の最多価格帯(業界用語でプライスポイントと言います)が見極められると、平均単価の予測も付くので訪れたお店ではいつもプライスポイントがいくらかをチェックするようにしています。

経験的にシャツ・ブラウス(またはベーシックロングパンツ)の最多価格のあたりにそのお店のプライスポイントが来ることが多いので・・・
短期間・短時間で沢山のお店を見る時は、それぞれの婦人向けシャツ・ブラウスの値札を次々に手に取ってチェックして、この価格が多い、と感じた値段を記録するようにしています。僕は記録はヴォイスレコーダーへのつぶやきが多いです。

以下、当時のメジャーなアパレルチェーンの秋物の婦人シャツブラウスの最多価格です。

$88   J.Crew, Anthropologie, Massimo Dutti(ZARAグループ)
$68  Abercrombie & Fitch
$64.50 Banana Republic
$59.90 Express, ZARA
$49.95 GAP      (当時全品30%OFF中)
$44.95 American Eagle (当時全品40%OFF中)
$39.95 Aeropostale   (当時全品50%OFF中)
    Hollister, UrbanOutfitters, Mango
$29.90 Uniqlo
$24.95 OLD NAVY, H&M
$19.80 Forever21

店舗に入って商品を手に取った時にも、違和感を感じ、調査結果を書き出してみて一番気になったのが、アメリカのファッションチェーンの横綱であるはずのGAPの価格でした。

渡米は久しぶりだったのですが、定期的に日本国内との内外価格差もチェックするためにウェブサイトで価格調査をしておりました。
当時の記録によればGAPのプライスポイントは久しく$39.95(日本円3900円)だったはず。

この39.95ドルこそ、それまでのアメリカのアパレルチェーンの価格のスタンダード、大衆価格だったと言ってもよいでしょう。
 
しかし、当時、GAPは自らがマーケットリーダーとして作った価格スタンダードとも言える39.95ドルよりも10ドルも高い49.95ドルを付けていたのです。

現地でも、帰国してからも何人かのアメリカ人と会話しましたが、そのころGAPの価格が以前よりも高くなったことが話題になりました。

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当時の僕の分析は・・・

そのころ、世界的な綿原料やアジアの生産国の工賃の値上がりで商品原価上昇を余儀なくされ、GAPは綿(コットン)にこだわって価格を上げるか、ポリエステルのような合繊を混ぜるかの選択肢に迫られた。

GAPはコットン100%にこだわり、ワンランク価格を上げ、素材の品質にこだわったリ・ブランディングに取り組み始めた。

アメリカ国内の企業としての成長ドライバーはOLD NAVYに任せ、GAPは国内では価格なりの適正規模にダウンサイジングをして利益を確保、GAPブランドの将来の活路は海外に求めるのではないか、といったところでした。

当時のその選択は、アメリカの店頭で見る限り、この政策が顧客の支持を得ているようには思えませんでした。

ちょうど、新学期前のBACK TO SCHOOLセールで全品30%OFFセール実施中だったので値上げは帳消しですが、結局、GAPは当初は高い値段をつけ、途中で全品30%-50%OFFセールにしないと売れない、待てば値下げするブランドとなってしまいます。
これ以降、全米でのGAPの凋落が始まり、現在に至る、というのが僕の印象です。

アメリカファッションチェーンの横綱であるGAPが従来よりも10ドル高めになったのに対し、当時、$39.95 をプライスポイントとしているのが、Aeropostale、Hollister, UrbanOutfittersなどの学生向けカジュアルブランド、
一方、視察の間、どこに行っても最も来店客でにぎわっていたのが、それよりも安い、$24.95をプライスポイントとするOLD NAVY(オールドネイビー)とH&M、更に安いフォーエバー21でした。

当時、米GAPが直面したアジア生産のコスト増は、日本のアパレル業界にとっても、他山の石ではなく、その後、生産地の見直しを強い、中国から東南アジアや更に西南アジアへと産地を移転しなければならなくなりました。

マンハッタン5番街を埋め尽くすH&M、いずれその波は日本にも・・

13年前の2000年に初めてマンハッタンでH&Mの店舗を見た時の予感通り、業態単体では世界一の売上規模となったH&M。
13年8月当時 全米で278店舗を展開。同社の出店国の中では、国別売上シェア、1位のドイツに続き、アメリカが既に2番目に高いシェアで、引き続きアメリカを世界の出店強化国の筆頭に挙げていました。
GAPが価格を上げ、アメリカ国内のマスファッションのプライスリーダーはオールドネイビーに変わり、それに対して、H&Mはオールドネイビーと同じプライスポイントで、世界のトレンドファッションを提供するポジショニングを確立しました。

5番街のセントラルパークの南、ファッションリーダーストアであるバーグドルフ・グッドマンあたりから、アバクロ、GAP、ユニクロ、ホリスター、ZARA、H&Mとグローバルチェーンを覗きながら南下していたところ、H&Mのこんな大きなビルボード広告を発見しました。

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 WE HAVE FIFTH AVENUE COVERED. 
 私たちは5番街に集中出店をして埋め尽くしつています。まもなくタイムズスクエアに6フロアーの11店舗目が開業します。とでも訳したらよろしいでしょうか?

 世界で家賃が最も高い立地のひとつであるNYマンハッタンの5番街、アメリカの中でも最も熾烈なグローバルファッションチェーンのパワーゲームの戦場で見た、同社のこの勝ち誇った看板広告に、いずれは、銀座、表参道、新宿、渋谷、池袋、心斎橋、梅田、栄、天神・・・多くの日本の商業の中心地がH&Mに埋め尽くされる危機感を覚え、H&Mと日本のファッション専門店の上手な棲み分け、立ち位置について考えさせられたものでした。

防戦するローカルチェーン、革新を迫る欧州グローバルチェーン

黒船という言葉があるように、閉鎖的なローカルマーケットにグローバルチェーンが上陸し、新しい選択肢を提示し、革新を迫ることは少なくありません。
食品のような食文化に基づくローカライズが必要なものは、ローカルチェーンが強く、外資が太刀打ちできない場合が多いですが、
ファッションについては、ファッションのグローバルトレンドの頂点はやはり、ヨーロッパにあること、商品調達はすでに世界各国にとって、グローバル化されていること、また、パリのレポートの時にも書きましたが、海外旅行が当たり前になった現代においては、ワールドトラベラーたちがインバウンド需要を創出するなどの観点からそれが十分起こることだと思っています。

2012年のヨーロッパ視察、2013年のアメリカ視察で感じたのは、H&MやZARAなどの欧州のグローバルチェーンの強さです。

長年、世界の流通業を見ていて思うのは 一般的に、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパの中でもイギリスあたりは、経済大国であり、母国市場が大きいので、その国の流通業は母国市場のシェア拡大をするだけで十分、世界的にも大きくなることが可能です。例えば、アメリカであれば、アメリカで1番になれば、世界規模でも1番になれるのです。したがって、彼らは母国最適な品揃え、売り方をします。

一方、ヨーロッパのH&MのスウェーデンやZARAのスペインもそうですが、母国マーケットは大きくないので、彼らはビジネスを始めた時からグローバルビジネスを標ぼうします。そうすると、母国最適ではなく、世界で共通して通用する商品開発や売り方を考えます。各国対応については、サイズを増やし、展開サイズを国ごとに調整する対応します。但し、同じサイズ表示であれば、世界共通とします。世界共通商品であるため、国ごとのシェアは大きく取れないかも知れませんが、逆に、多くの国に出店が可能になるわけで、また、同じ規格なので、外国からの旅行者にも買ってもらえるというわけです。

これに対して、アメリカや日本の企業が母国で大きくなり、飽和に近づいた時に、グローバル展開をしようとしても、上手くいかない、というジレンマがあります。要は、母国最適におこなった品ぞろえを海外に押し付けようとしても、そのままでは通用しづらく、結局はローカライズを迫られるからです。
そのため、グローバル統一規格を行うヨーロッパ勢よりも、ローカル対応コストがかかり、非効率で、結果、コスト高になる、販売価格が高くなる、利益面でも欧州型グローバルチェーンには敵わなくなるのです。

アメリカのアパレルチェーンは世界的には規模が大きくなれても、海外では通用しづらい、ガラパゴスのようだ、と感じることが多いです。実は、これは日本のチェーンにとっても同様です。上手く行っているのはユニクロと無印良品くらい。それ以外はアメリカのチェーンと同じ理由で高いハードルがあります。おそらく今後、中国企業も同じことに直面するでしょう。そんな背景から、グローバルの時代になると、経済大国出身のチェーンよりも、欧州チェーンの方が強くなる、というわけです。
2000年代前半まで、アメリカのGAPとリミテッドが世界1位と2位だった世界アパレル専門店売上ランキングにおいて、2009年以降、欧州のZARAのインディテックスとH&Mがツートップとなった事実が、この理屈を裏付けていると思っています。

マンハッタンではシーフードを堪能

マンハッタンでは、商社勤務時代、NY出張に行く楽しみのひとつだったオイスターバーに立ち寄りました。
東海岸はシュリンプカクテル、オイスター、クラムチャウダー、ロブスターが最高です♪

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さて、2012年欧州、2013年アメリカを視察した後、2014年は一旦、アジアの国際都市、香港に向かいます。


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