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違和感 【い_50音】

【違和感】しっくりしない感じ。また、ちぐはぐに思われること。(出典:デジタル大辞泉)

僕はそれを見つけるとすぐ、その正体がなんなのかを誰かに話したくて必死に言葉を探そうとする。けれどいつも言語化できずにモヤモヤしたまま自分の中にしまいこんでしまう。そしていつの間にかそれ自体を忘れていってしまう。

「いや、そもそもさ。言語化できないから違和感なわけでしょ」
あまりの暑さで逃げ込んだ喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら彼女は笑う。
「いや、まぁそうなんだけどさ...」次の言葉を言いかけたところで「でもね」と僕の話を切り、彼女はくわえていたストローを外して僕を見て声を改めて言う。

「“違和感がある”ということ自体は言葉にできるわけでしょ。それはしっかり伝えた方がいいよ」
「え。でもそれじゃ何も言ってないことにならないかな?相手に悪くない?」

「そうそう。違和感と言えばね」
僕の質問には答えず彼女は続ける。いつものことだ。

「レミオロメンの『粉雪』って歌があるじゃない?あの歌がなんでヒットしたか知ってる?」
もちろん僕が知るわけがない。そんなことより、よく35度も超えるこの酷暑に冬の歌が思い浮かぶものだと感心しながら続きを促す。

違和感よ。サビの頭、“こなぁゆき~”って声を張り上げるでしょ。あの違和感がまさに、売れた要因なの」

そう言い切られても意味がわからない。正直にそう言うと彼女は首を振りながら「粉雪って、言葉だけ聞くとどんなイメージ?」と聞いた。

「儚いイメージかな。ハラハラと儚げ気に落ちてくるイメージ」少し悩んでそう答えると彼女は

「でしょ。だから普通に考えれば、粉雪という言葉であんなに声を張り上げようと思わないでしょ?でも理由はわからないけど張り上げちゃった。それも思いっ切り。声が裏返りそうになるくらい。それが聴いた人の中になにか引っかかるものを生むわけ。それが売れた要因なの」

「いや待って。違和感があることはわかったけどなんでそれが売れた要因になるわけ?」
「え。だってミスチルの桜井さんが言ってたもの」
なるほど。ミスチルの桜井さんが言うならそうなのかもしれない。引っかかるものはあったけどそういうことにした。

「何かが引っかかること。それが違和感の正体。そして違和感は人に何かを残すのよ。大事な何かを。だから違和感にはちゃんと向き合わなきゃダメなの。自分の中にしまってはダメなの」
彼女は満足そうにそう言い切ってコーヒーを飲み干した。
「何か」ってなんだよ。そう言いたい気持ちをおさえ、違和感を残して僕らは喫茶店を出ることにした。

帰宅し、先日観た『万引き家族』のパンフレットをパラパラとめくる。

この映画でパルムドールを受賞した是枝監督はインタビューで、『万引き家族』が最近の是枝作品と違い社会に目を向けたものだと問われるとこう答えていた。

ええ、社会へのある違和感から生まれた作品だったかもしれません。そうやって怒りで作られたものはやはり強いんです。喜怒哀楽の中の怒で作っているものが、僕の中で何作かありますが、それは結果的に強い作品になっているので、時々怒ることは大事なんでしょうね(笑) (出典:『万引き家族』パンフレット)

たしかに違和感は何かを残すのかもしれない。

ありがとうございます。 サポートって言葉、良いですね。応援でもあって救済でもある。いただいたサポートは、誰かを引き立てたたり護ったりすることにつながるモノ・コトに費やしていきます。そしてまたnoteでそのことについて書いていければと。