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散歩

・・・散歩に出かけましょうか。

今日はどこに、行きますか?
あの道、この道、どんな道?


この道は、どこにつながって、いるのでしょうか?

・・・ああ、この道は。

あの日通った、おせんべい屋さんへ続く道。

柿渋の塗られた、古い民家横を歩いていくと、突き当りに見える、小さなおせんべい屋さん。
パカラン、パカランと、網の上で一枚一枚、ひっくり返って。
香ばしく焼けてゆく、おせんべいのにおい。
時折香るのは、おせんべいからこぼれ落ちた、欠片が焦げる、におい。

…盆栽がたくさん入り口に置いてある。

この盆栽たちは、この香りの中、育ってきたのだな。
大切に育てられた、盆栽たちの雄姿を見ながら、散歩を続ける。


今度は、この道を行ってみましょう。

・・・ああ、この道は。

あの日通った、神社に続く道。

竹林の密集した様子が、少し怖い。
枯れた竹と、青い竹の絡まり合う様子が、無遠慮に目の前に広がっている。
子供たちが恐れることなく、その中に身を隠し、かくれんぼうをしている。

…ケガの無いように。

そう願う私は、ここで少女が指を切ることを、知っている。
大丈夫。神社の中に、やさしいお姉さんがいて、助けてくれるからね。

神社に続く道ではあるけれど、神社に行かずに、私は道を外れた。


今度はこの道を行ってみましょう。

・・・ああ、この道は。

あの日迷った、都会の道。

初めて踏んだ、都会の地。
どこか薄汚れた、冷たいアスファルトの道。
通りかかる人は皆、どこか虚ろな眼差しで。
通りかかる人は皆、どこか冷たい雰囲気で。
どこに行ったらいいのかわからず、立ち尽くしたあの道。

…私のすぐ目の前で、少女が一人、立ち尽くしている。

「何か、お困りですか。」

思わず声を、かけた。
少女は、泣きそうな顔で、行き先を告げた。

…大丈夫。この乗り換えは、難しいけれど。

私が一緒についていくから。
中央線の横を通り抜け、見つけにくい地下鉄沿線への道を共に行く。
ここは、本当に分かりにくいところに、あるのよねえ…。

無事地下鉄の駅に着いた少女は、大喜びで、私にお礼を言って、改札口へと、消えた。

私はこの少女が、無事大学について、合格することを、知っている。


毎日出かける散歩道。

毎日歩いて、ふと気が付いた。

初めて通った道なのに、なぜか懐かしい、あの感じ。

・・・それはきっと。

散歩に来た自分が、共に歩いているからなんだ。

散歩道は、時折未来の記憶に重なる。
散歩道は、時折過去の記憶に重なる。

今、私は、この道を散歩しているけれど。

いつか記憶が、重なることもあると思うの。


・・・毎日歩く、散歩道。

毎日違う、風景が、あって。


いつの日か、この道を。


思い出す日が、来るのでしょう。

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