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サンタクロースの正体は

「サンタの正体ってお母さんなの?」

おう、どうしたいきなり。

夕食の準備中、ビニール袋に入った調味料まみれの鶏肉を揉みこむ息子が聞いてきた。

「違うけど、なんで。」
「学校で聞いた。」

ああ、そういう年齢になったのか。

あれだな、各家庭の格差が出てきて、欲しいもんがもらえない子供たちのやっかみやらなんやらで、純粋な気持ちを握りつぶさんとする謎の勢力の賜物だな。

「ほかの家はそうかもしれないけど、うちは違うな…だって私ももらってるじゃん!」
「…そうだった。」

そう、うちはなぜかクリスマスの朝、娘と息子と私の枕元にプレゼントが置いてあるのだ。
去年はキャラクターの日めくりカレンダーが置いてあったし、その前の年はいけ好かない顔の猫のぬいぐるみが置いてあったし、その前は…なんだったっけな。

「お父さんかもしれない。」

息子が旦那を疑うのも無理はない。
なぜか旦那だけ、プレゼントがないのだ。

「別にサンタってわけじゃないんじゃないの。ただプレゼントもらえないってだけで。」
「なんでもらえないの。」

そりゃあ、理由があるからだよ!!

「あの人はもらえる資格がないからもらってないんだよ、だって寝室で寝てないじゃん!枕元ないじゃん!ソファで猫だらけになって寝てるじゃん!サンタはいい子の元にしか来ないらしいよ、歯磨きもしないで風呂にも入らず食後にバタンキューとかめっちゃ悪い子じゃん!!来るはずない!!」
「そうだった。」

奴は毎年自分のプレゼントがないと騒いでいるけれど、寝室で就寝しないんだから自業自得だ!!

で、散々騒ぎまくってせめておいしいものがたくさん食べたいと駄々をこねてだね、やけにスーパーで肉やらケーキの材料やら買い込んでしっちゃかめっちゃかになるのが毎年の恒例なんだよ!!!

「まあ、いい子にしていたら今年もサンタは来るんじゃないの。正体とか別にいいじゃん。」

私は息子のいい子っぷりをよく知っている。
サンタは必ず来るはずだ。

「優の所はもう来ないって。」
「そういう家もあるんじゃないの。」

…小学校高学年を迎えようってあたりでサンタさんから卒業する子が多いらしいんだよね。

「海斗は欲しいものがもらえなかったらしい。」
「サンタに願いが届かなかったパターンだね。」

あんまりコミュニケーションしなくなったあたりから、気持ちの行き違いや押しつけがましい贈り物の発生率が高まるんだよね。

「僕は何がもらえるんだろう。」
「さあ…楽しみだね。」

ウォーキング中に、さんざんやってみたいと語っている樹脂粘土セットかもねえ。
おもちゃコーナーに行った時に、面白さを語ったゲームソフトかもしれないねえ。
毎日、左利き用の調理器具が欲しいと言ってるのをサンタはきっと聞いてると思うよ。
じいちゃんと対局中にぼそっと呟いた、自分の囲碁セットが欲しいって一言が届いているかも。

なにがどうサンタに伝わっているかはわからないけど、おそらくずいぶんいい人である君は、何をもらっても大喜びするのだな。

その大喜びする、感謝するのを見て、サンタたる存在が来年もまた贈り物をしたいと思うわけですよ。
サンタの贈り物をしたいと思う気持ちが、いろんな人に伝わって、また君の元にプレゼントが届くわけですよ。

ジャガイモの皮をむきながら、ぼんやりサンタに思いを馳せる。

…子どもだった私の元には、一度だってサンタは来なかったなあ。
…サンタなんておとぎ話だとばかり、思っていたなあ。

サンタの正体は、お父さんでもお母さんでもなく、子供の笑顔を見たいと願う、純粋な存在なんだと、私は思うんだよね。

サンタは子どもたちの頑張りをちゃんと見ていて、ご褒美をあげたいなあと思って、その気持ちが家族に伝わって…プレゼントが届くのだと、私は信じているのですよ。

サンタの気持ちは、きっとたくさんの人に届いて、多くの子どもたちに笑顔をもたらしていると思うんだな。

サンタの気持ちは、きっとたくさんの人に届いているけれど、届いていることに気が付かない大人は、たくさんいると思うんだな。

サンタの気持ちが届く大人もいれば、届かない大人もいるんだよ。
サンタの存在に便乗して、子どもの望まないものを渡してしまう人も多いんじゃないかな。
サンタの存在に便乗して、子どもに自分の理想を押し付ける人も多いんじゃないかな。

毎日子どもと向き合って、ちゃんと目を見て話をしていたら…ちゃんとサンタの気持ちは伝わると思うんだけどな。

毎日自分の事に必死で、子どもの顔すら見ずに生返事を返してたら…サンタの気持ちは伝わらないと思うよ?
毎日子どもの世話をしてやってるんだって、ふんぞり返ってたら…子どもの気持ちすら気が付かないんじゃあるまいか。

「ねえ、油。」
「わあ!!しまった!!ジャガイモ、ジャガイモ!!」

サンタの事で頭がいっぱいになってたら油から煙が!!!
火を弱火にし、カット済みのジャガイモを投入して油の温度を下げ…!!!

じゅばばばばばばばばば!!!!!

ひいー!!

煮えたぎる油が、ぼっこぼっこと!!!

「片栗粉入れていい?」
「ああ…うん。」

飛び跳ねる油にビビりつつ、生返事を返した私。
なべ、鍋がアアアア!!!

「…失敗した。」

ようやく落ち着きを取り戻したてんぷら鍋で少々茶色くなったフライドポテトをあげる私に、息子がビニール袋を差し出した。…片栗粉の量が少なくてゴテゴテになっている。しまった、ぼんやり適当な返しをした途端これだ、ああ~。

偉そうに子供に生返事をしてはならんと説教かましてたのは誰だよ!!・・・私だよ!!!

これでは鶏肉先生がお怒りになってしまう。
至急修正が必要だ。

「大丈夫、材料追加しよう。…はい、じゃあね、サラダ用のカニカマ裂いてもらっていい?」
「はい。」

カリカリの唐揚にする予定だったけど、ふわふわの唐揚に変更しよう。卵と薄力粉を足して、ゴリゴリ混ぜたらたぶん美味くなる、美味いはず、私の料理はすべからく美味いのだ。

そう、これから作るカニカマサラダもコーンコロッケもオニオンフライもチーズボールも豚汁も!!

いやあ、今日も晩御飯が楽しみだわ!!!

「ただいまー!あ、今日唐揚げ?!わーい!あ、うまそうなもん作ってる、もーらい!」

サンタのプレゼントが毎年もらえない旦那のご帰宅だ。

「ちょ!!真っ黒な手でつまんで食うな!!」
「行儀が悪い。」

油きりしている茶色いフライドポテトとコーンコロッケが!!!
…みるみる減っていくやんけ!!!

「手ぐらい洗って来い!!つまみ食いすんな!!汚い作業着を脱げ!!」
「食べたらお風呂はいるし良いじゃん!」

オニオンフライを指に引っ掛け、ぐるんぐるんやりながら口答えをする…みっともない大人がここに!!

ぴーぴぴー!!

「ご飯炊けた!持ってくねー!」
「ああ!!真っ黒な手で!!ジャーを持っていくんじゃない!!しゃもじを出すなアアアアあ!!」

「僕食器出す。」

何というできた息子に、できていないクソオヤジ。

今年もこいつにはサンタのプレゼントは…絶対に届かん!!!

私は怒り心頭で!!!!!
ふきんを絞って、食卓へと向かったのだった。

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