【小説】【本】化物語を書いている作家は化物なんだよ(前編)
櫃内 様刻。病院坂黒猫。
『この名前を読めたあなた。私は「素晴らしい」と拍手を送りたい』
『この名前を読めなかったあなた。私は「私も最初はそうでした」と握手を求めたい』
初めてこの名前を知ったのは、私は中学生の時だった。
この名前のキャラクターが登場した小説は『きみとぼくが壊した世界』。
この本を初めて手に取った場所は、中学校の図書館。手を伸ばした理由は、可愛い女の子の絵が描かれていたから。
そして、パラリと小説を読んだ時、衝撃的だった。
櫃内 様刻……こいつ何で読むんだ!?
私は、ルビが入っている個所を読む。
『ひつうち さまとき』と書かれていた。
いや、読めるかぁ!!
私はこの難解な名前に対してツッコミを入れていた。
なんだこの読者に優しくない名前は!? 覚えられなくね!?
病院坂黒猫……こいつはなんて読むんだ?
いや、そのまんまだろうけど。
『びょういんざか くろねこ』とルビには振られていた。
いや、こんな名前のやつ現実にはおらんやろ!?
と、まぁ。
初めてこの小説を読んだ時は、読めない名前に頭を抱えていた。
これを書いた著者は西尾維新。
この小説で初めて私は、西尾維新デビューを果たした。
もうあれから10年以上経ち、私は、今でも彼の小説を愛読している。
読む理由は、単純で「面白いから」だ。
言葉遊び。
会話劇。
個性あるキャラクターたち(大半は読めない名前ばかり)。
彼の書く小説は、どの作家よりも個性が強かった。
国語の教科書、児童文学、一般文芸――今まで私が読んできた本の中に、
彼の書く文章を読んだことがなかった。
こんな書き方があってもいいのか、と胸が震えた。
やがて『物語シリーズ』のアニメ化によって、小説を読まない層にも認知され、多くの人に西尾維新が認知されることになる。
彼がデビューしてからもう18年。
世に出してきた本は100冊も達している。
そろそろ西尾維新のファンを指す俗称が出て来てもおかしくないと思う。
村上春樹の熱狂的なファンを指す『ハルキスト』だったり、
シャーロック・ホームズの熱狂的なファンを指す『シャーロキアン』みたいな。
(西尾リスト……ださいな。西尾キアン……なんか女性ハーフタレントにいそう)
え?今さら人気の作家の紹介っすか?
とこれを読んでいる読者もいるだろう。
まぁ、そうなんだけど。そうなんだけどさ!
今回伝えたいことは、
『この人がいかに作家として化け物であるか』というである。
物書きのストイックさというか。なんというか。
というわけで今回の記事は、西尾維新の作品紹介ではない。
彼の執筆スタイルだったり、エピソードを紹介していこうと思う。
西尾維新を知っている読者なら「そんな話知っているよ」という話もあるだろう。それに関しては只々『申し訳ない』と深々と頭を下げることしかできない。
閑話休題。
それではさっそく西尾維新の執筆スタイルや逸話を紹介していこう。
1日20000文字
西尾維新曰く、1日で書く文量は”20000文字”と決めているらしい。
400字詰めの作文用紙に換算すると50枚になる。
長編小説1冊は、作文用紙に換算すると平均300~350枚だ。
つまり、単純計算すると、1週間で1冊の小説が完成することになる。
(ただし誤字脱字の修正、校正を抜きにした場合とする)
この文字数だけで、彼の物書きのストイックさが窺える。
彼の物書き筋肉は、アスリート並みなのだ。
長編小説を執筆するというのは、体力と根気がいる過酷な作業だ。
私の知る限り、長編小説の執筆期間は平均3か月以上かかる。
彼は、それを1週間で完成させることが出来るのだ。
物書きをやっている人なら、彼のストイックさが伝わるのではないだろうか。その話を初めて聞いた時、私はその恐ろしさに背筋に悪寒が走った。これは秀でた才能と、根気よく続ける努力。
この両方が備わっていないと出来ないと、私は考えている。
ちなみに西尾維新をnoteで例えるとしたら、
『1日で10~20記事を書き上げて、それに加えて読者から100~300スキを貰える。それを毎日やってる』
と言えば、伝わるだろうか?
(※あくまでも個人的な意見です)
西尾維新、速筆エピソード
西尾維新が速筆であることは、前述の『1日20000文字』を読んでくれた人にはご理解いただけただろう。その速筆に関する彼のエピソードを少しだけ紹介しよう。
(※作品の一部ネタバレ注意)
①12カ月連続で小説を出版する
講談社BOXで『大河ノベル』と呼ばれる企画が実現された。
その内容を一言でまとめると。
「1人の作家が、1年間12ヶ月連続で12冊のシリーズモノを刊行していく」
というもので、実はこの企画内容は世界出版初となる内容である。
そして、恐ろしいことに当初はストック禁止。リアルタイムで執筆する。
『1カ月に1冊、出版できるクオリティの小説を出す』
これが作家にとって過酷な企画であることは、読者でも伝わるだろう。
まさに命を削る覚悟がなければ、このような企画に手を出す作家はいない。
しかし、西尾維新はやってのけてしまった。
それで書かれた小説は、『刀語』である。
ストーリーを雑に説明すると、『12本の刀を集めるお話』だ。
『12本の刀を集める』
このアイディアが大河ノベルの企画と相互性があり、なかなか面白い内容となっている。ちなみにアニメ化もされており、大河ノベルの企画に沿って、1カ月に1回、アニメがTVで放映された。
なお、この12カ月連続刊行を達成したのは、清涼院流水と西尾維新。
この2名だけである。
②原稿用紙1000枚分を〇日で書き上げる
「西尾維新史上、最長巨編」
「最長巨編にして、新たなる英雄譚」
上記のキャッチコピーは、西尾維新の新作『悲鳴伝』が告知された時の文である。その言葉に偽りはなく、この本はレンガのような厚みがある。
原稿用紙に換算すると約1000枚。長編小説×3冊分。
西尾維新のファンでは、最長巨編として話題になった。
本人曰く、この悲鳴伝で、「執筆ペースをページ数ではなく文字数にした」らしい。
とはいえ、最長巨編と銘打っているため、書くのに時間が掛かってしまったらしく、さすがに苦労とした言っている。
あの西尾維新がそんなに苦労したのか……。
私は西尾維新のインタビュー記事を読んでそう思った。
なんだぁ、てめぇ……?
私は西尾維新のインタビュー記事を読んでそう思った。
③3日で必殺技〇〇〇個考える
西尾維新は小説だけでなく、漫画原作も手掛けている。
漫画原作の中で最も有名なのは、週刊少年ジャンプで連載されていた
『めだかボックス』だろう。
ジャンルは、学園異能者バトル漫画。
その漫画に登場した、あるキャラクターが持っている能力の数が、
『1京2858兆0519億6763万3865個』である。
マジである。
そんなやつに勝てるわけねぇじゃん。ハッタリ強すぎるだろう。
そして、ジャンプ読者の目を剥くエピソードが掲載された。
『めだかボックス』143話にて、600個の必殺技を一気に披露したのだ。
※(画像を加工しております)
おわかりいただけただろうか?
このキャラクターの背後に並べられたぼんやりとした無数の黒い羅列。
これ、全部『必殺技の名前』である。
1Pにつき100個の技が出ている。そしてそれを6P連続やってのけた。
余すことなく、躊躇することもなく、これを話に掲載させる度胸というか、酔狂というか。リアルタイムで読んでいた私でさえ、
『バカなのか?』と思ったぐらいだ。
西尾維新の言葉遊びの狂気っぷりに笑いが止まらなかった。
連載終了後、西尾維新はあの600個の必殺技についてこう語っている。
もはやストイックの限度を越えていないだろうか?
ちなみに600個の必殺技の話の後に、200個くらい増えていったのは、また別の話。
まとめ
本日のオチというか、後日談。
まぁ、題材の通りである。
化物語を書いている作家は化物なんだよ
私はそれを伝えたかったのである。
彼の描く小説の面白さ、というよりは彼の書く物書きに対するストイックを少しでも伝わってたら幸いである。
本当は、彼のお話をもう少しだけしたいと持っている。
しかしこれ以上書くと、長くなると判断したので、後編へと続く。
……楽屋ネタになるが、いいかげん一つの記事でまとめられる構成を身につけなければいけないなぁ……。
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