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【読書メモ】人と組織の課題解決:『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』(中原淳著)第2章

『人材開発・組織開発コンサルティング』の第2章を読んでいると、立教の修士時代のグループワークを思い出し、反省しきりでした。立教LDCでは、クライアントを自分たちで探して人材開発and/or組織開発の側面から支援する介入研究型のプロジェクトを行う「人材開発・組織開発論Ⅱ」という授業があります。私が参画していたグループでは、あるベンチャー企業の社長をクライアントにして、現場での育成力強化をテーマに取り組みました。その際のケースを差し障りのない範囲でベースにして、本章での学びをまとめます。

現場の課題は変化する

まず中原先生は、本章において、現場で取り組むべき課題とは理想と現状の差である、としています。授業でも習いましたし、コンサルの方はもとより、多くの課題解決系の企業研修で習ったことが多いでしょう。

私は、ある時点での現場における人と組織に関する課題を把握することは苦手ではありません。自慢というわけではなく、新卒入社した会社でのコンサル経験を皮切りに、その後の事業会社での人事全般にわたる職務経験を経た二十年の人事キャリアがあれば普通だと思います。

授業の時も、課題を把握して取り組むべき領域のプレゼンをした際の反応は悪くなかったと思います。が、大きな落とし穴に気づいていませんでした。現場の課題は絶えず変化するという点です。

最大のポイントは、実世界では、「現状(Asis)」も「理想(Tobe)」も「課題」も、常に変わりうる可能性を持っている、ということです。

p.65

現場では、私たちが取り組むべき課題が整然と留まっていることはありません。与件だと認識していた前提が他のアクションによって変わり、課題も徐々に変化します。

他方で、外部支援者として課題解決の一旦を担う私たちは、日常業務や生活での様々な対応があるため、コンサル案件の手離れを良くしたいという動機が正直あります。そのため、一旦、課題と解決策をセットで捉えたら、あとは粛々と実行してしまいたい気持ちが生じます。当時の私は、こうした誘因に負けてしまい、課題と解決策を静的に捉え過ぎてしまいました

同社の社長とはその後も懇意にしているため、私たちの打ち手は悪いものではなかったのでしょう。ただ、もっと良いものにはできたという不全感が残り、「課題は変化する」という中原先生の記述を読み、反省しきりでした。

科学知:実践知=30:70

続いて反省したのは、科学知の用い方についてです。中村雄二郎さんの『臨床の知とは何か』を本書では引きながら科学知と実践知について解説されていますが、修士の授業でも同書は紹介され、慌てて積読状態だったものを読んだ記憶があります。

DXや生成型AIの話題が盛んな現在、ビジネス現場において科学知に対する過剰な期待は高まっているように感じます。かくいう私も、博士課程に入ってから定量研究に勤しんでいるため、科学知への期待値が高くなり過ぎていたのか、以下の記述を読んで頭が冷やされました。

経営学などでは、高度な統計を駆使して「人々が経験している現象」と「人々の行動」の間の関係をさぐりますが、たいていの場合、その現象のうち30%くらいを説明できるモデルがつくられれば「御の字」ということにされています。

p.72


上記の箇所に続けて、金井先生(神大名誉教授)による同様の趣旨のご発言も載っています。説明範囲が最大でも三割というのは、日本企業ではないフィールドにおける知見を援用したのであれば、文化差などを勘案するとさらに説明できる範囲は狭くなりかねないということを意味しています。

もちろん、「三割しかない」と悲観的に捉える必要はありません。中原先生も、後続する記述で、三割も分かっていれば大失敗することを防げるとも考えらえるとしています。なんでも数値化するのではなく、科学知をひたすら信じることもせず、実践知と折り合いをつけながら取り組みたいものです。


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